ブランド対談 #17

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ブランド対談 #17

[ブランド対談]地域の強みを活かすものづくりのブランド戦略

今回のブランド対談は、和歌山県海南市の平和酒造さんを訪問しました。高野山へと続く古くからの街道筋にある同社は、室町時代から続くお寺を継承する家系ですが、昭和3年に酒造りを始めて以来創業90年になる酒蔵です。

長く伏見の酒造メーカーの下請けとしてパック酒を製造されてきましたが、4代目となる山本典正氏が家業を継がれた時は、日本酒離れによる業界の低迷や、規制緩和による価格競争のあおりを受け、どの酒蔵も経営困難な時代。それで山本氏が行った変革は、まず蔵や蔵人の問題点を洗い出し、それに基づいて後和歌山という地域の強み活かしながらブランド化するものづくりでした。

2005年に発売された和歌山産南高梅を使用したリキュール『鶴梅』は、当時の梅酒ブームの中でもダントツ人気となり楽天市場のリキュール部門で1位を獲得。その後2007年に発売された日本酒『紀土(きっど)』は、「IWC(インターナショナルワインチャレンジ)」の受賞や、「松尾大社 酒-1グランプリ」でグランプリを獲得するなど快進撃を続けています。

今回は、一般社団法人ブランド戦略研究所理事長、関西大学 陶山計介教授と、日本大学商学部准教授 井上真里氏が同社を訪問。日本酒業界における、地域の強みを活かすものづくりのブランド戦略についてお話を伺いました。
平和酒造株式会社
640-1172 和歌山県海南市溝ノ口119番地
代表取締役社長 山本文男
HP:http://www.heiwashuzou.co.jp/
FB:https://www.facebook.com/heiwashuzou/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCyqIP4XdgKYcaL3WIJBbLjQ/featured

専務取締役 山本典正氏

1978年生まれ、和歌山県出身。京都大学経済学部を卒業後、東京のベンチャー企業を経て、2004年に平和酒造へ入社。それまでの廉価な大量消費のためのお酒ではなく、日々の人生に豊かな彩りを添えられるお酒を届けたいとの想いから「紀土」「鶴梅」を立ち上げ。近年ではクラフトビール「平和クラフト」の発売も開始。“斜陽産業”と言われてきた酒造業界において新風を吹かせるべく、若い蔵人の育成にも力を注ぐ。伝統と革新をもって酒造りを行う一方、国内外で日本酒の魅力を伝える活動を行っている。著作に『ものづくりの理想郷』『メイドインジャパンを僕らが世界へ』(いずれもdZERO刊

高野山街道筋の寺から酒蔵へ
 
陶山: 平和酒造さんは創業90年、山本専務は四代目当主ということですが、和歌山では老舗の酒蔵ですね。
山本氏: このあたりは古くから高野山へ続く街道になっていまして、もともとうちは室町時代からその街道筋でお寺をやっていた家系になります。昭和3年に当時の当主、山本保が酒造りを始めたのがうちの酒蔵のスタートでした。

途中太平洋戦争時に国からの通達で酒造りを一旦止めていましたが、戦後昭和27年に再開しまして、その時に平和な時代に酒造りができる喜びを込めて平和酒造という名前を付けました。

創業90年ですが、日本酒業界には100年、200年と続く歴史の古い蔵元さんがたくさんありますし、100年以上が老舗と言われる中では歴史や伝統を売りにはできない。ましてやこの関西には灘や伏見という日本酒の名産地が隣接していますから、和歌山の酒を自社で造って売っていくことはなかなか難しいことでした。戦後の再開後、伏見の酒蔵の下請けで細々と営業していたというのが祖父や父の時代です。

40年前に父が家業を継承し、いろいろ経営上の模索をする中で行きついたのがパックの梅酒を作ることでした。というのも、杜氏の方たちは雪国の農家や漁師の人たちなので、冬になると出稼ぎでやってきて酒蔵で働き、夏になると帰っていくという季節雇用なんですね。

なので、冬は酒造りができるけれど夏に仕事が無い。それを解消するために夏に梅酒を製造販売していくことで業績を改善してきたんです。これには蔵人を通年雇用できるというメリットもあり、私が戻った時には正社員の蔵人が何人かいました。

和歌山を武器にしたものづくり
 
陶山: 一般的に梅酒というとあまり高級なイメージを持つ方は多くなかったと思いますが、マーケット自体が大きくないにもかかわらず、そこにハイエンドのものを出そうと思われたきっかけは何だったのですか?
山本氏: 当時の日本酒業界はもう壮絶な過当競争が始まっていました。ここ45年で売上高は3割以下になってしまい、もはや将来性を見出せない状況だったんです。

昔、お酒は酒屋さんでしか買えなかったので定価販売されていましたが、そこに規制緩和が行われ、スーパーマーケットやディスカウントストアが台頭するようになるとどんどん値崩れが起きていく。そうなるともうコストリーダーシップ戦略でいくしか無いんですね。

価格競争なので大手メーカーも苦しんでいる。そこに地方の中小パック酒メーカーとなると完全に値段だけで買われていくんです。キャンペーンするごとにレギュラープライスをどんどん下げられ、大手メーカーもじわじわ値段を下げてくる。中小パックメーカーにとって損益分岐点がどんどん下がる中で土俵際に押しやられているのがもう明らかに見て取れました。

当時、うちは和歌山県内でも2番目か3番目の生産量でしたが、「平和酒造」という名前を知っている人はほとんど無かったと思います。お客様が興味あるのは値段だけ。梅酒であればどこのメーカーでもよくて、値段が安ければ買ってくれると。

でもこの先人口が減り消費も減っていく中で、こんな商売のやり方は限界を迎えてしまうんじゃないか。やはり平和酒造として、和歌山の酒蔵として輝く方向性を考えなければいけないと。

関西には「うちもいつかは灘・伏見のようになりたい」と頑張ってらっしゃる酒蔵も多いですが、うちの蔵が灘・伏見の蔵になることは無い。やはり和歌山の酒蔵として、和歌山という土地を活かした酒造りをしていこうじゃないかと考えたんです。

その頃ちょうど、梅酒の製造免許の緩和が行われ、全国の酒蔵が夏に梅酒を作り始めたこともあって、ラッキーなことに「梅酒ブーム」が始まっていました。うちはそれに先駆けて梅酒を作っていましたし、和歌山は高品質な南高梅の産地ですから良いものが安く手に入る。高品質な梅酒づくりの材料が全部揃っていたんですね。これなら「和歌山」を一番に売り出せる。そこで出したのが『鶴梅』という高品質なリキュールでした。
陶山: GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)だけでなく、airbnb、Uber、instacartなどのプラットフォームやシェアリングエコノミーの新たな展開の中でそうした企業のブランド価値も飛躍的に伸びています。いずれの企業もグローバルな規模でのソーシャル・イノベーションを時代背景にそれぞれ強みを発揮しているのではないでしょうか。平和酒造さんの強みは何かというと、やはり「和歌山」という地域やローカルのもつポテンシャルがポイントですね。
山本氏: 「和歌山」を武器にしてこだわりのものづくりをすると、お客様に一番喜んでいただけたのが梅酒だった。そこに、和歌山の蔵であるということと、なぜ我々がこの酒を造らなければいけないのかということが、父の時代よりもっと求められている気がします。
陶山: 『鶴梅』は楽天市場でランキング1位になったことで全国から問い合わせが殺到したそうですが、スーパーやディスカウントショップ、コンビニエンスストアなどの大手流通には卸さず特約店制にされていますね。それはなぜですか?
山本氏: 父の時代は売れ売れドンドンで求められたらどこへでも出していたんです。大手流通は大量に仕入れて安くお客様にお届けするということが目的ですから、売れている時はいいけれど、売れ止まると価格競争が始まってしまうんですね。

値段を下げることでしかお客様の要望を満たせない。お客様もそれに対して有難いとも思っていない。そういう状況だったのが、こうした特約店制でパートナーシップを組むと、「ありがとう」と言われるんです。いい梅酒を作ってくれてありがとうって。

お客様が喜んでくれて、次にまた買ってくれる。それが売上として上がってくる。その「ありがとう」という言葉に、自分たちの未来に繋がるということを実感するんです。

日本酒『紀土(きっど)』の誕生
 
陶山: 2005年に『鶴梅』を販売された2年後の2007年に『紀土(きっど)』を出されましたが、そのきっかけは何でしたか?
山本氏: 『鶴梅』を扱ってくれている特約店さんから、これだけ平和酒造の梅酒が売れているんだから、良かったら日本酒も持ってきてみないかと言われるようになったんです。値段はいくらでもいいからと。それってうちの酒蔵にとって初めての経験でした。

でも持っていけませんでした。なぜなら、良い日本酒が造れていなかったからです。もちろん、山田錦を買ってきて精米50%まで削り純米で出すというのは簡単にできるんです。ラベルに“山本典正渾身の酒”とうたい、これはハイブランドの日本酒ですということはできる。

でも、『鶴梅』がそうだったように、本当に美味しいものでないと意味が無い。特約店さんからの「ありがとう」という言葉の根源は、やはり品質の良さなんじゃないかと思ったんです。

『紀土(きっど)』を出す前というのは、パック酒だけを造ってきたので、もう蔵の中はボロボロ。蔵人のモチベーションも無いんですね。その中で僕が戻ってきて、「良い酒造りをしようよ」と言っても、どうやっていいかわからないんです。

とりあえず高い米を買ってきて、良いと言われる手法を試みるけれど、やはりいい酒ができない。なので、毎年毎年、冬は酒造りをして、夏は全国のいろんな蔵元さんを周らせてもらいました。

東北はいま日本酒、特に地酒のメッカになっていますので、岩手まで1700キロを車で走りながら、いろんな蔵元さんやお得意先を3日かけて訪問し、岩手で研修を1週間受けて、また3日かけて帰ってくる。それをやりながら少しずつ品質を上げていきました。そしてようやく出したのが『紀土(きっど)』というお酒。でも当初は、まだ迷い迷い出したところもあったんです。
陶山: それはどうしてですか?
山本氏: やはり日本酒の技術を上げるというのは難しいんです。パック酒を作る技術と良いお酒を造る技術というのは全然違いますから。良いお酒を造るためにはまず、自分たちに何ができているかというクオリティチェックが大原則ですが、それができていない。技術力を引き揚げるのにかなり時間がかかりました。

作ってはパックに混ぜ、作ってはパックに混ぜと3年間試作を続け、でもパックに混ぜた瞬間、努力が全部無駄になるわけです。これを続けていくと社員のほうがもたなくなってしまう。なので、まずはというところでスタートし、今はこうだけど、ここから絶対に品質を上げていきますので長い目で見てください、とお願いして出したという感じです。

自分たちにすれば、もっとこうしたい、もっとああしたいというのがあって、味は良いけどまだまだ未完だという思いはありました。なので、『紀土(きっど)』は、きっど=KID、子どもという意味もあって、自分たちも共に育っていきたいという想いも込めています。
陶山: 自分たちと一緒に成長するお酒、という感じですね。

味覚から推理してプロセスを設計する
 
陶山: 社員の皆さんは、味のセンスやテイストの官能力をどのように磨かれているのですか?
山本氏: 日々社員全員、他社のお酒を含めて大体1日30-40種ほど利き酒をしますので、そこで自分たちの感性を磨いています。

そもそもお酒は生きていますので個々の素性が全然違うんです。『紀土(きっど)』の純米も年間12回の仕込みをしますが、その12回とも味が全部違います。数字上は全部同じでも、こっちのお酒には荒々しさが残っているけれど、そっちのお酒は瑞々しくてつややかさがあるというように。

その味の違いの幅を無くしていくのですが、「荒々しさ」や「つややかさ」というのは数字では表せないので、それを技術の中でどう表現していくかが重要になります。

お酒というのは味と香りだけで勝負する世界ですから、それを自分たちが克明に理解した上で、口にいれて何秒かで感じる香りをどうするか、口に入った直後の甘みをもう少し減らそうとか。そのためには、蒸米の時間を変えて給水量を減らしてみようとか、もしくは麹の発酵の時間を変えてみようといった推理をしていくこと。つまり、味から推測をかけて設計を変え、作業に落とし込んでいくということが必要になるんです。
陶山: 以前このブランド対談にご登場いただいたインテリジェントセンサーテクノロジーの池崎社長は、辛みや甘み、苦みといった人間の舌の感覚、さらには先味や後味といったものを数値化されていますが、その数値で出たものを自分たちの味覚や製造プロセスに関連づけるところが難しいんでしょうね。
山本氏: そこは推理をしながらの試行錯誤になりますね。こうしたらこうなるんじゃないかと作業行程を変えてみたけれど、甘さは減ったが何かモタつくようになったとか。

日本酒の場合、米と水と酵母と麹というかなり不確定な要素が複合的に絡むものづくりですから、その官能で感じたことは必然なのかたまたまなのか、という確率論のような世界でもあります。ただやはりクオリティを上げていくということが一番、市場で勝つやり方の王道だと考えています。
陶山: 品質を上げていくということはまさにものづくりの醍醐味でもありますね。たとえばポテトチップというのは、じゃがいもをスライスしフライドして味をつけるというシンプルな工程で最終商品ができるけれど、一番のポイントは、どういうじゃがいもをどこから調達するかだとカルビーの方が仰っていました。日本酒の場合も、米と水と酵母と麹といったシンプルな材料だけど、プラスアルファを実現するためには製造プロセスの部分がかなり影響していますね。
山本氏: 仰るとおりで、今酒造りの方法論もどんどん進化していますから、そうした新たに開発された技術をどうキャッチアップしていくかも重要になってきています。特にうちの場合、まだまだ「人」の部分がボトルネックになっていることもあります。

父の時代は「人件費=コスト」という考え方が一般的でした。今は「人」を重視し、若い社員たちが楽しく働いてもらっなかでよりおもしろいものを造りだしていくための投資という考えでやっています。

ものづくりと営業の一体化
 
陶山: 現在の日本酒業界について、どのようなイメージを持っておられますか
山本氏: ものづくりのメーカーである以上、良いものを造ることが第一と考えていて、プロモーションやマーケティング、営業は二次的なことだと思っています。第一のことがあって第二という順番だと思うのですが、第二のことだけをしている酒蔵もあれば、第一のことしかしない酒蔵もあります。
陶山: 地方には第一のことしかしないものづくり産業が多いようですね。工場見学などで、どうぞものづくりの良さを見てくださいと言われますが、やはりそこに行って体感しないと良さを感じることは難しい。そうするとデスティネーション(旅行目的地)にしてもらうことも大事ですね。
山本氏: お酒のメーカーが全国に約1000社くらいあるとして、第二のこと、つまりプロモーションやマーケティングを重視する営業型の蔵は、200-300社くらいあるんじゃないかと思います。またそこにはほとんどの大手メーカーが含まれているので、実はその営業型が日本酒業界のボリュームゾーンをほぼ席巻しているんじゃないかと思うんですね。

営業型が問題だと思うのは、あまり上質ではないお酒がテレビCMでバンバン打ち出されて売れている。ボリュームゾーンを取りにいくのはいいけれど、日本酒の良さやものづくりの原点が伝わっていない、将来性の無いすごく端的な刈り取り型の戦略になっているように思うんですね。ものづくりと営業が離れてしまっている。そこが日本酒業界が縮小している要因の一つになっているんじゃないかと思うんです。

ボリュームゾーンに大量に出してしまうと、ある意味「消費材」として流通してしまう。それに対して、日本酒は高品質なもの、付加価値のある純粋な嗜好品としてどう魅力的にしていくかというところが欠かせませんね。
陶山: 製造型の蔵元は全国的にも増えてきているように思いますが。
山本氏: 1000社のうち200-300社が営業型なら、あとの700-800社が製造型ということになりますが、そのうち本当に良いものを造っているのは200社くらいでしょうね。

中でも名前を知られているような蔵元さんは、そのブランドが守られているので、とにかく良いものを作っていれば売れていきます。とはいえ伸びるスピードがゆっくりだったりする。なので、ややもすると純粋な製造型で終わってしまわないかという危惧もあります。

今の日本酒業界は端的に言って「悪貨は良貨を駆逐する」状況だと思います。大手メーカーがそういう戦略を取ることもあるので、やはりまだまだ、日本酒って若い人が飲むものじゃないよね、おしゃれな空間で飲むものじゃないよね、という固定観念があるんです。

海外ではおしゃれなパーティに日本酒が出されていたりしますから、おしゃれな空間に合わないと思われているのは、日本酒自体がダメなんじゃなくて、イメージがあまりにも悪いからだと思います。
陶山: 今はモノよりもコト、コトよりもヒトといったように価値観が変わっている中で、日本酒というのは、楽しく嗜んだり、人とのコミュニケーションツールであったり、ライフスタイルをおしゃれに作り上げていくためのリッチなアイテムの一つ、というポジションに変えなければいけないということですね。

日本酒ブームは今
 
井上氏: 今若者に向けて日本酒に関連するさまざまなイベントや取り組みが全国で広がっていますね。例えば東京だと、日本酒100種類が飲み放題といったような。中には日本酒の本質から少し外れているようなものもありますが、そういう状況についてどう思われますか?
山本氏: 日本酒ブームは2010年あたりからじわじわ来ていましたが、2011年の東日本大震災の後に東北の地酒ブームが、また2013年頃から若手の蔵元ブームが起きています。さらに社会的にもスタートアップがもてはやされていた頃で、「スタートアップ×伝統産業」っておもしろい、ということで新規参入されるところも増えました。

ですが、やはり限界がある感じで、今はそのブームも落ち着きつつあるようです。というのも、日本酒が難しいのは、表層的なものを変えるだけで売らんかなというスタイルでは、やはり市場から駆逐されやすいんですね。品質の良さと連動したプロモーションでないと非常に表層的な動きになってしまう。やはり根っこの無いやり方は続かないんです。

日本酒業界全体としても、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは右肩上がりだと思っていたのが、そうはならないという状況に今入っていると思います。
陶山: 日本酒ブームがここ近年少し落ち着いてきているということですが、その要因の一つに、例えば日本酒の造り手のみなさんがこの酒はできが良いとか美味しいということを仰るんだけれど、自分たち消費者が本当にそれを分かっているのかどうかというところもあるんじゃないでしょうか。つまり日本酒というものに対する知識や理解も必要で、日本酒の良さや違いを消費者にどう分かっていただけるように努力していただけないかというところもあるかと思いますが。
山本氏: 仰る通りです。私たちが今行っている取り組みの一つ、若手の蔵元を集めて『Aoyama Sake Flea』という日本酒のイベントを年2回開催していますが、日本酒について知りたい勉強したいという方が多いので、その啓蒙活動としてセミナーも併設しています。

日本酒の良さを伝える、またその本質的な知識をいかに伝えていくかということは、今の日本酒業界にとって重要な課題でもありますし、私たちが一番やっていきたいことでもあります。

市場創出型の酒蔵
 
陶山: 御社は「平和クラフト」というビールも出しておられますね。日本酒とビール、あるいは日本酒とウイスキーやワインというのは、時に競合関係にもなるように思いますが、お酒そのものに対するすそ野を広げる意味ではビールもその一環になりますか。
山本氏: うちにとって敵というのは、焼酎メーカーや海外のワイナリーではなく、お酒を飲まないし食にも興味が無いという消費者かと思います。私自身すごく日本酒の可能性を感じていて、お酒と料理がうまく組み合わさった時の“幸せ感”って何ごとにも代え難い。お酒があると豊かな時間になりますよ、さらにお酒があると人生が幸せになりますよという、そこまでの大きな提案でもあると考えているんです。

ターゲットとして捉えているのは、あまり日本酒に親しんでこなかった方々、特に若い世代であったり女性であったり、さらには海外の方。これまでボリュームゾーンとされていなかったところ。つまり耕すのには苦労するけれど、耕せばそこは自分たちが取れるというところを狙っています。パイの真ん中を取り合いするのではなく、パイの外側を作りながら取っていくというイメージですね。
陶山: ニーズを作り出してマーケットを広げていくという、市場創出型ないしブルーオーシャン型の戦略を目指しておられるということですね。

これからの海外展開・キーはアジア
 
井上氏: 海外は主にどちらに行かれているのですか?
山本氏: これまで主にアメリカでしたが、今はアジアにシフトしています。といいますのも、アジアの人たちは米も魚も食べますし醤油も使う。大枠で考えて日本人の食生活とよく似ているんです。なので日本酒が入っていきやすいんですね。

日本人にとってワインは舶来物という意識があるように、アジアの人にとって日本酒は舶来物。また、日本のものは高品質だという認識も憧れもありますから、どんなに日本嫌いと言われていても、日本のものは大好きという人たちは多いです。
井上氏: アジアの中で特にどこですか?
山本氏: もちろん中国です。今はアメリカが1番の市場ですが、近い将来その2倍、3倍の市場になると思います。中国の人口はアメリカの4倍近い13億、その人たちがアメリカと同じ所得を持つようになると、市場にして4倍どころではないような気がします。

食環境という攻めていける環境があって、且つ富裕層が増えていると考えると、これからの時代、アジアは日本酒業界にとってはキーになるでしょうね。ただ個人的には東南アジアもおもしろいなと思っていますが。
陶山: シンガポールやインドネシア、マレーシアといったエリアも発展が目覚ましいですから、東アジアだけでなく東南アジアも日本酒にとってこれからフロンティアになるかもしれませんね。

地元のおもしろさ
 
陶山: 先日訪問した九州の食品メーカーは、地元の農家の方々と連携していろんな取り組みをされているのですが、やはり地元に愛される会社にならないといけない、商品も地元の良さも同時に対外的にアピールしないといけないと仰っていました。そういう意味で、ものづくりにとって地元の強みというのは重要になりますね。
山本氏: 実は和歌山は米を育てるにはあまり向いていない土地柄ですから、米を県外から買ってくるという農業県にしては珍しい輸入県なんです。なので米を武器にはできませんが、酒造りのもう一つの原材料である水は大きな武器になります。

和歌山は毎年台風が通りますし、山が8割を占めていますので降水量が非常に多い。その恵みで非常に清らかでなめらかな水が豊富にあります。また太平洋側ですから冬もカラっとしているんですね。そのカラッとした中で醸すのが『紀土(きっど)』の味わいなんです。

また、情報発信の面でも、ここ数年、地元が武器になるということを特に感じています。大阪より東京、そして海外と目を向けてきましたが、ブランド力が育ってくると、和歌山ということが改めて大事になってくるんですね。

というのも、和歌山出身の方が故郷の誇りといったイメージで応援してくれますし、他県から来られるお客様も、せっかく和歌山に来たんだから、和歌山の美味しいものと一緒に和歌山のお酒を飲みたいと言ってくれる。さらには、その和歌山のお酒が目的で来県してくれる人も出てくる。そこにすごく「地元」の強さやおもしろさを感じます。
陶山: 和歌山はみかんの産地でもありますから、中には企業によっては単独で完結したかたちで六次産業化されているところもありますね。和歌山というエリア全体での動きはどうですか?
山本氏: 和歌山といえばミカンと柿。そうしたエリアとしての“売り”はあるものの、今はもう地域の物産展も47都道府県どこも似たり寄ったりになってしまっていますよね。どこの物産展に行っても同じ物が売られているという。そういうことじゃ無いと思うんです。

やはりその地域の中でスタープレイヤーとなるメーカーがいくつか出てこないと、産地として食に強い県というイメージが生まれない。そこで今、シラス屋さんや醤油屋さんなど、和歌山で全国的に有名な若手の生産者さんの方たち十数人と組んで団体を立ち上げ、和歌山の食の連携を行なっていこうと考えています。
井上氏: そうした異業種のコンソーシアムを組んで連携するというのもありますが、同業他社との連携はされていますか?例えば秋田県の蔵元さんたちの集団「ネクストファイブ」のような。
山本氏: 仲間を組むにしても、中にものづくりに力をあまり入れていないのにガンガン売る営業型がいると足並みが揃わないですし、良いものを造るということが第一の製造型にしても、ただ良いものを造りたいだけじゃなくて、何か新しいことをやりたいという、その両方の気持ちが揃わないと難しいんですね。

「ネクストファイブ」のような試みはすごく良いことだと思いますし、皆さんとは全員知り合いなので分かるのですが、根本的な志(こころざし)の部分が非常に共感しあえている関係性なんですね。だからこそ対外的なイベントもやっていける。僕も地元で連携する意味は分かっていますので、志の同じ酒蔵さんがもっともっと出てきてくれるなら一緒にやりたいですね。
井上氏: 不思議に思うのが、たとえば「風の森」の油長酒造や「作」の清水清三郎商店のように、同じ時期に同時多発的に出てこられますね。あれは連携してされているのか、それとも個別にされていてたまたま同時期なのかというとどちらなんでしょうか。
山本氏: 恐らく問題意識が揃ったり、環境が揃ったからだと思います。油長酒造は奈良、清水清三郎商店は三重と、どちらも大都市に近くて、そこには大手酒造メーカーがあるエリアなんですね。するとその大手の下請けとして桶売りをされている小さな酒蔵がたくさんあるんです。

大手の下請けになっているといっても、一方で考えると技術がある蔵ということですから、何かのきっかけがあれば良い地酒を造る蔵に変わる可能性はあります。

ただ関西はどうしても売りたがりというか、商売に走る蔵が多いんです(笑)。観光蔵というのも一つの生きる道ですし、サービスと製造を組み合わせた良い方法だと思いますが、地酒のブランドづくりで考えると、やはりものが良くないと限界を迎えます。そういう意味でも、関西にはブランドづくりされている酒蔵はまだまだ少ないのではないでしょうか。

平和酒造にとってブランドとは
 
陶山: 平和酒造にとって、ブランドをどのように考えられていますか
山本氏: まずはものづくりの部分だと考えています。『紀土(きっど)』を出すときも、「これは新しいね、チャンレンジしているね」といった、平和酒造そのままのイメージがきちんと表れている商品にしたいと考えていました。

私の人間性を含め平和酒造のカルチャーとして、誠実さであったり、お酒への愛であったり。そういうものが溢れるもの、きちんと表せるもの、そうしたものづくりこそが、ブランドであると私は思っています。

ブランド戦略研究所に期待すること
 
山本氏: 私は今、京都大学の経営管理大学院でMBAコースに通っていまして、そこで学びながらブランドづくりをしていますが、日々ビジネスの中で実践するのは非常に難しいですね。特にうちのような中小企業だと、大手企業がされているようなことも、人為的に手が回らないので抜け落ちている、もしくは面倒なのでやっていないという部分が多々あると思います。

また、日本という国はあまりブランドマネジメントが得意でないというか、特に我々のようなものづくりの伝統産業がブランド化を図るということは極めて少ないですね。なぜこんな良いものがこれまで求められずにいたのか、なぜ高品質なのに安すぎるのか。海外からは非常に評価されるのに、なぜこういうことになっているんだろうと思うことがすごくあります。

そういう中において、日本の、特にものづくりのブランドを研究していただくのはとても有難いことですし、ぜひ体系立てた理論やブランド構築をご指導いただきたいところです。
陶山: ブランドの良さや違いというものは、海外の方には分かっていただけても、肝心の地元や国内で評価されていないことが少なくないですね。同様に、「ブランド」という概念も、日本ではよくグッチやディオールといった名前を想起されてしまいがちですが、そもそも「ブランド」自体、商品であったり、会社であったり、パーソナリティやシンボルマークだったり、あるいは都市や地域も含めたトータルなものが「ブランド」であると私は考えています。今後もさらに真の「ブランドマネジメントを押し進めていきたいところです。本日はありがとうございました。

取材:2018年9月

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