ブランド対談 #11~

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ブランド対談 #11~

[ブランド対談]B2Bものづくり企業のブランディングに求められること

プライミクス株式会社は、日本初の工業用クロムめっき工場として1927年創業。1949年に国産初の乳化ができる高速攪拌機を開発され、以来高速攪拌機の製造メーカーとして業界を席巻し、2017年4月には創業90周年を迎えられました。現社長の古市 尚氏は、祖父である創業者から4代目として同社を継承された後、社名を「特殊機化工業株式会社」から「プライミクス株式会社」へ変更。同時にブランド戦略に着手され、創業100周年と次世代につなぐ企業として大きなイノベーションを起こしておられます。

今回のブランド対談は、一般社団法人ブランド戦略研究所理事長、関西大学 陶山計介教授が同社を訪問、2015年8月に移転された淡路島にある新社屋にて、同社の理念やミッション、バリュー、そして、地方創生を視野に入れた”これからの企業のあり方”を伺いました。
プライミクス株式会社
所在地:〒656-2306 兵庫県淡路市夢舞台1-38
http://www.primix.jp
代表者:代表取締役社長 古市 尚

PRIMIX Vision:プライミクスは高付加価値製品を創出する企業に対し、顧客満足を最優先に考え、攪拌に関する問題を解決できるベストパートナーでありつづけます。

PRIMIX Mission:流体の高度処理技術分野において、各業界の技術革新に寄与し、社会に貢献します。
PRIMIX Value:プライミクス ブランドの成長を目指すことで個の能力が発揮され、それが企業の力となり、お客様の信頼を得て永く社会から必要とされることが当社の存在価値です。
PRIMIX Way:私たちプライミクスの社員は、
・ルールと時間を厳守し、整理整頓、健康管理で業務の効率UPを実現します。
・「安心 信頼 驚き 感動」の目標を明確にし、誠実で探究心あふれるビジネスパートナーとして行動します。
・チームで協力したり学習しあうことで、固定概念に捉われず、常に一歩先の提案をします。

代表取締役社長 古市 尚氏

早稲田大学教育学部卒。1982年 ティーケー食品機械株式会社(現 株式会社エフ・エム・アイ)入社。1983年 渡米/トムリンソン・インダストリー社入社。1984年 ミシガン州立大学経営学部ホテル・レストラン経営学科入学。1985年 トランプス(ビバリーヒルズLA)にて研修。1987年 A.O.S. of Culinary Arts取得 同校卒業。1988年 株式会社ダブリューディーアイ入社。1990年 株式会社トレッドアソシエイツの設立に参画 (現 株式会社味の素コミュニケーションズ)カリナリー事業部ディレクターを経てマーケティング事業部ディレクター就任。1995年 フィーストインターナショナル株式会社を設立。同社代表取締役就任。2001年 特殊機化工業株式会社(現 プライミクス株式会社)監査役就任。トクシュ技研株式会社 取締役就任。2003年 特殊機化工業株式会社(現 プライミクス株式会社)代表取締役副社長就任。ティー・ケー・ミックステック株式会社(現 プライミクス プラス株式会社)代表取締役就任。2004年 特殊機化工業株式会社(現 プライミクス株式会社)代表取締役社長就任

創業80年。危機からのブランド戦略。
 
陶山:古市社長は2001年に特殊機化工業株式会社(現 プライミクス株式会社)に入社されてから、ドラスティックな変革を次々と行ってこられました。その中でも御社の2015年度~2017年度中期計画では、「固定観念に捉われず、自分、思考、行動、未来を変えて行こう」というコーポレートスローガンのもと、PRIMIX Vision、PRIMIX Mission、PRIMIX Value、PRIMIX Wayという、4つからなる企業理念を掲げておられます。そこで意図されたものは何で、またそれらはどのような背景の中で生み出されたのですか?
古市氏:2001年に私は当社の監査役で入りまして、業務監査として「会社をどう思っているか」や「この会社は何を目指しているか」といったヒヤリングを行なったところ、社員それぞれバラバラの答えが返ってきたんですね。当時、創業者である私の祖父が掲げた“社是”がありましたが、『製品の独自性・協調前進・誠実明朗』という3つの言葉が額に飾ってあっただけ。企業理念や使命、価値といったことは明文化されておらず、実際にこの会社はどういう方向を目指しているのかよく分からないから、社内のモチベーションも高くないんじゃないかと考えたんです。

そこでまず企業理念を整理しようということで、ブランドモデルを明確化し、PRIMIX Mission、PRIMIX Value、PRIMIX Wayという3つのキーワードで社員に分かりやすく表記しました。また、経営品質向上プログラムにも取り組んでいましたから、会社の“あるべき姿”というものをどこに置いて、何に向かってやっていくのかというのを皆で話し合い、その“あるべき姿”をビジョンとしたわけです。
陶山:2005年に特殊機化工業株式会社からプライミクス株式会社へと社名を変更された際、これまでの機械の製造・販売中心のビジネスから、お客様のトータルサポートをめざすソリューションサービスへとシフトされましたね。当時はまだ、“ソリューションサービス”というものは一般化されていなかった時代だったかと思いますが、どのようないきさつでそのアイデアが出てきたのですか?
古市氏:もともと私は前職が食に関するホスピタリティビジネスという、非常にマーケットに近い仕事をしていたんです。それがこの会社に来てみると、ものづくりの会社ですから、機械を作るということに一生懸命で、それに自己満足しているように感じたんです。でもいくら素晴らしい機械を作っても、購入された後、お客様が求めるものがこの攪拌機によってできなかったとしたら、それは無用の長物。まずそれを社員に分かってもらおうと思ったんです。

そこで、『プライミクスチャレンジ』と呼んでいますが、お客様が来社してテストしていただいて、実際にお客様が望むものができるかどうかを確認いただいてから購入していただくという、ソリューションをベースにしたビジネスをしていこうと考えました。
陶山: 食品や飲料、家電や自動車の場合、マーケティングやブランディングがよく知られていますが、B2Bものづくりのブランディングはなかなか難しいと思います。高速攪拌機のブランドを構築する上で、どんなご苦労がありましたか?
古市氏:以前の特殊機化工業時代には、ブランディングという考え方は全く無かったと思います。逆に、何も無いからやりやすかったのかもしれませんね(笑)。というのも、もともと祖父が国産初の乳化分散機を作りましたから、パイオニアであり、高速攪拌機というものは当社にしか無かったんです。ですから社名も信用も通っていましたし、ずっと良い時代が続いていました。

競合他社はほとんどいませんから、特殊機化工業の製品は高いというイメージがあって、価格を安くしてほしいと言われても、他で買えばいいじゃないですかというような、まるきり殿様商売をしていたように思います。

ところがそのうち、他の会社が当社の真似をして作りはじめるようになって、競合他社がたくさん出てきてしまったんです。1990年代にはその競合他社がどんどん伸びてきて、小さな化粧品会社に化粧品の作り方を一から丁寧に教えて育てていったりするなかで、どんどん大きくなった会社もあったわけです。

その頃当社は何をしていたかというと、「うちに勝てるところは無い」と殿様商売の意識すら無い。私が入社したときには競合他社との優劣がもうほぼ逆転していて、私のところに来る決裁書の依頼のほとんどが「値段を安くしていいですか」というものでした。競合他社がこの値段で出しているから安くするしかないと言うので、この会社は値段でしか勝負できないのですか?と聞くと、もう値段でしか勝負できないと。そんな状況になっていたんです。

それはちょっといかんなと。せっかくみんな一生懸命に働いているんだから、適正な利益をいただけるようブランドをしっかり作ろう。他より高くてもプライミクスを選んでいただけるような活動をしていこう、というのがブランド戦略の狙いでした。
陶山:値崩れを防止し、プレミアム価格を可能にするブランディングですね。ところで御社のサイトに「もしプライミクスが人だったら、お客様にとってどんな存在になりたいか」というブランド・パーソナリティの概念を掲げておられます。ブランドには「製品としてのブランド」、「会社(組織)としてのブランド」、「シンボルとしてのブランド」、そして「人としてのブランド」があります。製品や会社の姿をお客様が理解し、親近感を持ちながら関係性を構築するためには、ブランド・パーソナリティは欠かせません。

それこそ、会社のトップである古市社長ご自身をもっと積極的にアピールするのも良いかもしれないですね。お人柄もですが、トレードマークの蝶ネクタイをもっともっとアピールするとか(笑)。わが社の一番は誠実なサービスであるということをアピールするときに、「自分を見てください!」と。そういうやり方もあると思いますが。

古市氏:(笑)そのブランドの意味については、社員の行動指針として『ブランドブック』を作り、「プライミクス スタイル スタンダード」の中にまとめてあります。お客様に安心・信頼・感動を与えるという当社のブランド・パーソナリティのあり方を、社員が日々の業務の中で常に確認できるようにしています。

イノベーションの核となるもの
 
陶山:ものづくりの企業として、品質方針あるいは技術マネジメントも重要なポイントになるだろうと考えますが、常にイノベーションを行ってこられた御社にとって何が強みであり、また競合他社との違いはどこにありますか?
古市氏:技術に関しては、お客様が来社されていろんなテストをされる中で、積極的に情報収集をするようにしています。解析方法も、先進的な分析器を導入し、理論に基づいた話ができますから、その上でお客様の問題を解決していく。そこが競合他社との違いかと思います。

人材育成にも力を入れていまして、社員の中から大学院の博士課程に行かせ、博士号を取得している者が2名います。他に1人はもともと博士号を持っていましたから、現在3名がPh.D.を持っています。「プライミクソロジー」といって、工学的な理論とわれわれが蓄積した技術を組み合わせ、それを当社のノウハウとして確立し、その力でお客様のお役に立っていこうという考え方です。
陶山:現在、山形大学とも共同研究をされていますね。リチウムイオン電池の研究所も御社の社屋内に開設されました。
古市氏:「電極板製造技術研究所」は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と、山形大学と当社のコンソーシアムで、車載用リチウムイオン電池の性能評価や、電池の新しい素材、また、電極板を製造する際の問題を解決するための研究、技術開発に取り組んでいます。
陶山:リチウムイオン電池の業界はどんな状況ですか?
古市氏:リチウムイオン電池製造装置の売り上げは、ほとんど海外が占めています。ですが、プラントというのは長期的な計画に沿って増やしていくので、受注にはすごくムラがありますね。攪拌機のメーカーとしては、アメリカやヨーロッパにもそれぞれ良い会社はありますが、でも今はやはり中国・韓国のメーカーが多いです。

攪拌機といっても攪拌部はほんの一部ですから、あとのタンクやステージとなるともうどこでも作れます。中国では当社のコピー品も多く出回っていますし、またそれが価格競争に脅かされている原因にもなっています。

*プライミクス株式会社の技術流出を防ぐ施策について、以下の5点のチェックポイントが考えられます(松下 正弁理士、ブランド戦略研究所事務局次長) 1)特許出願するか、しないかの判断基準 2)出願すると決めた技術の特許後の活用 3)技術が漏洩しない施策 4)あえて出願しない秘匿化の検討 5)新市場創造型技術標準の検討
陶山:環境対策や持続可能社会の実現に向けて、自動車もガソリンエンジンから電池へと変わろうとする中で、リチウムイオン電池のマーケットはかなり膨らんできていると思いますが、やはり中国・韓国メーカーが多いということですね。
古市氏:リチウムイオン電池の開発製造ではこれまで日本企業がリードしてきましたが、近年、中国・韓国勢が台頭してきています。電池が技術力の高さをめぐる競争ではなく価格競争になっていて、今はドイツ車もアメリカ車も韓国製のリチウムイオン電池を多く使うようになっています。当社の取引先も韓国から中国、さらに今は東欧の方に行きつつあって、先月も1台納入・設置しました。

自動車メーカーの中には、クオリティーを考えて、特定の国内メーカー電池しか使いたくないと言うところもありますが、それだけだと供給する量が限られていますし、比較的高級車になりますからね。そこでリーズナブルなEV(電気自動車)となると、やっぱり韓国や中国の電池を使うようになってきます。今後も中国のメーカーが世界の自動車メーカーに向けてどんどん供給していくようになるでしょうね。

淡路島・夢舞台での夢
 
陶山:2015年に大阪市内からこの淡路島に本社社屋を移転されて、今年は創業90周年を迎えられました。これまでの御社の歴史には、イノベーションが社業発展と継続の源泉となってきたと思います。この淡路島という地で、創業100周年から新世紀、次世代に向けて、プライミクスをどういう会社に育てていきたいと考えておられますか?
古市氏:大阪の福島区の社屋では、創業以来88年間やってきました。今は建築技術も優れていますので、この社屋は100年、150年使えます。つまり創業300年を見据えていこうと考えています。それにはまず、将来的に働く人たちのライフスタイルが変わってくる。アメリカのシリコンバレーにある会社のように、社内に食堂があったり、自転車屋さんがあったり、そういった楽しい雰囲気の中で仕事をする、というようになっていくだろうなと思います。

もう一つは地方創生。これから少子高齢化で人口が減っていくと地方が消滅すると言われていますが、働くところがあれば人は生活できます。その働くところも必ずしも都心でなければいけないわけでは無いですし、われわれのようにものをつくることは地方でもできます。地方で仕事をすることも企業が社会貢献としてできることではないかと考えています。

さらに、私は公益資本主義という言葉に惚れ込んでいまして、今後、株主のための会社といった金融資本主義がだんだん滅びていくんじゃないかと思っています。会社にとってステークホルダー、社員そして彼らに関わる人たち、あるいは近隣の住民に対しても、分配していく会社が長く世の中から必要とされる会社であると。これら3つの想いからこの地に移転し、次世代に向けた会社づくりをしていこうと考えています。
陶山:CSR(企業の社会的責任)だけではなく、まさにCSV(共通価値の創造)という考え方ですね。ステークホルダーに利益をフィードバックするというのもありますが、やはり社会的価値あるいは地域価値を、経済価値とどう調和しながら実現していくかが、今後の企業の存続・成長にとって欠かせない課題となりますね。

また、地方創生に向けて国に「まち・ひと・しごと」創生本部が設置されるなか、企業がどういう役割を果たすかも大事になってきています。私は「まち・ひと・しごと」の3つの中では、一番最初が”しごと”になるのかなと思います。”しごと”があれば、”ひと”が集まり、その結果として”まち”のインフラも整備されるということです。とはいえ、他方で東京一極集中化もますます進んでいますから、実際に地方創生と言われながらも、インフラやロジスティックなどの地方が抱える問題をどう克服していくかが課題になります。

そういう意味でも御社の試みは、淡路市だけでなく関西一円、あるいは他の地方からも注目され、また期待されているのではないでしょうか。次世代の働き方や企業のあり方といった見地からも、新しいモデルを是非作っていただきたいと思います。

B2Bものづくり企業にとって大切なことは、ものづくりの面で競合他社にない先進的な技術や“ソリューションサービス”であることはいうまでもありません。それに支えられたものづくりのブランディングの要諦は、古市社長の言葉にあった「せっかくみんな一生懸命に働いているんだから、適正な利益をいただけるようブランドをしっかり作ろう。他より高くてもプライミクスを選んでいただけるような活動をしていこう」という思いにあります。まさにブランドの本質を語っていただきました。本日はお忙しいところ有難うございました。

取材:2017年5月

 

2017/05/26

ブランド対談 #11~

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