ブランド対談 #01

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ブランド対談 #01

グローバル・マーケティングとブランド戦略 日本企業の10年

グローバル・マーケティングとブランド戦略 日本企業の10年

大石 芳裕氏
明治大学経営学部教授
陶山教授はブランド・マーケティング研究の第一人者、大石教授はグローバル・マーケティング研究の第一人者として、ともに欧米企業や日本企業のブランドとマーケティングを研究しておられます。 今回の対談は、これからの日本企業のブランド戦略についてオピニオンリーダーとしての展望を語っていただきました。
日本企業「ブランド」の夜明け
陶山: 1990年にアメリカのUCバークレーに留学した際に、D.A.アーカー(ブランド論の世界的権威)という先生に出会ったんですが、当時アメリカでは1980年代にM&Aが活発化して、企業のブランドには資産的価値があるという考え方が登場しはじめていました。これを見て、ブランドって面白そうだ、宝の山だと思ったんです。

でも企業はどうやってブランドを構築すれば良いのかとか、ブランドが消費者や企業にとっていかなる意味を持つのか、どういう役割があるのか、つまりブランドがどんなプロセスで企業の競争優位の源泉なのかということまでは、その当時としてはまだ明確にされていなかったんですね。

それが少しづつ、ブランドには企業の価値をあらわすことと同時に、経営者のミッションは、つきつめればブランドを継承して次世代に引き継ぐことにほかならないということが意識されるようになってきました。

当初は広告業界が中心だったんですが、今日ではメーカーや流通、サービスなどあらゆる業種にも広がってきました。ある意味ではブランドはまさに今日の社会の基盤であり、生活の根幹や規範になっていると言えるんじゃないかと思いますね。

企業にとってブランドの意味合いはますます大きくなっているし、それなくしては、企業はビジネスが語れないところまできています。ブランドは単なるネームとかシンボルやマークだけでないということなんですね。

大石氏:たしかに以前はブランドと言っても、マーケティングの一部として、たとえば製品の名前であるとか、あるいは広告の目的の一つとして扱われていたんですが、D.A.アーカー以降というか、ある時ブランドが前面に出てきました。1980年代のM&Aがブランド価値に大きな関心を呼びましたね。

たとえばある大手自動車メーカーを調べてるみると、2000年くらいまでは自分たちはブランドを意識して行動してこなかったとはっきり言うわけですよ。だから「○○ウェイ」を作って世界中に普及させようとした。日本企業がグローバルに向けて理念を作り出したのはほとんど2000年代に入ってからなんです。

企業の理念を共有化して、グローバルブランドを作るためのいわゆるベーシックを、あの「○○ウェイ」という言葉に込めていたんですね。他の大企業も、それにとりかかるのにかなりの時間がかかっていた。陶山さんが気付いてから10年以上経っているわけです。

陶山: 1980年代には「日本的経営」が国際的ブームになり、「メードインジャパン」の国際競争力が欧米、特にアメリカを凌ぐようになってきました。

自動車や家電などの分野で日本はアメリカのビック3やGEなどを追い抜きました。その当時、終身雇用、年功序列、企業別組合に代表される日本的なビジネスのやり方というのも注目されましたが、それ以上に「ものづくりの力」が最も大きかったんですね。

でも、最後まで欧米の企業になかなか勝てなかったのが、「ブランド」なんです。企業と製品だけでなく、それ以上のものが「ブランド」だということに気が付いたのは90年代にはいってからです。

大石氏:そうでしょうね。

陶山: 日本では2000年に入ってようやく企業のビジョンとミッションの中に、いわゆるステークホルダーの価値をどうやって高めていくかということが課題とされ、そうした流れの中でマーケティングだったりブランド戦略が少しづつ論じられるようになったんですね。

大石氏:ええ。でも日本の企業は本当のところはね、心底理解はしてなかったと思いますね。今でも理解していないと思いますよ。

陶山: そうですか(笑)

大石氏:先日、日経新聞にも載ってましたが、シャープの奥田隆司新社長が就任する前の記者会見で、シャープに足りなかったのはマーケティングだと言われていました。これからはブランド志向の経営をやらなければいけないということを仰っていますね。「いまさら」の感もありますが、正直な感想でしょう。

言葉としてはブランドが重要だとか、マーケティングが重要とか言っても、やっぱり今までの日本企業っていうのは、「いいものを安く作れば欧米の先進企業に追いつき追いこせる」と思っていたのでしょう。たしかに70年代80年代は、欧米の先進企業に追いついてきて、やれルックイーストだ、セオリーZだの、エクセレントカンパニーだと評価されてきたわけですよ。

その成功体験が90年代も尾をひいて、ブランドやマーケティングが頭では大事だとわかっているんだけど、本音ではわかってなかったと思う。もちろんD.A.アーカーの本も出てるしね、陶山さんも著書に書かれているし、知識は増えたけど経営そのものは変わっていなかった。

陶山: そういう中で2002年にブランド戦略研究会を立ち上げました。今年で10年、60回以上、関西・関東問わずさまざまなメーカーや流通企業・サービス企業など、大手企業や中堅企業の方の話を聞いてきました。お話をされた方の部門をみると、やっぱり「広報部長」や「広告宣伝部長」だったり「マーケティング部長」なんですね。4年前にシャープの方が初めて「ブランド戦略室長」という肩書きでお話されたんです。

おそらくこの10年間、ブランドや戦略的ブランドマネジメントというものが、全社的なミッションと関連づけられて議論されていたわけじゃなくて、マーケティングだったり、広告や広報の一環として議論されていたということなんですね、つまり経営トップがブランドにあまりコミットしてこなかったということなんです。
「ブランド」と企業トップマネジメントとの距離感

大石氏:僕が2004年に「グローバル・ブランド管理」という本を出したときに共著者が調べたんですが、ブランド管理の組織ができたのは多くの企業で2000年前後なんですね。

ところが組織の中をいろいろ調べてみるとそんなに力がない。組織はできたけどマネジメントという点ではやっぱりいろいろ問題がある。まあ企業によって温度差がありますけど。

ところが欧米企業には、ブランド管理室とかブランド推進室なんてほとんどないんですよ。

陶山: あ、そういうのない?

大石氏:ええ、ないんです。なんでかというと、欧米企業ではトップマネジメントから現場まで、ブランドを中心に経営が成り立っているんです。

もちろん欧米企業には、CMO(チーフマーケティングオフィサー)はいて、日本企業にはほとんどいないんです。 日本企業の場合、ブランド重視という考えをしてこなかったものだから、敢えてそういう組織を作らなければならなかったんだと思います。

当時インタビューに行ってみると、本当は社長直轄にブランド推進室を作りたかったんだけど、実際には広報の中に作られてしまって、予算も権限も限られていたというのが結構多かったですね。

陶山: ある企業のブランド戦略に携わっている方の話を聞いたときに、ブランド戦略部門がトップ直轄下に置かれ、企画や商品開発、広告や広報といった各部署を全社横断的な形で繋げてマネジメントされていました。

ただそこでもやっぱりスピリッツが込められてないというか、制度や組織といった「形」はあるんだけど全社的なムーブメントになってなかったという反省もなされていたようです。

大石氏:もちろん企業がそうした組織を作って、自社のブランド管理を推進していこうというのはいい傾向だと思いますから、僕らとしてはどうブランド管理を推進していくかということ応援する立場になるんだけど、彼らが悩んでいるのはそれを実質どう業務に落とし込んでいくかなんですね。


ブランド構築に関する細かいデータを見せてもらったりするんですけど、ある大手家電メーカーの場合、実にそれが面白いんですよ。

たとえばブランド構築となると、いい製品作っていい広告やってと、「表のブランド構築」に精を出すんだけど、その企業はむしろマイナス面を徹底的に調べるんですね。何が足を引っ張っているのかを調べる。外部の調査機関を使って調べてみると、同社のある部門のサービスが悪いということが出てくる それを徹底的に改善する。VOC(お客様の声)あるいはVOS(サービスマンからの声)を調べて、それを商品開発に活かして品質を上げていく。品質とサービスの両方を同時に改善された。

この地道な作業をいつからやったんですかと聞くと、2005年に始めたそうです。顧客満足度のランキングではかつて最下位だったものが、2008年から3年連続ナンバーワンになったそうです。しかし2008年ですよ。

陶山: 3年もかかってるんですね。

大石氏:その企業がブランド構築を始めたのが2000年頃だったとして、効果が出るまでにはものすごい時間がかかっているわけです。

多くの日本の企業の場合、頭ではわかっているけれど、それを実務業務にどれだけ落とし込んでいるかというと甚だ心もとない。大企業でさえね。もちろん以前から意識している企業はあるにしても、グロ-バルな点で見ると、その弱さは明らかに出ていますね。それがブランドランキングの低下です。

陶山: ある大手家電メーカーでブランド戦略に携わっておられて、新興のアパレルメーカーに移られた方のお話を伺う機会が最近ありました。以前の会社はグローバルブランド企業でしたが、組織が巨大化していたこともあって意思決定のスピードが遅かったようです。日本型企業社会ではポピュラーかもしれませんが。

でも今の会社はすごくフラットだと仰るんですね。常に経営トップが即断即決する。それが良いか悪いか別にして、そういう経営におけるスピード感って大事です。トップのブランドに対する考え方が広報や企画、営業、製造など、他の部署に伝わりやすくなっているようです。

そうなると経営トップのもとで、全てがグローバルに展開されるようになってくる。もちろんマーケティングあるいは組織のありかたも重要ですが、ブランドを戦略的にやるためにはなによりも、経営トップのリーダーシップが重要だと思いますね。

大石氏:先ほどの家電企業の取締役の方は、幸いにも当時の会社の規模が小さかったから、品質とサービスの両方を見ることができた、と仰るんですね。

もっと規模の大きな企業だったら、大きすぎて無理だったでしょうねと。今はその仕事を離れておられるけれど、本社には品質とサービスを一人がみる体制は変えてくれるなと伝えてこられたそうです。

そういうトップマネジメントがブランド意識を強く持ってるかどうかっていうことなんですね。にも拘らず、いくつかの企業の社長交代をみてもね、どこまでわかってるかなと今でも僕は懸念をもっています。

陶山: インナーブランディング(対内的ブランド戦略)とアウターブランディング(対外的ブランド戦略)というのがあって、企業をとりまくステークホルダーを意識しながら、どうやって企業全体にブランドのDNAやアイデンティティを浸透・達成させるかという問題がありますね。

経営トップの継承の在り方を見ていると、やはり内側のロジックが一番プライオリティが高いんですね。総務とか企画とか財務の出身の方がトップになるケースが多い。広報部門の出身といえば、日本を代表する自動車メーカーが初めてですね。

企業内外のコミュニケーションをベースにしながら企業の価値やビジョン・ミッションを考える発想って特に日本の場合は少ないですね。
新たなプラットフォームのニーズと展望

大石氏:ブランド戦略経営研究所は社団法人化されて、どういう形で企業をサポートされていくんですか?

陶山: これまでのコンサルティング会社やシンクタンクというのは、ワンウェイでナレッジを提供したり、情報を発信することが中心だったんですが、今回このブランド戦略経営研究所を社団法人化するにあたっては「経営とマーケティングと知財」の三位一体化を掲げています。

また当研究所の会員企業同士がフラットかつオープンに、ブランド戦略の立案と実践やマネジメントを共創していくことが一つの大きなビジョンでありミッションとなります。

巨大企業だけでなく、ブランド戦略にそれほど関心のなかった中小企業や地域に対しても、研究所がプラットホームになってサポートできる体制をとれたらと良いのではと思っています。

本部事務局は関西・大阪ですから、アジアに向けてのグローバル・ブランドの展開に立地面で有利ではないでしょうか。関西からブランドの風を、日本全国やアジア、世界に吹かそうという強い意気込みですよ(笑)

大石氏:なるほどね。そのプラット化、オープン化、参加型というのはホームページに載せておられるけれども、社団法人として存続するためには対価が必要になりますね。

通常のシンクタンクなんかだとレポート発行しますとか、講演会を開催しますということになるんだろうけど、それだけじゃつまんないというのが陶山さんの考えでしょ?

陶山: 定期的に定例研究会や講演会、フォーラムなど開催するだけでなく、今後はいろんな情報やデータといった会員向けコンテンツをHPやブログ、また出版物を用いて提供していこうと思ってるんですね。

同時に、ブランド戦略経営研究所というプラットフォームを使って、会員企業同士でプロジェクトを立ち上げ、お互い連携しながら調査・研究をしていく。その中で生まれた情報や様々なデータを会員にフィードバックしようと思っています。

たとえば、あるメーカーと一緒にプライベートブランドの調査をします。欧米の企業をみるとメーカーと流通との関係はかなり大きくて変わってきてるし、アジアも変わってきてるいます。そういう現状をふまえながら、メーカーは今後自社のナショナルブランドをどう強化していくのか、またその中でメーカーと流通企業がどういうスタンスをとっていけば良いのかを研究しています。

もう一つは地域ブランディングの観点から、九州のある公共の宿を活性化する目的で、観光と集客についての調査をやっています。さらに食事や設備やサービスなどを改善して、どうやればうまく経営的にも採算を改善していけるかという受託研究もやっています。

また、これも行政からの依頼なんですが、食育。これを都市や地域のブランディングという視点から進められないかという調査の依頼もきています。

これまでも、小売業の東アジア進出をどう考えれば良いのか、昨年の東日本大震災以降、消費者や生活者のライフスタイルはどう変わったのか、それに対応して企業はブランディングをどう考え、いかなるコミュニケーションを組み立てていけば良いかなどの調査を広告代理店と一緒にやっていったりしています。

これらのプロジェクトは、会員企業や研究員と一緒に考えて進めています。

大石氏: なるほど。でもそういったプロジェクトが増えてくると、選任のスタッフというか、かなり研究者レベルの人が必要なのでは?

陶山: そこは大石先生やお弟子さんの応援も期待しているんですけど(笑)

大石氏: 専門的な仕事になると、経験や知識をきちんとまとめてレコードしなければならないので、かなり大変ですね(笑)

陶山: 当研究所ではいろんな方が会員になっておられご協力いただいています。調査ということになると、一方で欧米の動向がどうなってるかとか、学会の最新動向の理論をふまえることも必要になるんですね。

理論的なバックグラウンドがない調査研究は、やっぱり「これってどんな意味があるの?」と不安になりますね。そこをきちんとすること。調査そのものについても、それなりのスキルや全体のナレッジがないとやはり難しい。グループインタビューをやったりネット調査もするんですが、定性専門の調査会社も当研究所の会員になっておられ、ご協力いただいています。

ブランド戦略経営研究所というプラットフォームの下でいろんな調査研究を行いながら、それを実務に活かしていく。さらに知財・特許の面においては、どうやって商標や意匠として登録していくのか、から実際に自社のブランドをどう守るかまであります。最近は海外のいろんな特許侵害の問題があるので、これからは防衛的だけでなくアクティブな知財戦略を考えていかなければいけない。それらを具体的な調査研究活動と会員とのコラボレーションの中でできればと思っています。

大石氏:企業のブランド戦略や知財戦略をサポートするということですが、それは企業からの依頼があってからやるものですか?それともなんらかの情報発信をしながら、会員の皆さんにこういうサービスがありますよとアナウンスするのですか?

陶山: 両方ありますね。知財分野の方というのは、法務や総務などの部門ですから、あまりマーケティングや営業の経験をされていない方が多い。実際に商品開発の場面で、どういうネーミングをしたらいいかとなったときに、いくつか使えるネームがあったとして、最終的にどれを選ぶかというのはマーケティングの仕事、または商品開発の仕事だということになるんですね。

でもそこに知財分野の方も、自身がマーケティングマインドとブランドマインドをもう少し持っていただくことが必要かなと思いますね。

こちらのほうからはマーケティングの情報やコンサルティングを提供して、知財分野の先生方からも、いろんな問題定義をしていただくと面白いんじゃないかと思っています。

大石氏: 大企業の場合は、自社に法務・知財部門があるから知財戦略を組み立てられますが、中小企業となるといろんな面で難しいでしょうね。

特許や商標・実用新案などを実際出すにあたっても、特に今みたいに先願主義が世界的に主流になってくると、中国なんかがどんどん先願してブロックするといった問題も出てきますからね。

陶山: 中小企業で法務関係に十分な経営資源をかけられない場合には、当研究所が知財専門の方を紹介するなどのサポートの業務をしていこうと考えています。さらにそこから、マーケティングや経営についても、当研究所の会員ネットワークを通じて繋ぎ合わせていけたら良いですね。

知財というのは大企業だってうまくいかないこともありますし、中小企業でも成功されているケースもある。先日研究所の定例会でお話いただいた金属工具メーカーの社長は、ご自身が特許関係の資格をとっておられます。ただ、なかなかそこまでする方は多くないので、そこを当研究所がサポートできればと考えています。

大石氏:知財というのは国内でも大変ですが、グローバルにはもっと大変。僕の研究会でも以前、中国人の弁護士の方に報告していただいたんだけど、僕らの想像もつかない別世界で、専門家でなければとてもじゃないけど対応できないと思いましたね(笑)

陶山: 知財って発想が全然違いますからね(笑)

大石氏:だけどそれを知った上でマーケティングはやらなくちゃいけない。基本は僕はマーケティングだと思うんです。ブランド志向のマーケティング。それを法務的にサポートすることが大変重要だと思うんです。

偽モノが次から次に出てくるから、徹底的に叩かないかぎり一気に広がってしまう。「もぐらたたき」と同じでコストもすごくかかる。でもそれをやらないと自分のブランドが海外で使えないといった大きな問題が起ってきます。今はもう中国だけじゃないですからね。インドネシアでもインドでもベトナムでも同じようなことが起っています。またそうした実情を知らないと大変なことになる。みんなそんなところで戦っているわけです。

だけど、このブランド戦略経営研究所が今後、委託研究なり会員の方々とのコラボで成果を出していけば、日本企業のひとつの指針になるのではないかと思います。

INTERVIEW
お二人は企業のブランド戦略室やマーケティング部署の方々に、実際に実施された戦略の手法や成功事例の内部ロジックといった、いわば企業秘密にされるような内容のお話を、競合企業も含めた他企業の方々に「伝える」という場を提供されています。これは、これからはブランドやマーケティングの考え方や視点を内外のコミュニケーションとして学んで欲しいという狙いがあって行っておられるのでしょうか。

大石氏: 私のグローバル・マーケティング研究会でいうと、2種類のタイプがあります。

一つのタイプは企業内で現役でバリバリ活躍されている方々で、自分たちのやっていること、悩んでいることをシェアし、仲間と一緒に考えていこうと考えていただく方々です。毎月の例会に150人くらい集まりますから、いろいろな意見が飛び交います。60分間の質疑応答が報告者にも参加者にも、大いに有益になっていると認識していただいているようです。

もう一つのタイプは大手企業の元社長や元経営陣の方々で、今の日本の企業に対する危機感を持っておられます。今の日本企業をみても、自分達の会社をみてもまだまだだと。これを啓蒙したいという思いをお持ちなんです。だから学生やほかの企業人の為に無料でも良いから話しますよと仰るんです。問題を皆で一緒に考えようと。そういうお気持ちですから、クローズにしないでオープンに話していただけるんです。 

まあ、全部が全部じゃないですけどね。「やっぱりそういうところで話すのはちょっと・・」という企業さんもいますから。でも以前に比べたら随分オープンになってきたと思います。 僕らがグローバル・マーケティング研究会を作ったのは1999年、陶山さんがブランド研究会を作られたのとほぼ同じ頃なんですね。

当時はホントに少人数で、「え?グローバル?」「グローバル・マーケティングって何?」って感じだったんです。これが数年続くんです。でもこの数年間でガラリと変わりましたね。

陶山: その頃は、企業が海外進出やグローバル展開をする中で、欧米企業のように歴史や伝統といった長年にわたって蓄積されたものがあるわけではないので、自分たちのビジネススタイルや考え方が正しいのかどうかを客観視できなかったんですね。社内での各部門間も結構閉鎖的で、異業種交流的な要素がほとんどなかった。

それをぶち壊して外に出してみようという動きが出てきたんですね。とはいえ企業秘密はある程度ブラックボックス化するけれど、できるだけ客観化していくことで、自分達の評価を考えようとした。もう一つはそのプロセスの中で、いわゆる暗黙知になっているものを形式知化すること。メンタルトレーニングじゃいないけど、今まで思いも付かなかった発想やアイデアが出てくる。実はそうだったのかといい気づきや発見があるんですね。

大石氏: ビジネスの世界には2種類のナレッジがあって、一つは暗黙知でなかなか外の人には判り難いもので、もう一つは形式知で、何をやらなければいけないかは判っているけど、なかなか「模倣」ができないもの。つまり、聞いたところで自分でやろうとしてもなかなかできないものです。 

前者は外に出したくても出せないんですけれど、後者は出しても他ではなかなかマネできない。 たとえばトヨタの「かんばん方式」はこうですよと、トヨタはそのしくみをオープンにして広めていますね。でも聞くほうは、それが良いと判っていても、全部それをマネしたところで、トヨタにはなれないんです。

マーケティングとかブランドというのは、暗黙知的なところがあって、一般には「アートとサイエンス」とかって言うんだけど、ほんとにアートの世界なんですよ。

アートの世界ですから、こういう形で花王がやりました、資生堂はこんな手法でやりましたと聞いても、他の企業はなかなかマネはできないんです。でも知らなかったこともたくさんありますから、「ああ、そういうことか」、「そのエッセンスはこうか」ということには気付くわけです。

欧米企業と何が違うかというと、欧米企業はベンチマークを徹底してやっているんですね。日本の企業はベンチマークなんてやったって新しいものなんかできないというんですが、違うんですよ。 ベンチマークをやることで、他社の良いところのエッセンスを知り、それを自分たちの中で改変していって、そこから新しいものを作り出す作業が必要なんです。 だから僕らがやってることというのは、その気付きやエッセンスを見つけてもらうことなんです。

僕は企業経営において、ブランドは「目的であり、結果である」と考えています。自社のブランド構築を目的として経営を行い、さまざまな取り組みの結果、ブランドが構築される。大小を問わず、日本企業がブランド志向になることを心から願っています。

大石 芳裕氏
明治大学経営学部教授

1952年 佐賀県生まれ。九州大学大学院経済学研究科 博士後期課程。研究分野:グローバル・マーケティング複合化問題・グローバル・ブランド管理・グローバルSCM

学会・研究会活動:日本流通学会 理事(前会長)・多国籍企業学会 理事・国際ビジネス研究学会 常任理事・異文化経営学会 理事・日本経営学会 アリア・エディター・日本商業学会 アリア・エディター・国際経済学会・グローバル・マーケティング研究会 代表世話人・流通経済研究会 世話人・一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 顧問

主な著書・論文:『国際マーケティング体系』(共編著・ミネルヴァ書房・1996年)・『グローバル・ブランド管理』(白桃書房・2004年)編著・『日本企業のグローバル・マーケティング』(白桃書房・2009年)編著・『日本企業の国際化』(文眞堂・2009年)編著/

グローバル・マーケティングの観点から、日本企業の国際競争力構築を研究・教育している。日本マーケティング協会、日本生産性本部、日経ビジネススクール、日経BP等での講演のほか、いくつかの企業の社内研修も引き受けている。

明治大学大学院
経営学研究科 大石研究室
http://ooishi-lab.com/

グローバル・マーケティング研究会
http://gumaken.org/

取材:2012年7月

2012/07/08

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