ブランド対談 #05

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ブランド対談 #05

ブランディングの先にあるもの

ブランディングの先にあるもの

株式会社スターフライヤー
CS推進室長 川路利嘉氏
今回のブランド対談は、一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 理事長、関西大学の陶山計介教授と、株式会社スターフライヤー CS推進室長 川路利嘉氏との対談です。 川路氏は、創業時より同社のブランド戦略の基盤創りに携わり、コミュニケーション&ブランド戦略部長、東京支店長を経て、現在は顧客視点でのCS推進業務に従事されています。

スタイリッシュで先進的なブランド戦略で知られるスターフライヤー社。今期からは「LCC」という表現を取りやめ『ハイブリッド・エアライン』として第2ステージへと進化した事業展開への方針を示されました。業界未踏のハイブリッドエアラインとは何か、そのブランディングの先にあるものについて語っていただきました。
「ハイブリッド」のポジショニング
陶山: 御社は今期、ハイブリッドLCCからハイブリッドエアラインへの転換を発表されました。

川路氏:弊社は2002年12月に創立後、2006年に初就航しましてから6年になりますが、我々はもともとLCCが出てこられる前からハイブリッドエアラインという業界のカテゴリーとして、LCCと一線を画す、またレガシーキャリアとも違う展開でのポジショニングからスタートしております。

レガシーキャリアは少し高価なお値段でフルサービスを提供するといった事業展開をされていますし、逆にサービスをできるだけ削いで安い価格を提供するといった両極の展開をされているのがLCCになります。

弊社では「ハイブリッド」というところをポイントに、高品質なサービスを提供するという軸と、できるだけコストパフォーマンスに合う価格を提供しておりますので、レガシーキャリアとLCCのちょうど中間点にあるプライスゾーンですね。

陶山: 通常、詳しい商品知識ときめの細かいサービスをお客様に提供し、比較的高いお買い物をしていただく百貨店等の高価格・高品質のサービスと、スーパーマーケットのようなロープライスロークオリティといったサービスの2タイプがありまして、価格と品質との関係はおよそ45度線を描くんですが、そこでの「中間」というのは、ポジショニングとしては難しいところではありますね。

川路氏:ええ、確かにそうですし、非常に難しいポイントでもあります。

陶山: 商品やサービスの二極化、あるいはビジネスモデルの二極化などが昨今言われる中、その「中間」にはどのようなお客様がおられて、どのようなビヘイビアを育てる心理的な価格構造があるのか、あるいはそれに対してどのようなブランド戦略をするのかという点についてお聞かせいただけますか。

川路氏:就航する前に「感動ある航空会社になりたい」という事業理念を掲げ、それを実現するためには、お客様の不満がどこにあるのかをきちんと感じ取り、そこをベースにした事業を組んでいかないといけないと、徹底した不満足調査を出発点にしております。またその事が弊社の業界での差別化の基点になっています。飛行機を利用する際に、お客様が一番不満に思ってらっしゃることは、とにかく窮屈であると。

時間と距離が長くなればなるほど、窮屈さを感じていらっしゃる。あと、移動の時間を有効に使えないというお声も多く、ほとんどのお客様が移動に不快感を感じていらっしゃるし、機内の環境にご不満をお持ちだということがございました。

陶山: 確かに。エコノミー症候群になるのもわかりますね。仰る通り、如何に快適な空の旅をお客様に実感していただくかというのは、おそらく航空サービスの非常に需要なテーマだと思います。

川路氏:ええ。快適さの提供を基点にして、何ができるかと社内で検討しまして、まずは座席をゆっくり設けて、くつろいでいただくということが弊社の希望的ベネフィットの最大のポイントになります。

通常A320ですと座席数は170席から180席くらいあるんですが、それを144席もしくは150席にしまして、シートピッチも他社さんより15,6センチ広くなっています。

その他に、そのゆったりした空間で、快適に1時間や1時間半を過ごしていただくための一つの機能として、映像や音楽などを楽しんでいただくといった周辺のコンテンツをご用意しています。

あと、搭乗されてコートやジャケットを脱ぎたいと思っても、シートベルトのサインがついていると立てないということがございますから、座席のそばにコートフックも作ったり、ドリンクサービスでも、実際にテーブルに置かれて少し揺れたりすると、こぼしてしまうお客様も少なくないことから、カップホルダーをおつけしたり。

また、夕方になると仕事疲れもあって、ゆっくり足を延ばしたいという方のために、足ふみマッサージ機能のついたフットレストもございます。

陶山: それは素晴らしい(笑) 至れり尽くせりですね。

川路氏:そういった機内での細かい部分も、お客様が感じるいろんな不満を徹底して洗い出して逆に強みにしていこうとしたんです。そこをレガシーキャリアと今後出てくるであろうLCCとの差を先につけていったことが出発点でもあります。

陶山: 御社の場合は比較的短距離になりますね。最長は1時間半くらい?

川路氏:そうですね。2時間弱くらいです。

陶山: 2時間弱の空の旅をそこまで快適にしてしまって良いのかという気がしますが(笑)

川路氏:当初はお客様にも非常に好評を頂きまして、「良いね」「良いね」と仰っていただいていたんですが、6年経ちますとお客様もだんだん慣れてこられてしまって、次は何?と待っておられるといった状況でもあり、プレッシャーも感じております(笑)

陶山: なるほど。お客様の要望が高まってくるんですね(笑)

川路氏:ええ。どんどん希望が高くなってくるんです(笑)

陶山: レガシーキャリアとLCCと比べると、今はどのくらいの価格差になってるんですか?

川路氏:どのレガシーキャリアよりも15%以上はお安い価格を設定しています。あと運賃割引に関しても、レガシーキャリアと同様、2ヶ月前からご予約頂ける運賃から、前日でもご予約頂ける運賃までありまして、その各運賃帯でもすべて15%お安くすることをプライス設定の機軸にしています。

その背景には、できるかぎりバックグラウンドでコストを抑えようと、機材もリース契約で常に新しい機材でシャトル運航しておりまして、機材を購入して時間が経てば経つほどメンテナンスに費用がかかるという、通常で考えた際のコストをかなり圧縮できることが一つあります。

陶山: なるほど。

川路氏:そこは非常に就航率にも影響する部分で、コストダウンというポイントがもあるのですが、やはりきちんと飛行機が飛んでいることです。

陶山: 定時に離発着することですね。少し遅れてくると、あとからどんどん遅れてきますからね。御社の場合着陸して次に離陸するのは40分くらいですか?

川路氏:40分から45分くらいですね。

陶山: その間に客室乗務員の方も清掃作業をされてるんですよね。それでも40-45分くらいで離発着は充分できるものなんですか?

川路氏:逆に定時を守るためのギリギリの時間でやってるということですね。

陶山: なるほど。ではレガシーだとどのくらいの余裕があるんですか?

川路氏:おそらく40~45分というのはほぼ同じかと思うのですが、清掃などのオペレーションもさることながら、運航する機材にゆとりがあるという事があります。

何かあって少しでも遅れそうだとか、メンテナンスに時間がかかりそうだとなると、すぐ代替機が飛ぶようになっています。そこに少し我々と違った余裕の展開はされていると思います。

陶山: もちろん安全運航という大きな課題がありますが。

川路氏:弊社も、なんらかの事情で時間がかかりそうだとなれば、すぐにお客様に移動していただけるように来年には予備機の導入も検討しております。

陶山: 日本生産性本部協議会の日本版顧客満足度調査(JCSI)で、国内長距離でナンバーワンになられましたが、他社と比べてどのあたりで評価を得ていると思いますか?

川路氏:我々としてはまだまだ本物ではないと理解しています。といいますのは、3年連続で顧客満足1位になったとはいえ、当社をご利用する前には「お客様は当社にさほど期待していない」と考えています。

しかし、実際ご利用いただいた後の「意外と良かったね」といった感覚と価値が、最初の期待度とのギャップが大きいという部分で「評価が高い」という。

陶山: 期待が低ければ低いほど、「満足度が高い」となることもありますからね(笑)

川路氏: そうですね。評価いただくのは非常に有り難いことなんですが、やはり出発点の期待度をもっと高めたいですし、さらにそれを上回る満足度を高めたい。最後はやはりロイヤリティですね、ロイヤリティもそんなに低くはないんですが、逆に高くないですから、次に繋がるためには、お客様がまた次の搭乗を期待されるような、なんらかの施策を考えることが課題ですね。

陶山: ロイヤルティ、つまりお客様に継続的に利用いただくためには、例えばどの部分が一番キーになると思われますか?

川路氏: やはり今まで我々が、お客様のご不満に基づいてご提案させていただいたサービスが、6年経って少し、当たり前になってきているという課題がありますし、お客様の動線上に於いて当社にしか出来ないサービスを進化させることですね。そこがキーになるかと思います。

陶山: たとえばTDL(東京ディズニーランド)のように、お客様の期待を裏切らない、また期待以上の感動や喜び・驚きを与えたり、常に鮮度を保ちながら提供されているということが、お客様がリピートする大きなバックグラウンドにあります。他社よりもこちらにと、どんどん鮮度の高い新しいサービス、新しい感動や喜びをどう提供するかがキーにもなりますね。かといってコストをかけてしまうとレガシーと同じになるかと思いますけれど。
ブランドメッセージを誰に伝えるか

川路氏:やはり基点に帰りまして、お客様の不満はどこにあるかということだと思うんですね。実は2005年に不満足調査をした結果、お客様の大きな不満点で踏み込めていないことが一つあるんです。

これは当初、つまり最初に取り組んだものがある程度浸透した次の段階で取り組もうと考えていたんですが、お客様が他の交通機関と、何が優位性になると感じておられるかというと、時間。でも実際利用すると時間が読めないということなんです。

飛行機は早いと思って乗ったのに、遅れる頻度が他の交通機関と比べて多く、出張の予定がなかなか細かく組めない。お客様はこの事に強い不満を持っていらっしゃるし、ここを掘り下げてサービスに反映していかなければと。

陶山: それは地上での所要時間をタイムリーにということになるでしょうが、お客様をお待たせしないで機内まで誘導することや、チケットサービス、あるいは荷物のピックアップを迅速にするといったこともありますが、どこが一番ポイントですか?

川路氏: 仰るように、定時にお客様をお届けすることが一番ですが、やはりその前後、出発地から到着地までをトータルで考えることが必要ですね。たとえば羽田空港の場合ですと、京急を降りてから弊社カウンターにチェックインしていただくのに距離で1キロ以上。そこをお客様は15分くらい、お荷物を抱えて歩かれますから、時間も労力もかかりますし。

陶山: LCCだと滑走路まで出てもまだ先がありますしね。

川路氏: ええ。そこを考えると空港の施設を、というところもありますが、航空会社として、ご利用いただくお客様に労力がかからないことが、何かできないかと考え始めたところです。

陶山: なるほど。御社の場合、これまでブランド戦略を積極的に展開されてこられましたが、そういう面では?

川路氏: 調査したデータの中に航空業界をイメージされる際に、「航空業界ってなんかセンス悪いよね」という声が非常に多かったんですね。座席ってなんであんな柄形なんだろうとか、キャビンアテンダントの制服もデザインが古くさいとか。特に女性の方々からの厳しい声が多かったようです。

改めて、如何に移動で快適な気分になっていただくかという最後の仕上げは、やはり機内だけじゃないんですね。いろんな建築物や施設でも同じだと思うんですが、快適性を追求するとデザイン性も重要なポイントになってくる。

当社の場合キーカラーに「黒」を選ぶと同時に、「洗練されたコミュニケーション」で統一していくことになりまして、業界のデザイン性の稀薄さを逆に強みにしていこうということになりました。広告やPR・プロモーションに関しては特に我々の先進性を積極的に出しています。

陶山: 御社の資料にあるポジショニングマップで見ますと、2007年と比べて2011年では、「個性的」や「洗練されている」といったところが微妙な数字になっていますが。

川路氏: ええ。そこは社内的に危惧しております。2009年度まではセンスやスタイリッシュといった、先進性という当社のブランドアイデンティティを軸にしたお客様へのアプローチを徹底してして実施してきましたが、2010年からここ数年に関してましては、就航路線をはじめ、新規展開に掛かる費用を増やすほうにコストの配分を強くしたこともあり、ブランド戦略を少し弱めたところはあります。そこでお客様の評価を分析してみると「あら?」という評価が返っているというところですね。

陶山: 設備や備品什器などハード中心にしたファンクショナルなベネフィット、つまり機能的なメリットをご提供することと、御社の評価で見る「センスが良い」「お洒落である」という御社が当初考えておられたようなブランドメッセージを、サービスやホスピタリティでどう伝えるかということは、「車の両輪」ですがなかなか難しいですね。

しかもハイブリッドとなると、コスト圧力に対するスケールメリットも必要になり、且つお客様の満足度を高めようと思うと、かなりOne to Oneマーケティング的な要素を高めていかないといけなくなりますね。

STPマーケティングからOne to Oneマーケティングに進むようにセグメンテーションされた或いは特定したお客様にきめ細かいサービスをしながら、一方でスケールメリットを効かせる必要がある。

ある程度お客様をグルーピングしてターゲットを絞り込んだ上で、マーケティング資源の投入を選択的に集中するとか、何か工夫や改良を加えないと、それこそお客様ごとにきめ細かく対応していくとなると、おそらくハイブリッドどころか・・

川路氏:それはもうレガシーですね(笑)

陶山: レガシー以上にコストが上がってしまいます(笑)

川路氏: そうですね。一つ手法としては、他の会社さんと比べて足りないとすれば、マイレージの囲い込みですね。

本来、航空会社にとってお客様を顧客化するために、マイレージというのは大きな要素となっていますが、我々としてはもちろん、組織はレガシーと比較して全員組織して脆弱なのは否めません。

正直なところ最初の段階では、お客様は我々にはそれを求めていない、求めていないはず(笑)だと思っていたんです。とは言いながら、進めていくうちに「やはりマイレージは大きいよ」と。

陶山: それはそうですよね。スターアライアンスなどの航空連合を見ると、やはりマイレージサービスは大きいでしょう。

川路氏:我々としても、まずマイレージの組織をどう作るかが直近の課題です。全員組織の定義や今後のサービスも含めて、移動の際のサービスをどう全員組織に繋げていくか、またどういうターゲティングをして、最終的な顧客の囲い込みに繋げていくかというところを、我々なりのやり方を確立することがポイントになりますね。

陶山: 家電量販店のポイントサービスは、最終的に値下げ効果と同時に自社商品の再購買に繋げることで顧客の囲い込みになっているんですが、はたしてそれがお客様のリピートするための感動や夢などの提供というメリットに繋がっているのかというところは問題で、量販店なども見直しを考えているところです。

また流通小売業などのカード会員というのは、本来それで「チラシ」を減らすためだったりマスマーケティングのあり方を変えていく手法の一つでもあったはずなんですが、まだまだ「チラシ」もDMも減っていない。

また、レシートでクーポンなどもやっていますけれど、お客様の個別ニーズにきめ細かく対応した満足の提供とリピートに繋げていくというのはなかなか難しく大きな課題になっています。それにはかなりの規模でデータベース・マーケティングをきちんとやらなければいけないし、それには膨大なコストもかかりますしね。

川路氏: レガシーキャリアもマイルをいろんなものに交換できたり、なにかに利用できたりと非常に考えられていますが、それと同じことをしようとしても結局私どもは体力がありませんから、お客様から見て大手さんよりはチープな組織になってしまいます。

そこで我々の地元が九州ですから、九州のお客様が一番喜ぶかたち、また九州の中にもいろんな生活スタイルがありますから、お客様の属性に応じたマイルの集め方、還元のしかたを考えていこうと考えています。

陶山: 御社の創設にあたっては、地元九州の企業の方々が出資されたこともありますし、いわゆる地域性を背負っておられる部分もあると思いますが、地元経済活性化や観光などへの取り組みや、地域社会への具体的なフィードバックについてはどのように考えておられますか?

川路氏:2つありまして、CSRといった大きなものではないのですが、地元の行事や催事には出来る限り足を使って皆さんのもとにお邪魔していこうとしています。ある意味PRでもあるんですが、PRというより地元の皆さんと一緒になにかを作っていければと思い、積極的に参加しています。

それと元々運賃体系の中には、九州のご出身や九州在住ということを証明いただければ、いつお乗りいただいてもお安くしますという「Q割」というサービスもございます。ここも当初はお得だと思っていただいてたんですが、今は他の運賃が安いこともあって見直しの時期でもあります。

陶山: 地元の方々がサポートするサッカーや野球のサポータークラブのようなものがあると、他の企業よりも地元の企業を積極的に利用しようという、そういう応援の仕方もあるでしょうね。そうした地域を基盤にしたコミュニティづくりはブランディングにとっても重要な要素かと思います。

川路氏: 「Q割」も今、福岡と北九州しか飛んでおりませんので、熊本など他県のお客様には馴染みが浅いということもあります。国際線も就航しておりますが、その前にやはり九州から羽田へというところをもう少し厚くしたいこともありますので、路線の拡充と共に総合的なファン作りに取り組むタイミングかと認識しております。

次のブランド戦略へ
陶山: ブランドに関わるいろいろな調査会社やコンサルティング企業の方々ともお付き合いをお持ちだと思いますが、なにか私どもの研究所を含めて、今後のご期待はなにかありますか?

川路氏:業界や地域全体でブランディングをといった場合、我々の企業の位置づけは全体を作る際のパーツであると思うのですが、全体を俯瞰したところの調査に基づいた、なにか地域を動かす基点を作っていただいて、ぜひ我々を巻き込んでいただければと思っています。

陶山: パナソニックさんや日清食品さんなど関西発祥の企業は、東京に本社機能をお持ちでもやはり地元関西に愛される企業でありたいと思っておられますね。またローカル企業としても強固な基盤を持ち、その地域の中で秀でた特徴を形成していかないとなかなかグローバルな企業にはなれません。

海外の方からは、関西っていったいどういうエリアなのかというと、近代的と伝統的の両軸の次元があるけれど、なにかラテン系のノリや面白さや楽しさがあるんですね。「コテコテ」と悪く言われることもありますけれど。

「ラテン系」といったような新しい軸と切り口を作ってしまえば、そういうエリアとして注目を浴びていく。ですから御社も九州の新しいブランドの次元や軸を作ってフロンティアとしてやっていくと素晴らしいんじゃないかと思うんです。

川路氏:そこはぜひ九州でも説いていただきたいですね。そういう強いものが土地に根付いていけば、もっともっといろんな方面から、それこそ世界からお客様が来ていただけるでしょうね。

陶山: せっかく東アジアへの国際線にも出ておられるのですから、ドメスティックエアラインとしての部分と同時に、グローバルへ出るエアラインとしてなにかポンと突き抜けるようなものを持っておられると良いのかなと。日本の航空会社といえば、機能的な面、定時運航や安全運航では非常に充実していますけれど、なにか面白味が無い。

川路氏:面白味が無い・・ですか(笑)

陶山: ええ。もっと積極的にエモーショナルな次元で先進的な方向性を打ち出していかれるといいんじゃないかと。

川路氏:そのヒントになるのはやはり、先ほどの「ラテン系」のノリでしょうか(笑)

陶山: そうそう、ラテン系(笑) ブランディング戦略の立案のお手伝いをするときにいつも申し上げるのですが、東京の二番煎じでは結局「小東京」になってしまうだけなんですね。

やはり違ったものをどう打ち出すか。大阪だとヨシモト・阪神タイガースに代表されるように、陽気で明るいイメージですけど、それはそれで充分認知度がありますから、それを如何に磨いて情報発信するか。

つまり知って、磨いて、語る。「知る」「磨く」「語る」この3つを如何にうまくブランディングの中に取り込んでいくか。やはりそのためにはブランド資産がどういうものかを知っておかないと次のステージにはいかない。

また知るだけではだめで、そのブランドのアイデンティティやパーソナリィを磨いて、さらに磨いたものをどう語り部を中心にして発信していくかという。「知る」「磨く」「語る」というのはコミュニケーションとしても大事です。

川路氏:なるほど。大阪は面白い方の多い土地柄ですから、皆、漫才してるのかと思うくらいノリと突っ込みをされますよね(笑)

陶山: 川路さんはどちらのご出身ですか?

川路氏:鹿児島です。明治維新な感じです(笑)

陶山: ああ。薩摩隼人な感じですね(笑)

川路氏:面白味が無いんです(笑)九州は綺麗きれいなところ、美味しいところはたくさんあるんですけど、面白いなあというところは無いかもしれませんね。関西の方っていつも楽しそうでいいなあと思いますけど。

陶山: どうせ長くない一生なので、楽しくワイワイ言いながら人生を過ごしていこうじゃないかというポジティブ発想ですが、ネガティブな要素はいっぱいありますよ(笑) めちゃくちゃネガティブ(笑)

逆にそれを逆転の発想ということで、弱みをどう強みとしていくか。まさにこれが鍵だと思いますね。

学生が就活で東京の企業の面接を受けるんですが、東京だから上品にしなくちゃいけないと思うんですよ。そうしたら「君は関西出身だからもっと面白いと思ってたのに」って言われてしまうこともあるんですよ(笑)「ノリのいい関西人」というブランドをもっと出せと求められるという(笑)

川路氏:そうなんですか!(笑) うちが関西発だったらどうだったかな(笑)

陶山: それにはこの飛行機はオシャレすぎますよね(笑)

川路氏:あ、そうですか(笑) この黒の機体っていうのも相当抵抗があったんですよ。

陶山: 大阪なら豹柄とかね(笑)

川路氏:エミレーツ航空は関西が初でしたね。タラップが豹柄だったりして、もう飛行機乗る前から中東のイメージができてるっていう(笑)そこですね。

陶山: それはありますね(笑)
INTERVIEW
この「黒い機体」というデザインコンセプトは、このスタイリッシュな飛行機と快適な空間を利用することが、お客様、特にビジネスユースのお客様にとってステイタスだと感じて頂きたいといった戦略ですか?

川路氏: お客様のご不満を洗い出そうとした際に、一般のご利用の方々よりもビジネスユースの方々のほうが多く、しかも多方面でのご不満をお持ちだったんです。そういう方々にご納得いただけるサービスとコンテンツをご提供しようということが基点ですから、ぜひビジネスユースの方にご利用いただきたいという期待はありました。

それに合わせて、いろいろご出資いただいた地元の企業さまにご利用いただくということも狙いとして動いたところもありますから、これに乗って東京へ行ってきたと言っていただけるような交通手段になりたいといった、経営的な観点とお客様目線としての観点と両方ありましたから、少しはそういう感じになってきたのかなとは思いますね。

たとえ価格がレガシーキャリアよりも高くとも、搭乗に時間がかかったとしても、スターフライヤーの世界感に対価を払っているんだというお客様は、「価格の割には良いサービスだね」というお客様とはまた違うターゲットとなりますね。

川路氏: 本音でいいますとそこを狙ってはいます。ポジショニングに関しては、中間層って?という位置でもありますから、本来はレガシーより角度の違うサービスで高価格をいただける航空会社というのを目指しています。

ただ最初に「黒い機体」といったなりですから、なかなかとっつきにくいところがありまして、少しソフトにアウトプットをしているというのが現状です。本音のところは、レガシーよりもっと上を行ってやるという思いはあります。そこでご納得いただけるプライスであるというところですね。

ハイブリッドという言葉はどちらかというと両方網羅されているようなイメージにも感じますが、中間の位置にあると仰っておられましたが、本来は両方目指しておられるのでしょうか。

川路氏:そうです。現状はIR上、投資家と投機家の方々に対してどんな会社なのかを説明するために出しているところもあります。ですが10周年に向けて変えていこうとしています。やはり今まで誰も経験したことがない、どこの会社もやったことがないラインですから、出し方を模索している状態ではあります。

陶山: ハイブリッドといえば、トヨタのプリウスでいうと、ガソリン車と電気自動車の両方持っていますね。トヨタも将来的にはEV車に向かっていくのでしょうけれど、今は「ハイブリッドは環境に良いしリーズナブル」というところをセールスポイントにしている。そうした両方の良い部分を踏まえながらそれらをインテグレートした、従来よりは一段と高い地平をめざすという新たなポジショニング戦略を強く打ち出すと良いのかもしれませんね。

川路氏:そうですね。お客様がご出張の際に、今日何で来たの?と聞かれて、失礼ながら、LCCで来られた方は、「飛行機で・・」と社名を言わないと聞いたことがあります。我々はそこはきちんと「スターフライヤーで来た」とちゃんと言ってもらえるようにならなくてはいけないと思っています。

川路 利嘉氏
株式会社スターフライヤー 営業本部CS推進室長

1965年鹿児島生まれ。 1988年百貨店に入社し、宣伝部・宣伝企画課長等を経験。その後広告会社でアカウントプランニング局次長兼プロデューサー職を経て2005年株式会社スターフライヤーに入社。 コミュニケーション&ブランド戦略部長、東京支店長、2010年よりCS推進室長。当社の創業時に於いてブランド戦略や広報・宣伝の基盤創り、またブランドアイデンティティ創成業務に従事した後、CS推進室の開設とともに顧客視点でのCS推進業務に従事
URL:http://www.starflyer.jp

取材:2012年10月

2012/10/31

ブランド対談 #05

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