ブランド対談 #18

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ブランド対談 #18

[ブランド対談]旅行業界/ビジネスモデルの大転換期

ネット社会において急激にIT化・AI&IoTの進展とパーソナライズ化が加速する旅行業界。今回は、その大きな転換期の渦中の2016年、社長に就任された、株式会社日本旅行 代表取締役社長 堀坂明弘氏を訪問しました。

株式会社日本旅行は1905年(明治38年)、日本最初の旅行会社として創業、2002年には西日本旅客鉄道の連結子会社となり、「赤い風船」「50歳からの大人の旅」「テーマの旅」など、数多くの旅行ブランドを展開されています。

従来の「パック旅行」「店頭販売」「慰安・親睦などの団体旅行販売」を中心としたビジネスモデルから、OTA(インターネット上だけで取引を行う予約サイト)の台頭やFIT(海外個人旅行)化、BTM(業務渡航の包括的取扱)やMICE(研修、招待旅行、国際会議、展示会など)、インバウンド(訪日外国人旅行)対策など、多様化するニーズに対応すべく、同社は「VALUE UP 2020」という中期経営計画を打ち出し、これまでのビジネスモデルを大きく転換されようとしています。

そうした第四次産業革命、スマート社会における旅行、観光の将来といった中で、日本旅行の「強み」とは何か、そのマーケティング戦略、ブランド戦略についてお話を伺いました。
株式会社 日本旅行
〒103-8266 東京都中央区日本橋1-19-1
日本橋ダイヤビルディング12階
HP:https://www.nta.co.jp/


堀坂 明弘氏
代表取締役社長 兼 執行役員(グローバル戦略推進本部長)

熊本県出身。1979年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本国有鉄道入社。西日本旅客鉄道 財務部経理課副長、執行役員総務部長、取締役兼常務執行役員総務部長、日本旅行取締役、西日本旅客鉄道取締役兼常務執行役員、鉄道本部営業本部長などを経て、2016年6月日本旅行代表取締役社長兼執行役員に就任。2018年からJATA(日本旅行業協会)副会長、訪日旅行推進委員長も務める。

歴代社長初の旅行業経験者
 
陶山: 堀坂社長は慶應義塾大学を卒業後、1979年に日本国有鉄道に入社され、西日本旅客鉄道取締役常務執行役員を経て、2016年6月に日本旅行代表取締役社長に就任され現在に至っておられます。なぜ鉄道、旅行の業界に入られたのか、その経緯や動機などについてお聞かせ下さい。
堀坂氏: 大学のゼミでは大熊一郎ゼミで財政政策やマクロ経済学を専攻しました。先生は、学部長や理事を歴任されるだけでなく、若い頃には当時の大蔵省で財政的に問題のあった米・国鉄・健保のいわゆる「3K」に関する委員も務めておられました。その先生の影響を受けたということもあります。国鉄は公共企業体ですから、国家の仕事ができるということと、赤字解消、再建に向かっていこうという話もあって、公共性と企業性を求められることもあり志望いたしました。

私はJR西日本で旅行業務に5年間携わり、日本旅行の社外取締役も3年させていただきました。日本旅行がJR西日本のグループ会社ということもあり、グループ内の人事として当社の社長に就任いたしました。日本旅行の社長として私は4代目になりますが、歴代のJR西日本出身者の社長の中で、旅行業の経験者は私が初となります。
陶山: JR西日本時代から旅行業の現状を見ておられたこともあり、移籍は非常にスムーズだったということですね。ところで社長に就任されて3年になりますが、この3年間はいかがでしたか。とくに2017年から推進されてきた中期経営計画「VALUE UP 2020」の達成状況はいかがでしょうか。
堀坂氏: 本音を言いますと、まだ自分には合格点を与えられないと思っています。旅行業界のトレンドやその課題も分かっておりましたし、その中における日本旅行の強みや弱みというのも理解し覚悟はしていましたが、着任以来、旅行業界を取り巻く経営環境の変化が予想以上に加速していたということですね。

ですが、前任の丸尾社長の時代から引き継いだビジネスモデル転換の推進、とりわけMICE(Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、Convention またはConference(大会・学会・国際会議)、Exhibition(展示会)の頭文字)、インバウンド、教育旅行、BTM (Business Travel Management~業務渡航の包括的取扱)、インターネット販売、この5つの重点分野のトータルの販売が全体に占める割合は、今年は50%を超えるだろうと思います。伸ばすべきところを伸ばし、その割合を増やしていくという点においては、我々の計画線上には乗っていると考えています。

ニーズの多様化とインバウンド対策
 
陶山: そういう意味でこの3年間というのは、旅行業界全体がビジネスモデルの転換を求められる重要なとき。その大変な時に社長になられたのですね。昨今の旅行・観光業界をとりまく経営環境、OTA(Online Travel Agent~インターネット上だけで取引を行う予約サイト)の台頭や、FIT(Foreign Independent Tour~海外個人旅行)化といったニーズの多様化についてはどのように見ておられますか。
堀坂氏: 我々もインターネット販売については、中核分野の一つとして取組を強化していますが、FIT化や我々のようなリアルエージェントを介さないOTAの利用というのは、私どもの予想以上に加速している感じがございます。また一方でインバウンドのお客様の増え方も、我々の予測をはるかに上回っています。
陶山: 2018年には訪日外国人が3000万人を突破しましたが、政府は2030年には6000万人という目標を打ち出しています。訪日旅行者数が増えるとその消費額も増えるだろうということですが、一方で、中央から地方へ、地方都市のインバウンド需要も加速しています。その中で中期経営計画「VALUE UP 2020」のもうひとつの柱、地方創生事業についてはいかがでしょうか。
堀坂氏: 訪日外国人は予想を上回る速度で増加していますが、その数字だけを見て一喜一憂することは本質を見誤ると私は思っています。人数が順調に伸びていても、地方都市でのインバウンド対策は、まだまだ思う通りにはなっていない。というのも、基本的には東京や京都・大阪、あるいは九州では福岡、北海道では札幌及びその周辺といった都市部だけが、「宿泊施設が足りない」と言っているんですね。逆に地方の旅館はその恩恵を受けておらず、低い稼働率に悩んでいるところが多いんです。

さらに別の課題もあります。東京や大阪ですらまだまだ夜の過ごし方に対する選択肢が限られているということです。もっとパリやニューヨークなどの都市型観光に学ばなければいけないと思います。地方においても、昔のように単に団体客を送客し、一泊二食付きで旅館から一歩も出さず、お土産もそこで買って帰るというようなスタイルでは、海外のお客様は満足されません。観光地にどんな魅力を作るかというのは、まさに地方が主体となって考えなければいけないですし、我々も一緒にお手伝いをしていかないといけないと思っています。
陶山: 関西のある外資系ホテルの支配人をされていた方からお聞きしたのですが、大阪のホテルに泊まっていただいても、大阪市内で文楽や能を楽しみ、京都で歌舞伎を見たり、あるいは神戸の有馬温泉にも宿泊するといったように、もっと外に出ていただけるよう、エリア全体でお客様におもてなしをするという取り組みをしないといけないと。そうしたときに、宿泊や食、あるいはエンターテインメントや体験施設といったところを、日本旅行をはじめ旅行・観光業界の皆さん方がお互いに提携・協力し、核となってまとめていくといいかもしれないですね。
堀坂氏: 仰るとおりです。消費という面で言えば、日本はせっかくの価値をアレンジせず「無料」で提供することが多いんですね。例えばお祭りにしても、桟敷席を作って、そこでゆっくり観覧できる様なサービスを作ったり、また飛び入りで参加できる権利を商品化したりすることもできます。更に「事前に予約できますよ」というように付加価値をつければ差別化できて、有料化が可能となります。そうした「お金を落としていただく」しくみをもっと作らないといけない。食事にしても、日本だから和食、だけではなくて、和のテイストを織り交ぜたイタリアンやフレンチといったものも外国人観光客には喜ばれていますから。
陶山: 京都の鴨川べりの川床にもイタリアンレストランがあって、やはり外国人観光客も多いですね。京都ハイアットリージェンシーにもすごくおしゃれなイタリアンレストランもありますが、竹林や木のぬくもりを織り交ぜた伝統的な日本の雰囲気の中に、プラス「洋」のテイストを織り交ぜる。そうしたおもてなしが、むしろ求められているのかもしれませんね。
堀坂氏: そうですね。エリア全体での取組という話がでましたが、例えば温泉旅館だからといって全て一泊二食付きである必要もないんです。食事の提供はそのエリアで受け持てば良い。旅館も今人材不足で経営難のところも多いですし、確かに日本的なおもてなしはしっかりするけれど、例えば布団の上げ下ろしをやめてベッドにする等、ある程度割り切ることも必要だと思います。

日本は今後、少子高齢化で定住人口は減少するけれど、滞在人口や交流人口を増やしていけば経済は衰退しない、という話を聞いたことがありますが、日本の隅々に至るまで常に外国人観光客がいる状態を作ろうと思えば、やはり受け入れ態勢を整備しなければいけない。そうなると日本の和風旅館というのは供給力として非常に重要です。そのためには地方も変わらないといけない。先日も観光庁に提案しましたが、インバウンド対策には品質を高めること、つまり中身をアップグレードしないといけない。そのためにできることはたくさんあると思います。

リアルエージェントの強み
 
陶山: 中期経営計画「VALUE UP 2020」では、「安心・安全の担保」「マーケット・イン」ということも重点に置かれています。2020年はもう来年ですが現状はいかがでしょう。
堀坂氏: やはり急速な個人化・デジタル化にまだまだ対応しきれていないという現状はあります。これはリアルエージェントとして、当社のみならず各社が抱えている課題だと思います。

それには2つありまして、1つは私どもの中核分野であるMICEやBTM、教育旅行にしても、移動や宿泊といったベースだけでなく、さらに高度なご提案が求められているということです。昔の団体慰安旅行ももちろん必要ですが、第三のクライアントを創る、もしくはソリューションの提案を求められている。そのためにはもっと異業種とのコラボレーションが必要だと感じています。

もう1つは個人のお客様に対して、我々としては「安心・安全」に旅程を管理するという使命があります。私どもを通してお申込みいただければ、万が一のイレギュラー、例えば災害や事故等があっても我々は最後の最後まで対応します。つまり「個人責任」ではない「安心・安全」を担保していくということです。

昨年の北海道の胆振東部地震の際も、当社のお客様、インバウンドで来られた外国人のお客様も含めて全員、即時に安否確認をいたしました。その際、宿泊先で食料が不足しているということが分かり、札幌以外から調達してお届けしましたが、それもリアルエージェントだからこそできるんですね。そうしたことをOTAとの差別化につながる付加価値として今後も訴求していきたいと考えています。

新たなマーケットの創出
 
陶山: 異業種のコラボレーションというところでは、スポーツ観戦ツアーや参加型ツアー、また先日の民間企業初のロケット打ち上げ応援ツアーなど、ユニークな企画もありますが、そのマーケティング戦略、ブランド戦略はどのように考えておられますか。
堀坂氏: 2020年東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、翌年2021年の関西ワールドマスターズや、福岡県で開催される世界水泳選手権など、これからさまざまなスポーツメガイベントが控えています。それらの観戦ツアーやスポーツMICEは今後もさらに力を入れていきたいと考えています。

また、宇宙関連の科学教育プログラムやツアーに関しましては、当社では1990年代から宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米航空宇宙局(NASA)とも提携しておりまして、スペースシャトルに搭乗された日本人宇宙飛行士のサポートも担当いたしました。

2015年より種子島宇宙センターでのロケット打ち上げを応援するツアーや、米国のケネディ宇宙センターを見学するツアーなど航空宇宙関連のツアーを「sola旅クラブ」という旅行ブランドとして展開、日本人宇宙飛行士の毛利衛さんや山崎直子さんをはじめ、NASAのアメリカ人宇宙飛行士のOBの方をスピーカーにお迎えした講演会や教育旅行、ツアーなど、さまざまな活動を続けてきました。

そうした背景もありまして、2018年にロケット製造・打ち上げベンチャーのインターステラテクノロジズ社と業務提携契約を結び、「ロケット打ち上げ応援ツアー」を実施しました。「応援ツアー」ですから打ち上げが見られなくても旅行代金は返金されません。ですがその場合も、その理由や説明を聞く場を設け、参加されたお客様がさらに宇宙への理解を深められるようなプログラムもご用意しておりました。

「sola旅クラブ」は宇宙開発への理解を深めるイベントや旅を実施するブランド。「宇宙旅行」という将来の目標をも見据えつつ、いろいろな企業・団体とも連携し、宇宙に関心をもっていただく方を増やす、またはそうした層を掴んでいく取り組みです。今後「宇宙」は日本のフラッグシップとなると思いますので、そこも私どもの強みにしていきたいと考えています。

「マーケット・イン」精神と今後の展望
 
陶山: 昨年2018年度の日本生産性本部サービス産業生産性協議会「JCSI(日本版顧客満足度指数)調査」において、旅行業で初の「顧客満足度」第1位を獲得されました。その背景にはどんな取り組みがあったのですか。
堀坂氏: おかげさまでこれはまさに「マーケット・イン」の精神のもと、社員全員が日々CS活動に取り組み、誠意をもってお客様に対応させていただいたことへの評価であると思っています。

当社には店頭でのコンサルティングスキルが高い社員を「コンシェルジュ・スタッフ」として認定する制度がありまして、ロールプレイングによって、商品知識だけでなく、お客様のニーズに合わせた接客や、臨機応変の対応を評価しています。

ご提供のしかたでお客様の評価もかなり違いますから、一言足りないだけでも減点対象になる。まだそれほど多くの認定者を出していませんが、「顧客満足度」で第1位になりましたので、これを継続して確固たるものにしていかなくてはいけないと考えています。
陶山: 2019年1月に「グローバル戦略推進本部」を設置し、海外エリア、国・地域ごとにインバウンド、アウトバウンドの枠を超えて本格的にグローバル化を進めてきておられますが、この分野での課題や重点取り組み項目はいかがでしょうか。
堀坂氏: 海外からのお客様、あるいは海外に行かれるお客様を、インバウンド、アウトバウンドという範疇で考えると、どうしてもそれぞれで実績を上げるという行動原理になってしまいがちです。そうではなく、例えばオーストラリアですと、日本からオーストラリアに行かれるお客様、オーストラリアから日本へ来られるお客様、そしてオーストラリアにおいて第三国に行かれるお客様、第三国から来られるお客様、そうしたエリアごとにお客様を全体としてとらまえた戦略を考えています。

そこで、当社の34か所ある現地法人も社長交代などで若返りを図り、グローバル人材を増強する等、戦略的に現地と本社と連携ができるようミッションを再定義しました。
陶山: 堀坂社長が現在一番やりたいと思っておられることは何でしょうか。
堀坂氏: 自分の役割上でもありますが、さまざまな企業や地方自治体のトップをはじめ、いろいろな方とお会いすることを大事にしています。年齢的に確かに移動は負担になってはいますが、多くの方とのお話や考え方に触れることによって、自分自身の活性化・リフレッシュに非常に繋がっていると感じています。

また、機会ある毎にこうした取材をできるだけ受けるようにしています。それは業界誌紙やマスコミでは客観的な目線で社長や会社の考え方が世の中に発信されるとともに、社員がそれを見ることによって自分の会社に対するモチベーションアップに繋がるのではないかと考えています。

ブランド戦略研究所に期待すること
 
陶山: 今回当研究所の理事になっていただき、ますますのご活躍をお願いしたいと考えておりますが、一般社団法人ブランド戦略研究所に期待することは何でしょう。
堀坂氏: 2019年は「マーケット・イン」でさらにビジネスモデルを進化させたいと考えておりますが、当社の特徴付けといったところはまだまだ供給者の論理になっていることも少なからずございます。そこで客観的にブランド戦略を実務面にしっかり落としこむべく、私どもも材料提供者になると共に、さまざまな企業の方たちのご教授をいただきたい。そういう議論を共にさせていただきたいと考えております。よろしくお願いします。

取材:2019年5月

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