ブランド対談 #09

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ブランド対談 #09

知財とマーケティングから見るブランドマネジメント vol.3

―――お三方から見て理想的なブランドマネジメントのあり方というのは、ブランドマネージャーの資質か、経営トップのマネジメント力かでは、どちらがより重要だ考えられますか?


陶山氏: 知財・マーケ・経営とそれぞれが現場で、三位一体としてやっていかないといけない、ということはもちろんなんですけど、やっぱり経営トップがまず、三位一体の存在意義や役割りをきちんと認識して、全社的なムーブメントにしてくことが必要でしょうね。

やはり現場のところで動きをつくろうにも、ブランドというものの理解や認識が、全社的に浸透されていないとなかなか動きづらい。各部門ごとの部門最適はできても、ブランドという名の元で動いて良いよ、というトップのお墨付きがないとGOがかからないんです。

足立氏: ブランドマネージャーの権限委譲がきちんとできている、或いはこのブランドはこういうことなんだ、と全社的に浸透させておくことだと思うんです。そうすると大きな方針は出ているわけですから、それに基づいた動きにしかなっていかない。
それに大きく反するような例外的な場合にはじめて、トップにどうすればよいか話ができると、そういう形になっていれば現場は動くと思うんです。

田中氏: 根本的には企業の組織の一人一人が、ブランド価値を意思決定の基準にする、ということがすごく大事だと思います。意思決定の基準とするというのはつまり、このアクションをすると、ブランド価値が高まるよということ。

通常マーケティングや営業だと、このアクションすると売上が上がる、という売上を優先しちゃいますよね、きっと。だけどそこを、売上も上がらなきゃいけないけど、ブランド価値も高めなきゃいけない、という判断が、組織のそれぞれのメンバーにあるかどうかなんです。じゃあどうするかということなんですけど、昔僕は「ブランド・ドリブン・マネジメント」とう言葉を自分で勝手に作って言ってたんですね。

陶山氏: ああ、マーケット・ドリブンとかありましたね。

田中氏: ええ、そんな感じです。何をイメージしていたかというと、レギュレーションというか規則をカチっと作るんです。昔十数年ほど前ジャガーに行った時に、彼らはそれをずっと一生懸命にやってるんですよ。ジャガーブランドというのはこういう価値だからこういう規定だと。
そこからインテリアはどうするとか、環境対策はどうするとか議論される。どこの属性に力をいれたら良いかという、非常に体系的でシステマティックなんですけど、ただ逆にそれは非常に固い体系なんですね。

それで最近僕は、「ブランド・ドリブン・マネジメント」ではなく、「ブランド・インスパイアード・マネジメント」ってでっちあげて言ってるんです(笑)

陶山氏: (笑)
足立氏: (笑)

田中氏: これは何をイメージしているかというと、たとえばGoogleだと、「僕はGoogleに勤めているから、こういう使命があってこういうミッションがある。だから僕はこうしなければいけないんだ」という、ブランドからの教えがあって、行うことが自ずからブランドになっている。
それがぼくの言う「ブランド・インスパイアード・マネジメント」なんです。必ずしもマトリクスを書いて、ガチガチにやらなくても良いんじゃないかと。そういうしくみを組織の中にビルトインする。それが理想なんじゃないかと思うんです。

陶山氏: ユーザーから見た評価を上げるためにはブランドビルディング、基本的なベースからだんだんパーソナリティまで上がって、シンボルまで行かなければいけない。でもそれってかなり疲れるでしょうと。

そこでブランドビルディングではなく、社員自らの日々の業務が、まさに自社のブランド価値を高める行動になるんだ、というところに、制度的に組織的に、あるいはムーブメントとしてもって行くという、その「ブランド・インスパイアド・マネジメント」というのは素晴らしいアイデアですね。

ある食品メーカーで、以前はPB商品など開発もされていたんですが、数年前から売上至上主義になって、とにかく利益を出さないといけない、ということになった。何が変わったのかと聞くと、経営トップが替わって、ステートメントが変わったからって言うんですよ。つまり評価軸が変わったと。経営トップと現場がインスパイアされるようなカルチャーを、どう作っていくかというのはなかなか難しいですね。
足立氏: トップマネジメントの方も、やっぱり売上や利益は、株主のことを考えると、目標として達成しなくちゃいけないものとして出てくる。そうするとブランドというのは、言ってみれば事業していく上でのツールだったりするので、目標を達成するのために、今あるブランドをなんとか使う、という話は出てきかねない、というか有り得る話なんですね。

ブランドインスパイアということでみると、従業員もそうですが、実はマネジメント自身が、ブランドとはこういうことなんだから、ちょっと市場が変わって短期的な売上が必要かもしれないけど、ウチとしてはこうなんだ、この範囲は絶対踏み出さないんだ、ということがきちんと示されていれば、経営者が変わろうが変わらなかろうが、脈々とそれが生き続いていく。

そういうことがないといけないんだろうなと思いますね。といっても、やはり経営をしていかないといけない人たちなので、難しいでしょうけれど。
田中氏: 日本の企業の経営者は、ブランドを活用した経営の旨みをまだ知らないんですよ。海外の企業の経営者だと、ブランドをやるとこんなに良いことがあるということが、骨身に沁みてわかってる。日産のゴーン氏もそうですし、P&Gの元CEO、AGラフリー氏もね。

彼らは骨身に沁みてブランドが如何に大事だということがわかってて、だからこそブランドを中心にした経営をしなくてはいけない、ということを当たり前のようにやっている。

でも日本の企業の経営者はそこまで経験していない。まあ経験がないということは、ある意味すごく幸せなことなんですけどね。経営が安定していれば、あまりブランドということを考えなくても、なんとか営業力でやっていけるけれど、一旦左前になったときに、ブランドの力を使って再構築する。そういう経験があるかないかだと思うんですね。

陶山氏: 日産は99年にゴーン氏が来てから、同じ性能、同じグレードであっても、アメリカのメーカーの車より高く評価された。その差は何かというと、ブランドの差であると。企業のアイデンティティを明確にしたかたちでブランドづくりをしていかないと、適正な価格で売れなくなる。

ある家電メーカーも今大変な状況で、「破壊と創造」といってかなりドラスティックにされていますが、コストカットといった部分よりもっと、コンストラクティブな動きをどうするかというところに、ブランディングが力を発揮すると思いますね。

 

―――日本企業にとってブランドマネジメント力を上げるには、なにが必要だと思いますか?


 

田中氏: 企業のDNAというかブランドの歴史の、いわば再解釈することも一つあると思うんですね。つまりうちのブランドは、こういう歴史を経て、こうなったブランドなんだと。歴史にはいろんな事が起きているので、如何ようにも解釈できるわけです。

過去にはこういうイベントがあってこうだったという。だからこのブランドはこういう価値を持ってて、こうしなくちゃいけないんだと、その歴史の中から出てくるプロセスですね。これをまず、経営者自ら考えていく必要があると思いますね。

ゴーン氏の説得の仕方って、非常にシンプルなんですね。うちの車は数万円しか安くできない。だからブランドをやならければいけないと。それは誰でもわかる理屈ですね。そういうシンプルな理屈を考えて、それをもう繰り返し、繰り返し、繰り返し。ゴーン氏は今も同じことを仰ってます。
でも日本の経営者には、「オレが1回言やぁ、わかるだろう」と思ってる人って結構多い(笑)人間ってずっと同じことを言わないと、なかなか変わる事ができない。繰り返すことって大事かなあと思うんですけどね。

足立氏: やっぱりブランドについては、きちんとディスカッションすることだと思うんです。新しい製品に名前をつけるとか、あるいはロゴを変更しようとかいうときに、ブランドマネージャーやマーケティングのマネージャー、知財のマネージャーが話し合いをした結果、じゃあこうしようと進んでいくことが必要ですね。

誰かが言ったから、それに皆従わないといけない、というのあまり良くないと思うんです。ディスカッションをすると、それぞれが気付いていなかったこともわかって、少しやり方が変わっても全員が頂点に向かっていける。

そうでないと、知財の人間にすると「言うこと聞いてくれない」と不満になったり、マーケティングの人たちからすると「知財・法務の人間はうるさく言ってくる」と(笑) お互いに不満だけ持ってて、実は生産的になってないということが少なくない気がするんですよね。

やっぱり話をするとなると、そりゃ不愉快な思いをするかもしれないし、100%それぞれの思惑通りにはならないかもしれないけど、会社の方向としての話をすることができる。そこが企業として、ブランドを使って事業していく上で大切なことなんですけどね。

陶山氏: あるトイレタリーの商品開発担当の方に聞いた話なんですけど、ネーミングやパッケージを決める際、売り場に置いた時にもっと派手なネーミングやパッケージでも良いかもしれないし、そういう競合もあるんだけど、うちはそれはやらないんだと。

わが社の基本的な歴史や考え方で行くと、取るべき戦略という具体的な商品開発のありようはこうだと仰るんですね。現場においても、自社のミッションや伝統や歴史をブランディングの視点に踏まえて、自分たちの心棒を持っていて、そこは全くブレないという。これがまさに必要なんです。