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2017年7月度(126回) 東京第10回フォーラム 開催レポート

東京フォーラム 開催レポート
顧客関係の変革とブランド戦略

一般社団法人 ブランド戦略研究所では、毎年恒例になっている東京第10回フォーラムを7月18日(火)、関西大学東京センターで開催しました。テーマは「顧客関係の変革とブランド戦略」です。
 
従来型の技術やマネジメントの延長上では今後の市場対応や競争優位の構築が難しくなってきています。シェアリングエコノミーの新たなプラットフォームや、従来とは異なる時間や空間を共有できるソーシャルメディアによるコミュニティの変化、関係性の規範によって管理される無形の資源である社会関係資本(social capital)がクローズアップされるなかで、顧客自身が主役となる「ソーシャルシフト」や「価値共創」の時代が到来しつつあります。
 
ブランドは ”価値共創のコミュニティ” ですが、そのような顧客のライフスタイル、知識、関与、さらに購買行動などに対する深い洞察・知識をふまえながら、ブランドと顧客の間の新しい関係性と展望を探ることによって、イノベーションと持続的成長を可能にするビジネスモデルとブランドの構築も見えてくるのではないでしょうか。
 
今回の東京第10回フォーラムは、「顧客関係の変革とブランド戦略」をテーマとして設定しました。顧客とブランドの関係はいかにあるべきか、顧客関係を変革する契機は何か、そして新しい顧客関係をブランディングにいかに結びつけていけばよいのか、などについて考えていくというのがその趣旨です。

◇主催者開会の挨拶
高木克典当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、まず当研究所の陶山理事長より東京第10回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の事業概要今回のフォーラムの解題がありました。
 
 
当研究所も設立6年目(前身のブランド戦略研究会からは16年目)に入り、「経営-マーケティング-知財の三位一体化」というミッションの原点に立ち返って当研究所の存在価値をアピールすることがあらためて強調されました。その上で本フォーラムにおけるトピックスとして、
①今日におけるブランド・コミュニティの特徴やその構成価値(信頼価値、機能的価値、情緒的意味価値、自己表現的価値など)をいかにとらえ、それらをどのようなやり方で構築していかなければならないのか。
②売り手よし、買い手よし、世間よしという近江商人の「三方よし」に象徴される共創関係の構築をいかに新たなブランディングに結びつければよいのか。
③実店舗と仮想店舗との融合・連携を実現するオムニチャネルのもとで、「買い物体験」を生産者との関係づくりをも含めてどう構築しなければならないか。
④CRM(顧客関係管理)を考えたとき、ブランド・コミュニティ内のメンバーシップやパートナーシップをいかに開発しながら、その絆を高めていけば良いのか。
といった論点が提起されました。

◇第1講「 なぜ今『カカオ革命』なのか?-価値共創のマーケティング3.0を実践する」講演者 吉野慶一氏
吉野講師からは、外資系金融機関での経験や世界旅行先で見つけたカカオ生産国の地図に触発されてチョコレートの製造・販売を開始された経緯にはじまり、既成の流通やファアトレードに違和感を覚え、インドネシアの人々とのカカオ豆の製造、京都の工房での加工を通じた「カカオ革命」の宣言、さらに素材(カカオ)の持つコア・コンピタンスと商品の差別化、さらに農家、製造者と消費者という川上から川下までのネットワークにおけるWIN-WIN-WIN関係を重視しながら、価値共創を進めていくマーケティング3.0の実践、共感・協働と体験によるブランディングを図る「Dari K(ダリケー)」の取組が紹介されました。
 
さらに今後のチャレンジとして、「無電化地域に電力を!」というスローガンのもとカカオ殻からのメタン発酵装置の開発や女性を中心とした雇用創出についても熱く語っていただきました。
 
近年、ロッテの“スイーツデイズ乳酸菌ショコラ”(2015年10月発売)に代表される整腸作用や健康志向に注目したチョコレートが注目されたり、明治の“ザ・チョコレート” (2016年9月発売)にみられる「Bean to Bar」がもたらす華やかな香りとフルーティな味わいという本物感も大きなトレンドになっています。チョコレート専門店もショコラティエのもつ技術や知識、センスを競っている。これに対して「Dari K(ダリケー)」の取組は、第1に、インドネシア産のカカオ豆という素材の持つ機能的価値の素晴らしさを引き出し、第2に、それを生産者が自ら創出するプロセスから導き出されるストーリー性やソーシャル価値をお客様との共感価値にし、第3に、上記2つの価値を悠久の歴史と伝統を持つ京都およびスラウェシ島(2つのK)とクロスオーバーさせながらブランド・コミュニティを構築しようとしている点で、ブランディングに成功しているのではないでしょうか。
吉野慶一氏:Dari K(ダリケー)株式会社 代表取締役
Profile:慶応義塾大学経済学部、京都大学大学院、オックスフォード大学大学院卒業。モルガン・スタンレー証券株式会社(現モルガン・スタンレーMUFG証券)投資銀行アナリスト、スピードウェル株式会社(投資顧問・ヘッジファンド)アナリスト、(財)統計情報研究開発センター研究員を経て、2011年Dari K株式会社を設立。

◇第2講「Omni-Channel時代のマーケティング戦略-お客様と時間を共有し、絆を深めるEngagement Commerce」講演者 奥谷孝司氏
奥谷講師からは、オムニチャネル時代ではお客様に寄り添い絆を深めることがますます重要になり、これがブランディングや新しいCRM(顧客関係管理)に繋がっていくというお話しをいただきました。
 
良品計画在職時に構築された「MUJI passport」で、実店舗を主体にしたオムニチャネルを推進するなかで、<検討→購入→使用・消費>という「顧客時間」に注目されてこられました。マーケティング活動の最適化をはかるためにはCustomer Journeyの分析が必要だと言われていますが、このお客様の時間、とくに検討と使用・消費のプロセスを可視化してくれるものがソーシャルメディアであり「MUJI passport」です。
 
「もの」から「こと」、さらに「事」へと消費の目的がシフトする時代にあって、「企業のいう正しい事」や「有益な情報」というコンテンツをどう“journalistic”に発信するかがブランディングにおいて重要になっていること、“地方から生まれるSuper Brand”、オムニチャネルの進化形についてモバイルをベースにしたEC=Engagement Commerceを全社戦略として展開することの必要性、店頭オペレーションの負荷が少なく接客の武器になるツール開発が求められていること、リアル店舗の役割を再評価しながら「ネット&リアル50/50」をどう達成するか、などについてアメリカの事例も交えながら詳細にご講演いただきました。
 
オイシックスドット大地株式会社では生鮮通販市場でネット側から買物体験の変革を<検討時間>の短縮へと実践していますが、安全・安心だけでなく、ヘルシー、オーガニックやローカル、エコといった新しい訴求価値、お客様の多様なシーンやライフスタイルに合わせながらどう手料理を楽しんでもらえるかが重要になっています。生鮮食材そのものモノづくりからそれらを編集したミールキットのなかに生産者との関係づくりをどう進めていくかが大きなテーマになっています。その際、生鮮食材のモノづくりからそれらを編集したミールキットのなかに生産者との関係づくりやストーリーをどう絡めていくかが鍵になるのではないでしょうか。大地を守る会との経営統合は生産者と消費者双方のインサイトをどう結び合わせられるか大いに注目したいところです。
奥谷孝司氏:オイシックスドット大地株式会社 執行役員 統合マーケティング部長COCO
 Profile: 1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向し独駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける。「World MUJI企画」を運営。2003年良品計画初となるインハウスデザイナーを有する企画デザイン室の立ち上げメンバーとなる。05年衣服雑貨部雑貨カテゴリーマネージャー。定番商品「足なり直角靴下」開発。10年WEB事業部長「MUJI passport」のプロデュースで14年日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の第2回WebグランプリのWeb人部門でWeb人大賞を受賞。2015年10月よりオイシックス株式会社入社。2016年10月より執行役員 統合マーケティング部部長 Chief Omni-Channel Officer。2016年11月 Prismatix社 Engagement Commerce Adviser。2010年3月早稲田大学大学院商学研究科夜間主MBAマーケティング・マネジメントコース修了。2017年4月一橋大学大学院商学研究科博士課程後期在学中。日本マーケティング学会理事

◇パネルディスカッション
ネーターの陶山理事長と二人の講師で今回のテーマに沿ってディスカッションがなされました。
 
具体的な論点としては、①Dari K(ダリケー)とオイシックスというそれぞれのブランドのエッセンス、ファン=サポーターによって支えられているコミュニティの特徴、その構成価値をいかにとらえ、それらをどのようなやり方で構築していかなければならないのか。②川上から川下までのネットワークにおけるWIN-WIN-WIN関係、売り手よし、買い手よし、世間よしという近江商人の「三方よし」など共創関係の構築とブランディングの新しいあり方はどのようなものか。③本日の講演やパネルディスカッションを通じて得られた気づきとブランド戦略研究所への期待について、です。
 
また参加者の皆さんからは、①吉野講師がDari K(ダリケー)創業のプロセスやその際のご苦労はどのようなものであったか、②少子高齢化社会における高齢者向けのアプローチやビジョン、③リピート客=優良顧客というCRM(顧客関係管理)の考え方があるなかで、お客様への対応をどのようにしているのか、④価値共創の中で生産者、消費者などとの間で“見えない価値=無形価値”の見える化と社会へのフィードバックをどうするか、などについて活発な質疑応答がありました。
 
 
パネリスト:
吉野慶一氏:Dari K(ダリケー)株式会社 代表取締役
奥谷孝司氏:オイシックスドット大地株式会社 執行役員 統合マーケティング部長COCO
コーディネーター:陶山計介 当研究所理事長

◇閉会の挨拶
最後に、閉会の挨拶として、高木事務局長・理事からフォーラムの簡単なまとめと講師、参加者の皆様への謝意が述べられ、無事閉会となりました。

◇総括
今回の東京第10回フォーラムは、オムニチャネル時代の今日、顧客関係の変革が迫られている中、リアルからであれネットからであれ、顧客体験やCustomer Journeyとどのように寄り添いながらブランディングやブランド・コミュニティ構築を進めていけばよいか、そこでは「顧客時間」の可視化とソーシャルな価値をベースにしたストーリー化が重要であることをあらためて学ぶことができました。ブランドも時代に合わせながら不断にイノベーションしなければならないのです。
 
吉野講師、奥谷講師の非常に論旨明快で歯切れの良い講演とその後のパネルディスカッションはすべての参加者に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。ご講演いただいた二人の講師には厚くお礼申し上げます。

 

 

 
 

2017/07/24