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【開催レポート】2021年11月度 東京第18回フォーラム

デザイン経営とブランド・イノベーション:ビジネス課題、社会課題、知財

「一般社団法人 ブランド戦略経営研究所」では、関西大学東京経済人倶楽部の共催、関西大学東京センターの後援を得て「東京第18回フォーラム」を11月1日(月)に開催しました。テーマは「デザイン経営とブランド・イノベーション:ビジネス課題、社会課題、知財」です。

ポストコロナ社会においては第四次産業革命やIoT、AI、ビッグデータ等の新技術の活用をふまえながら、DXやCXなどのビジネス課題、さらにSDGsやESGに加えて安全・安心・健康といった社会課題に対応するビジネス・組織モデルおよび社会モデルの実現がますます喫緊の課題となっています。

今回のフォーラムではデザインと経営をめぐる新しい状況をふまえて、「デザイン経営とブランド・イノベーション」をテーマとして掲げ、ビジネス・イノベーションやソーシャル・イノベーションとデザイン経営との関係をめぐる現状や課題をブランド戦略の観点から議論するため、この分野の最先端で精力的に活躍しておられる三人の講師をお招きしました。

冒頭、陶山理事長からの解題提起を受け、西澤氏、小泉氏、松井氏の3名の講師の方にご講演いただき、その後、陶山理事長のコーディネーターによるパネルディスカッションを行いました。

主催者開会の挨拶・オープニングスピーチ

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 陶山計介 理事長

高木克典当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、当研究所の陶山理事長より東京第18回フォーラム開催のご挨拶、及び当研究所の趣旨・事業概要、本フォーラムのテーマ&トピックスについて説明がなされました。

陶山理事長:2002年に大阪でスタートしたブランド戦略研究会は、2012年に一般社団法人ブランド戦略研究所に改組して、そして名称もブランド戦略経営研究所に変更し、来年2022年1月に21年目を迎えます。

トップマネジメント、マーケティング、広告、広報、知財などのビジネスに役立つオールジャパンの全く新しいシンクタンクとして、次の5つの活動を中心に事業展開をしています。

1.ブランド戦略に関する日本を含む世界の調査・研修・情報収集活動
2.ブランド戦略に関する研究会・セミナーなどの開催を通した啓蒙活動
3.ブランド戦略やマーケティング、知財などに関する出版・広報活動
4.ブランド戦略に関する内外の諸機関等との連携・提携・交流
5.ブランド戦略等推進のための支援活動

本フォーラムのテーマは、「デザイン経営とブランド・イノベーション:ビジネス課題、社会課題、知財」です。デザインによってブランドのアイデンティティを表現し、製品の価値を高め、世界的な市場拡大に結び付けていくため、経済産業省・特許庁は2018年5月に「産業力とデザインを考える研究会」を発足しています。同研究会の報告書ならびに今後の方針としてまとめられた「『デザイン経営』宣言」では、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤する経営を、「デザイン経営」であると定義しています。

これまで「デザイン」が対象としてきたのは、従来のプロダクトデザインのように物の形状や、知財でいう意匠(製品やパッケージの装飾)でしたが、2020年4月に改正意匠法が施行され、建築物の外観デザインや内装デザインも、全体として統一的な美感を起こさせる場合は意匠権で保護されるように変化してきました。さらに、ユーザー体験を含む製品・サービス全体、さらに、価値創造をするためのビジネスモデル、またはエコシステムの設計なども「デザイン」の対象として含まれるようになっています。

したがって、このようなデザインと経営をめぐる新しい状況をふまえて、ビジネス・イノベーションやソーシャル・イノベーションとデザイン経営との関係をめぐる現状や課題を、ブランド戦略経営の観点から講師の方と共に議論していきたいと思います。

このようなデザイン経営は古いものではなく、経済産業省・特許庁が「デザイン経営宣言」を発表した2018年以降から、メディアに頻繁に登場するようになってきました。同時にその頃から、デザイン経営の推進に向けた意匠法改正関連の話題も見られるようになりました。

「デザインと商標・知財」は、ブランド戦略経営において非常に重要であり、ものづくりでアジア諸国に追い上げられつつある日本企業にとっては、単なる色や形の保護を超えて、経営改革につなげる切り札として期待が高まっています。しかし、商標・知財がデザイン経営の推進にどのようにつながるのか、ということはまだ十分に明らかになっておらず、議論を深めていかなければなりません。

またブランド戦略経営のためにデザインはどうあるべきか?ということを考えるためには、以下のような重要なテーマを深めていく必要があります。

  1. デザインをブランド戦略経営に組み込むというトップの明確な意思
  2. デザインが会社を変えるのではなく、会社が変わったからデザインも変わる。
  3. 会社のブランド・アイデンティティのトータルな変革をデザインによってブレークスルーし、表現する。
  4. その際、イノベーションをもたらす外部環境とブランド戦略経営上の課題の認識が重要。ビジネス課題とSDGs、ESGなど社会課題の統合。

 

以上、解題提起として本日のフォーラムテーマの解説を申し上げました。これから三名の講師の方のお話をお聞きし、さらにパネルディスカッションで本テーマを深めていきたいと思います。

陶山計介 当研究所理事長
Profile:一般社団法人ブランド戦略研究所理事長。関西大学商学部名誉教授。京都大学博士(経済学)。『ブランド・エクイティ戦略』(共訳著、ダイヤモンド社)、『日本型ブランド優位戦略』(共著、ダイヤモンド社)、『よくわかる現代マーケティング』(共編著、ミネルヴァ書房)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会元会長。
第1講「デザインを経営に活かす!ブランディングデザインの実践法」

株式会社エイトブランディングデザイン代表、ブランディングデザイナー 西澤 明洋氏

西澤講師からは、ブランドと経営の融合、ブランディングデザインの実践的な思考と方法論についてご紹介いただくとともに、デザイン経営に向けた今後の方策やこれからの経営者・デザイナーに求められる力についてお話しいただきました。

西澤講師:私はブランディングデザイナーという肩書で、エイトブランディングデザインの会社経営とブランディングデザインの実務に携わっています。当社は「ブランド開発しかやらない」という、デザイン業界の中では少し変わった立ち位置で経営をしています。

2020年12月に出版した「ブランディングデザインの教科書」をはじめ様々な本を出版していますが、デザイナーが通常出版するような「作品集」ではなく、デザインやブランディングの「プロセス」を書き留めたものを開示しています。


もともと建築出身の私は、大学院から「デザイン経営」にシフト。最初の就職では、企業のインハウスデザイナーの立場でプロダクトデザインに関わってきました。幅広い領域で修業を積みながら、デザイン経営の面白さを感じ、現在では自らの会社「エイトブランディングデザイン」を立ち上げ、デザインを経営に活かす方法をブランディングデザインで実践しています。

エイトブランディングデザインのコンセプトは「ブランディングデザインで日本を元気にする」。クラフトビール「COEDO」は独立初期の仕事で16年前に朝霧重治社長と共にスタートしたプロジェクトです。当時日本には「クラフトビール」という言葉はなく、これを一番初めに普及展開したブランドです。

私たちが行うブランドデザイン開発は、戦略レベルから、実際の商品の企画、そしてコミュニケーションの手段としてデザインをどう使うか、というところまで携わります。これまで様々な分野・業種で幅広くブランディングデザインを行い、どのような業種であってもデザインの力を活用してきました。


フォーラムのテーマでもある「デザイン経営」は、80年代に「デザインマネジメント」として日本経済に普及しようと試みられていましたが、当時は上手く浸透しませんでした。近年、経産省が特許庁と組んで発表した「デザイン経営」は、過去の失敗を省みてブランディングデザイン、イノベーションデザインの2つの切り口から「デザイン経営宣言」としてまとめる等、今回は面白いアプローチを行っています。

一方で、デザインの分野・領域が広がる現在、デザイナーの中には、ブランディングもイノベーションも、デザインの一部に過ぎない、という方が沢山います。しかし、「デザイン経営」は、ある一定のカテゴリやジャンルまたは部分のデザインではなく、経営全体にデザインを活かすための包括的、統合的な経営全体のデザインなのです。

「他との区別」するためのブランディングは、日本経済が右肩上がりだった80年代当時は非常に効果的でした。しかし経済成長が右肩下がりの今は、そうはいきません。CIの導入、ロゴのシステム変更で会社経営が良くなる企業はほぼ無く、より根本的デザインの力を経営に生かすことが問われています。

 

私たち創業当時からのブランディング定義は「ある商品、サービスもしくは企業の全体としてのイメージに、ある一定の方向性をつくりだすことで、他者と差異化すること」、であり簡潔には「ブランディング=差異化」であるとも言えます。今日一部マーケティングの現場で行われている短期的な利益や売上を目的とした差異化ではなく、私たちのブランディングは、どれだけ長期的な視点に立てるか、いかに伝えるか、に重点があります。このように力点を置き替えるとブランディング経営となり、ブランドに必要なものが整理できてきます。


本日ご紹介したブランディングデザイン3階層®の考え方や、フォーカスRPCD®といった手法は、経営とデザインを融合する方策、そしてこれからの経営者・デザイナーに求められるデザインリテラシーや経営リテラシーの重要性について議論するきっかけとなるものと思います。

ブランディングを通じて形づくられる「ブランド」は、企業にとって最も重要なビジョンが約束されています。それがデザインを通して形となり、そして全従業員の生き様ともなり、使えるようにしていくのが、本当のブランド開発です。大企業から中小企業まで、面白いものづくりやコンテンツをもった企業を、デザインの力と引き合わせて元気になってもらうことで、日本全体を元気にしていきたいと思います。

西澤 明洋氏
株式会社エイトブランディングデザイン代表、ブランディングデザイナー

Profile:1976年滋賀県生まれ。 「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。 主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、ヤマサ醤油「鮮度生活」「まる生ぽん酢」、スキンケア「ユースキン」など。 著書に『ブランディングデザインの教科書』、『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)ほか。グッドデザイン賞をはじめ、国内外100以上の賞を受賞。大学、企業などでの講演やセミナーも多数行う。
第2講「花王のESG経営とデザイン経営」

花王株式会社執行役員 コンシューマープロダクツ事業統括部門 グローバル事業推進センター長 小泉 篤氏

小泉講師からは、花王のESG戦略とデザイン経営について、その戦略・経営のフレームワークや重要視するポイントをご紹介していただきながら、SDGsや社会的課題に貢献する花王のプロダクトブランディングとコーポレートブランディングとの相乗効果やユニバーサルデザイン指針等について具体的な事例を交えながらお話しいただきました。

小泉講師:本日は、花王のESG戦略とデザイン経営がいかに実務と結びついているのかについてお話します。

花王は、創業1887年・設立1940年、花王石鹸からスタートした会社。メーカーとして商品開発の5原則をもち、「よきモノづくり」の精神の下、業務を行っています。特に、生活者一人ひとりの声を聴くことに重点を置き、徹底した調査の実施や結果の読み込みを行っています。

今年の1月に新社長が就任し、「未来の命を守る企業へ」ということへ大きく舵をきっています。中期経営計画のミッションに「豊かな生活文化の実現」を位置づけ、地球が持続的に生きる場として保たれること(①生態)、社会が持続的に豊かであること(②生命)、人が危害から守られて笑顔で暮らせることへ貢献すること(③生活)、これら3つの「生」を守ることを経営のフレームワークとして設定しています。

現在言われているSDGsやESGは、社会的価値の創出に注目が集まっていますが、経済価値を生まない社会的価値はもはやサステイナブルではありません。社会貢献価値と事業貢献価値を両立させる企業活動を行うことが私たちのチャレンジであり、花王の経営をデザインするポイントでもあります。

2019年からスタートしているESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」では、持続可能なこころ豊かな暮らし「Kirei Lifestyle」が何よりも大切だと考え、それを実現するために「Me」「We」「Planet」の3領域において企業活動を通じた成果を出すことを示しています。この3領域に、12のESGアクション(サステイナブル活動)を配置してフレームワークを構成しています。特に、これまでの商品開発5原則に基づいたコンシューマードリブンだったアクションから、パーパスドリブンなアクションに変更しています。

ESGを進める企業はジレンマ(Ex.環境配慮型パッケージはコストを上げる等)を抱えます。しかし、花王では、1)ESG経営をコストではなく投資と考えること、2)企業の「見えずらい未来の価値」を見える化すること、この2つの観点からESGを実行しています。

またブランディングに関連した取り組みとして、花王のプロテクトJAPANの事例をご紹介します。

Covid19の影響を受けて、日本国内では「衛生分野」への関心が高まると同時に、かつて国や政府・省庁に求められていた衛生分野への社会的な責任は、企業にも求められるようになっています。

このような背景と共に、当社においても個別のブランドよりも、企業のコーポレートブランディングの重要性が高まり「花王プロテクトJapan」という活動をスタートさせました。

 

コーポレートブランディングと個別のプロダクトブランディングをつないで相乗効果・シナジーを生み出すため、花王では両者の間に4つの「共通目標」を設定しています。ESGテーマでもある「環境」「衛生」「高齢化」「多様性」の共通目標は、花王が注目する社会課題であり、プロテクトJAPANは「衛生」の共通目標を掲げることで、企業ブランドと商品ブランドとの関係構築を行い、”プロテクトJAPAN”という共通体現価値を作り上げた事例であります。

また花王の12のESGアクションの一つである、「ユニバーサルプロダクトデザイン」は、メーカーの原点でもあり、デザインを事業の中に取り入れている部分でもあります。現在、ユニバーサルデザイン(UD)指針を大きく変更し、「多様性」の視点からUDを進めようとしています。

新たなUD指針の一つである、「『うれしい』をかたちにするモノづくり」の事例として、東京ディズニーリゾート協賛による、園内の手洗い体験をおうちでの手洗いや掃除の習慣に結びつける企画をご紹介しました。コロナ以前からの取り組み(2015年~)が、コロナ禍でも役に立ったことで、花王製品の泡の技術が、SDGs・社会課題の解決に活用できることが分かってきました。これら技術を上手く使いながら今後も社会課題の解決に向けて取り組んでいきたいと思います。

小泉 篤
花王株式会社 執行役員 コンシューマープロダクツ事業統括部門 グローバル事業推進センター長

Profile:1985年花王石鹸株式会社(現在の花王株式会社)入社。2002年ハウスホールド事業本部のブランドマネジャーを経て、2005年に同本部の海外グループ部長として主にアジアでの事業展開を推進。2009年に花王インドネシアにCEOとして赴任し、過去最高益を達成。4年間駐在し、日本に帰国。コンシューマープロダクツ事業の事業グループ長を経て、2018年から事業を横断するグローバル事業推進センターのセンター長を務め(現任)、2020年1月から執行役員に就任。現在、事業戦略マネジメントと事業ESG推進の指揮を執る。
第3講「ブランドとデザインの法的保護最前線ー意匠権・商標権の戦略的権利取得ー」

レクシア特許法律事務所 代表パートナー弁理士 松井 宏記氏

松井講師からは、国内のみならずヨーロッパ・アジア・アメリカ等での意匠及び商標の実務全般に関する豊富な経験に基づいた最新の議論や具体的な事例をご紹介いただきながら、意匠・商標の権利保護を通じたデザイン経営やブランド戦略についてお話しいただきました。

松井講師:私は弁理士として、デザインとブランドの保護に関わる意匠・商標権の出願・取得、国内外の裁判等に関して、その全般を取り扱っています。私からは、デザイン経営やブランディンデザインから生み出されたモノ、消費者と接するモノに、いかに法的な保護を与えるか、またどのようにその権利を取得していくかについてお話しします。

デザイン経営・ブランド戦略における知財は、一言で言うと軍事パレードのようなもので、企業の武器をいかに大きく見せるかがポイントだと思います。敵に入り込まれ/模倣されないよう、またいざという時には戦える武器として持つべきものが知財です。

特許庁・デザイン経営プロジェクトチームが示すデザイン経営では、「ブランド構築に資するデザイン」と「イノベーションに資するデザイン」の2つが示されています。ブランド構築に資するデザインは、商標や意匠としてイメージしやすいのですが、もう一方のイノベーションに資するデザインは、イノベーションという言葉が多義に渡りイメージしにくいところです。これについて私の講演では、企業の産業競争力の向上に寄与する知財の認識から、現在進められている新しい意匠制度の改革とその具体的な事例について詳しくご紹介したいと思います。


意匠権を取る分野は、工業デザインであるパッケージデザインやUI等がメインとなりますが、建築物デザイン、内装デザインなどにも対象が広がっています。

衣服デザインの意匠権取得も現在では沢山の事例があります。例えば、スポーツウェアの機能性を支える意匠を部分的に取る事例が増えました。このような部分的な権利の取り方は、どちらかと言えば日本国内での代表的な意匠権の取り方です。

一方、欧米企業の場合、製品の全体や外形の権利主張を先にして、今後変わるであろう中身・パーツ部分は、権利主張をしない(=ディスクレームする)取り方をしています。斬新なものが生まれた場合には、まず全体、外形や外堀の権利主張を行い、外形を抑えた後は中身の意匠権も埋めていく、というデザインの保護戦略を取っています。

 


日本では令和元年に意匠法が改正され、大きく次の2つの変化がありました。

(1)UI・画像意匠の保護
意匠法改正前には、モノを超えた「画像意匠」の権利行使はできませんでしたが、改正後にはモノを超えて行使できるようになりました。また改正後にはECサイト・ウェブサイト上の操作画像、さらにはクリックボタンやHPのパーツ・アイコン等の小さなパーツまで、意匠権を取れるようになりました。

(2)建築物意匠の保護
もう一つの流れとして重要なのは建築物の意匠です。ハウスメーカーの「組み立て家屋」、マンションは改正前から権利を持っていましたが、今回の改正では新しく、スカイツリー、美術館、ホテル、競技場、飲食店などの一点ものの建築物も権利取得できるようになった点です。また内装やインテリアデザインの意匠も取れるようになり、マンションやオフィスの共用部、飲食店等の内装の権利取得が進んでいます。特に飲食店の意匠権等は、今後、多店舗展開をする際に重要になってくると思います。


意匠法改正に伴い、「関連意匠」も改正され、バリエーションで意匠権を保護する非常に強い武器となっています。意匠権は、類似範囲が権利範囲であり、どこまでが類似であるか、権利者側で明示することが大切です。したがって長さや断面形状等で変形させた関連意匠をつけ、権利範囲をゾーン化していくデザイン保護戦略を持つ必要があります。

この意匠権と関連意匠の組み合わせにより、特許は取れないものの、守れるデザインがあります。ブランディングを裏支えする私たちの仕事の一つが、いかに似たような商品をつくられないように努めるか、ということであり、このような関連意匠による守り方は非常に重要です。

また特許の方が意匠権よりも、すごいというイメージがありますが、アップルとサムスンのスマホデザイン訴訟をみてみると、損害賠償の請求や製造販売の差し止めといった効果は同程度か、特許よりも意匠権のほうが高い効果を発揮します。(Ex.アップル・サムスンの訴訟では、損害賠償金は総額596億円(2018年)。この内、特許分は5.9億円、意匠権では590億円にのぼる。)

意匠権と商標権は、権利上もリンクしてきており、よく似た権利になってきています。昔からの定番デザインは、すでに意匠権は切れている(昔は20年、現在は25年)が、長い期間をかけてブランド化し、最後には商標権を取れるようになります。

欧米の弁理士たちは、最後はブランドで権利を取る、と語るよう、有限である意匠権、特許に比べて、ブランドである商標権は、申請する限り切れることはありません。知財としてブランドが最後に目指すところとして商標権があると思います。

松井 宏記
レクシア特許法律事務所 代表パートナー弁理士

Profile:意匠・商標の出願、審査対応、鑑定、侵害対応に精通している。日本国内のみならず、ヨーロッパ・アジア・アメリカ等での意匠及び商標の実務全般についても経験豊富。特に、デザイン思想を守るための戦略的意匠出願、及び、法的又は経営的ブランド戦略については、意匠と商標の両分野における高度な専門性を生かしたサービス提供が得意。2006年 英国にてヨーロッパ意匠商標に関する実務研修。2011年 レクシア特許法律事務所参画(代表パートナー)。2015年 日本弁理士会意匠委員会委員長。2016、2017年 日本弁理士会意匠委員会 副委員長。2018年-2021年 日本商標協会関西支部 支部長。
◇パネルディスカッション・質疑応答


陶山理事長(左)、西澤氏(中央左)、小泉氏(中央右)、松井氏(右)

陶山計介当研究所理事長(関西大学名誉教授)をファシリテーターとして、講師である西澤氏、小泉氏、松井氏の3名とともにパネルディスカッションを実施しました。改めて、デザイン経営の概念や、プロダクトデザインからコーポレートブランディング移行時の要点、意匠法改正という企業間の競争条件が変わるなかでの企業戦略における知財の位置づけなど、さまざまな論点が深められました。

◇閉会の挨拶

最後に、本フォーラムの共催団体である関西大学東京経済人クラブと後援団体の関西大学東京センターを代表して、関西大学東京経済人クラブ運営委員/JLLモールマネジメント株式会社取締役会長・大津武氏より、講演を受けて閉会の挨拶をいただきました。ブランディングとデザイン、戦略的マーケティングは全ての企業の根幹であるということで、今後も積極的にBSMIと関西大学東京経済人倶楽部との連携を深めていきたいとお話しいただきました。

◇総括

今回の東京第18回フォーラムは「デザイン経営とブランド・イノベーション:ビジネス課題、社会課題、知財」をテーマに、お三方からそれぞれの分野でのこれまでの素晴らしい活動や研究についてお話しいただきました。講師をはじめ多くの皆様のご協力により本フォーラムを盛況のうちに終えることができました。ご講演いただきました3名の講師の皆さんには厚くお礼申し上げます。

2021/11/01

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