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【開催レポート】2019年11月度 東京第16回フォーラム

顧客体験(CX)の構築とマーケティング・流通、ブランド戦略
-デジタルとアナログ-

「一般社団法人 ブランド戦略経営研究所」では、毎年恒例になっている東京第16回フォーラムを、11月26日(火)に開催いたしました。テーマは「顧客体験(CX)の構築とマーケティング・流通、ブランド戦略-デジタルとアナログ-」です。今回は、会員である小々馬 敦 産業能率大学 教授、および日本ダイレクトマーケティング学会からの企画・参加協力をいただきました。

インターネットマーケティングの中で、顧客接点の在り方として追求されてきたUX(ユーザーエクスペリエンス)と類似した用語として現在、CX(カスタマーエクスペリエンス)が話題になっています。 戦略、クリエイティブ、シェアリング、カスタマージャーニー、CRM(顧客関係管理)などその範囲も広く、人によってその捉え方に幅はありますが、デジタルに限らず、今後のマーケティングを語る重要な概念のひとつであることは間違いありません。

今回の東京第16回フォーラムでは、このような現状認識をふまえて、「顧客体験(CX)の構築とマーケティング・流通、ブランド戦略-デジタルとアナログ-」というテーマを設定し、この分野で精力的に活躍しておられる三人をお招きし、デジタルマーケティングが進展する中で、顧客接点の在り方として追求されてきたCX(カスタマーエクスペリエンス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)、カスタマージャーニー、CRM(顧客関係管理)などをめぐる最新の動向と課題を考察しました。

冒頭陶山理事長から解題提起、つづいて小々馬講師からの今回のテーマの背景と全体像、問題意識を受け、田中講師、郡司講師とご講演いただき、その後4名でのパネルディスカッションを行いました。

主催者開会の挨拶・オープニングスピーチ

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 理事長 陶山 計介

高木克典当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、 当研究所の陶山理事長より東京第16回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の趣旨・事業概要、本フォーラムのテーマ&トピックについて説明がなされました。

陶山理事長:当研究所は「経営-マーケティング-知財の三位一体化」というビジョンのもと、我が国のビジネスに役立つオールジャパンのシンクタンクを目指して活動しています。

現代は、スマートフォンの普及によって、24時間、365日、検索・購入・発信することが当たり前となり、サービスの対象は個として認識され、「特別さ」を提供することが容易になりました。顧客視点に立って製品・サービスを提供することが重要視される中で、一気通貫した「顧客体験価値」を提供していくことが重要になっています。

今回のフォーラムでは、デジタルマーケティングが進展する中で、顧客接点の在り方として追求されてきたCX(カスタマーエクスペリエンス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)、カスタマージャーニー、CRM(顧客関係管理)などをめぐる最新の動向と課題を考察します。

陶山計介 当研究所理事長
Profile:一般社団法人ブランド戦略経営研究所理事長。関西大学商学部教授。京都大学博士(経済学)。『ブランド・エクイティ戦略』(共訳著、ダイヤモンド社)、『日本型ブランド優位戦略』(共著、ダイヤモンド社)、『よくわかる現代マーケティング』(共編著、ミネルヴァ書房)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会元会長。
第1講「CX時代に進化するブランディング」

産業能率大学 経営学部 小々馬 敦 教授

小々馬講師からは、社会の変化に伴うマーケティングの進歩と、新たな時代に適応するためのブランディング、両者の重要な共通項であるカスタマーエクスペリエンスの捉え方についてお話しいただきました。

小々馬講師:グローバル企業のブランディングは非常に明確で、経済付加価値・超過利益を高めること、無形資産であるブランド価値を高め、将来にわたって事業を継続させること(ゴーイングコンサーン)が目的といえます。将来が不確実な時代が到来し、自社の将来ビジョンよりも、社会をどうしたいのかという“パーパス”が問われる時代になりました。持続可能な社会の実現に貢献することが、企業の持続的な成長にも繋がるという考え方へ変わりつつあります。

Society5.0(超スマート社会)、SDGs(持続可能な開発目標)、パーパス・ブランディングを考慮し、環境・社会・企業統治の3つの視点から経営を行うことが企業価値を高めますが、「エコシステム、三方よし、インクルーシブ」という概念が根底にあり、経営価値観、企業ブランディングのパラダイムシフトが始まっています。

急激な人口減少に伴いエコシステムの時代が到来し、経済規模は縮小し、従来の人口増加・経済成長を前提とするマーケティングは通用しなくなってきました。商品に出会った“ときめく想い”がSNS上に投稿され、その想いに同調するヒトがブドウの房(クラスター)のようにつながり市場が形成されるようになりました。

2000年以降デジタルデータ量は増大し、情報爆発を起こしました。特に2000年以降に生まれた世代は、情報の扱い方が変化しているように感じます。私たちは脳内で情報を処理していましたが、この世代はどんどんスマホに保存していきます。スマホを脳機能の代用として情報処理を簡易化しています

そして、幸福感の形も変わってきているので、それはマーケティングにも影響します。伝統的なマーケティングは、「To Be あるべき姿の実現」の為に、何をすべきか、今これを買えばいいと結びつけていました。若い世代は、停滞する経済の中で、明るい未来を描けないという傾向があります。彼らが求めているのは「Being 自分らしくありたい」という視点での消費です。製品中心、消費者中心、顧客中心の時代は、利益を上げられるお客様を優先していましたが、これからは人間中心に自然や社会と共生した価値が選ばれる時代へと移り変わっていきます。

​2000年当時は、カスタマーエクスペリエンスではなく、タッチポイントホイールと呼ばれていました。購買前と、購買後でタッチポイントを分け、シナリオ開発をしていましたが、ビッグデータの活用が広まり、行動がリアル化されたことで、カスタマージャーニーという手法がスタンダードになっています。企業の“売ろうかな”のエゴで設計された顧客体験は、“落とし穴・罠に仕掛けられるような感覚”で、実際の顧客からすればときめきがありません。CXデザイナーには、人間中心の想い“ときめき”デザインであることを意識して、マーケティングによって豊かな社会づくりに貢献していただきたいと思います。

小々馬 敦氏
産業能率大学経営学部マーケティング学科教授 産業能率大学大学院総合マネジメント研究科教授 株式会社BRAND ENGINEERING代表

Profile:広告業界からキャリアが始まり経営戦略コンサルティングに転身。インターブランドジャパン エグゼクティブコンサルタント、プロフェット(米)日本代表、フューチャーブランド 代表取締役社長を経て、2010年より現職。企業変革、海外マーケティング、事業ポートフォリオ戦略他ブランディングによる企業と事業の価値創造に従事。『マーケティングコミュニケーション大辞典』(執筆編集委員、宣伝会議)『通勤大学MBA ブランディング』(共著、総合法令)など。
第2講「ブランディング起点のCXの捉え方、CX起点のブランディングの捉え方」

電通アイソバー株式会社 取締役 田中 信哉氏

田中講師からは、コミュニケーションの領域とコマースの領域が極めて近くなった今日、企業やブランドは、それらの全体像をどう捉え、何に配慮して取り組めばいいのか。デジタルによって議論が複雑化する中にあっても、状況をシンプルに捉え、生活者との向き合い方についてお話しいただきました。

田中氏:電通に入社してCMプランナー、クリエイティブ・ディレクター、経営企画局を経て、現在は電通グループのグローバルネットワーク・ブランドの1つである電通アイソバーの職務についています。これからのデジタルマーケティングは、テクノロジーを駆使して、いかに人を不快にさせずスマートに導けるかが課題です。

【CX design】とは、商品やサービスを購入する過程、利用する過程、その後のサポートの過程における経験的な価値(心理的・感情的な価値)を指します。目に見える価値と、目に見えない価値がしっかり設計されていることが求められます。目に見える価値とは、(物理的な)プロダクトやサービス、デジタルスクリーンのこと。目に見えない価値とは、計算された導線、情緒や使う人への愛情のある五感へのアプローチです。社内でも日々模索しながらCXとは何か、CX designを一つの定義にまとめるべきかを議論しています。

​電通アイソバーが手掛けたCX designの例を挙げると、航空会社AIR DOさんのLINEで発券、搭乗できるサービス。中国のKFCさんの、WeChat(中国最大のSNS)上でユーザーがバーチャルストアフランチャイズ店オーナーになるデジタル施策。オランダのフォルクスワーゲンさんの位置情報に基づいて物語がスマホ上で展開される子供向けのサービスなどがあります。そこで不可欠なのは、無機質な世界観ではなく、フレンドリーなインターフェイスで五感に訴えることです。

CX実現のプロセスは、サービス価値の定義、マーケティング、コンテンツ、UI、運用と事業の課題に合わせて柔軟に対応し、大きくはSTEP1:DISCOVER, STEP2:DEFINE, STEP3:DESIGN, STEP4:DELIVERの4ステップを踏んでプロジェクトを進行していきます。

CX designを、人を中心にシンプルに捉えると、ゴールに向かうモチベーション、動機づけ、ときめきの矢印と、もうひとつは、摩擦、障壁をなくす矢印です。この矢印の間には組織が異なる、専門性が異なる、カルチャーが異なる、KPIが異なるなどの隔たりがあります。

そこで、大切にしたいことが「①俯瞰視点と顧客視点②横断的マネージャー③双方における専門性④適切な資源配分⑤一貫性と柔軟性」です。

優れた広告表現の重要性は変わることはないと強く思います。コミュニケーションの領域では、アウトプットにばかり目がいきますが、クリエイティビティの発揮については、着眼点と手法を意識し、深掘りしなければいけません。

ブランドの形も変化しています。かつてのブランドは、頂点をめざしていましたが、のちにテクノロジーをいかに取り込んで、いかに先端であるかを競い始めるようになり、今日では、無意識に選ばれる溶け込んだものが勝者になっています。

生活者に溶け込むために、“所有”と“移動”、“コミュニケーション”と“コマース”、“一過性”と“サブスクリプション”、“貨幣通貨”と“デジタル通貨”、“開発”と“フィードバック”など、事業の境界線が溶けつつあります。

かつてのマーケティングの位置づけは、インプット(製造)されたものがアウトプット(販売)される流れに介在するひとつのプロセスとして存在していました。しかし今日では、プロダクト×サービスは一体化しています。

たとえば、インターフェイスとメディアとアドが一体化したような事業が存在します。その影響力によってコミュニティが形成され、フィードバックがあり、アップデートされます。もはやマーケティング、ブランディングの役割は消えたともいえますし、すべてともいえる状況となりました。

アウトプット型のビジネスは先がないというわけではありませんが、こうした事業の潮流をみながら、新しい事業、新しいサービスを創造する目線が必要になります。これからの企業の役割は、価値の生産と分配ではなく、価値の提案と共創、サービスの提供です。

​前述したようにプロダクトとサービスの境界線、物理的なサービスと価値の境界線、目の前にあるタッチポイントがバラバラに点在するのではなく、境界線を溶かしながら、フリクションレスに進む価値を考えていきたいと思います。

田中 信哉氏
電通アイソバー株式会社 取締役

Profile:1998年株式会社電通入社。クリエーティブ局のCMプランナーとして、多くのクライアントの広告制作に携わったのち、クリエーティブディレクターに。主な仕事として、LEXUSの広告プランニングおよび全体ブランディング、資生堂の複数のブランドの広告プランニングや商品戦略立案がある。広告領域を超えてクライアントのインターナルマーケティングやCEOのブランディング、事業コンセプト立案なども手がける。電通の経営企画局を経て、2017年より現職。慶應義塾大学大学院 経営管理研究科Executive MBA修士課程修了。
第3講「店頭の顧客行動データが見えることで、進化する顧客体験

店舗のICT活用研究所 代表 薬剤師 郡司 昇氏

郡司講師からは、小売とマーケティング、そして現在進行形の新しい小売店頭の顧客行動分析をいかにBtoCに活かすかという問題意識の下に、CRM、位置情報、画像AI解析などの小売業活用、EC・オムニチャネル改善などを取り上げながら、「店頭の顧客行動データが見えることで、進化する顧客体験」をテーマに、究極の顧客体験に進化する可能性のあるAmazon Goや今話題の中国ニューリテール盒馬鮮生(フーマー)についてもご自身で顧客体験して分析された結果をお話いただきました。

郡司講師:ドラッグストアを定性調査、定量調査して、仮説・検証して出てきたものの一つが、「友達以上、医者未満」というユニバーサルニーズでした。ヘルスケア市場のセグメンテーションから顧客ニーズを分析しますが、残念ながら、そのニーズに応えた形では、ドラッグストアは差別化されていません。

小売(リテール)とは、商品(物)と生活者(人)を繋ぐ「場」のこと。さらにニューリテールとは、データで「場」の力を高めることです。ニューリテールの実現には、データをどう活用するのかという知恵と、データをどう取得するのかというフェーズが必要です。商品と小売は、Co-creation(共創)で、小売と生活者はCommunity、Communicationで繋がり、結果として、快適さや便利さを得ているのです。

​オムニチャネル時代の到来により、店頭ではなく、生活で映える商品デザイン・パッケージが登場し、宅配を考慮した包装単位が意識されるようになりました。

ここでアメリカのホームセンター「Home depot」の成功事例を紹介します。Home depotでは、計画購買の利便性を高めることで、非計画購買に繋げ、既存店前年比毎年平均6%と成長を続けています。投資を新店ではなく、既存店価値を高めるデジタル化にあてています。オンライン注文は、4〜5割が店舗受取(Buy Online Pick Up in Store)で、そのうち20%は店頭でついで買いしています(→現物を見て決める+衝動買い)。

いかに非計画購買を増やすかが大きな課題となりますが、顧客行動解析サービス「go insight」を利用すると、棚前の顧客行動を把握することができ、棚割り、販促物の効果など、様々な要素を検証することができます。go insightはリアル店舗の天井カメラ画像からショッパーの属性・滞在・棚前行動をデータ化し、データを分析することにより新たなインサイトを得て効果的なアクションに繋げることができます。

顧客購買行動の把握事例としてAmazon Goがあげられますが、Amazon Goを無人店舗、無人レジというワードでクローズアップするのではなく、レジ(で並ぶ、不要な接客を受ける)のない顧客体験の実店舗展開という文脈で捉えた方がいいと思います。Amazonのビジネスは、顧客の購買体験を助けることが中核です。

日本でも、イズミ、イトーヨーカドー、トライアル(九州のディスカウントストア)等で、タブレットカートを導入し、衝動購買を促す取組が行われています。b8taというショールームは、商品を売ることが目的ではありません。収集した顧客行動データをメーカーに売るという店舗も存在します。

中国の盒馬鮮生(フーマー)では、新鮮な食材との出会いと、ロボットレストランではユニークな体験ができると話題になっています。​ユーザー同士のコミュニケーションを生むような施策、便利で、快適な顧客体験の提供が、非計画購買を促進していくと分析しています。

郡司 昇氏
店舗のICT活用研究所 代表 薬剤師

Profile:1999年 株式会社ランド設立 代表取締役社長 (株)セイジョーとFC契約しドラッグストア経営。2007年 株式会社セイジョー入社 調剤事業部課長。2010年 株式会社ココカラファイン事業管理室課長に転籍。グループの業務効率化・アライアンス・システムリプレース・販社統合の全てのPJに携わる。2013年 株式会社ココカラファインOEC設立 代表取締役社長。2016年 株式会社ココカラファイン 統合マーケティング部長兼任。2018年4月〜現職。 My job is 全体最適なデジタルシフトに関して悩みがある企業(小売業、メーカー、ITテック企業)のお手伝いをして、その先にある顧客体験を向上すること。
◇パネルディスカッション・質疑応答

小々馬教授(左上)田中氏(右上)郡司氏(左下)

陶山計介当研究所理事長(関西大学教授)をファシリテーターとして、講師の3名である小々馬講師、田中講師、郡司講師とともにパネルディスカッションを実施。CXの時代背景・課題・キーポイント、企業側の責務などさまざまな議論が展開されました。

また、参加者からは、「ピークアウトの時代における顧客の捉え方について」「閉塞感を打ち破るマーケティング戦略やブランド、コミュニケーションについて」「CXの標準化と最適化について」などの質問や感想が相次ぎ、活発な質疑応答がなされました。

◇閉会の挨拶

最後に、株式会社エムディ・ソリューションズ里見常務執行役員より、講演から特に感銘を受けた3点

①デジタルマーケティング活用の方向性
②若者動向
③境界線を溶かす取組
についてお話しいただき、講師、参加者の皆様への謝意が述べられ、無事閉会となりました。

 

◇総括

今回の東京第16回フォーラムは「顧客体験(CX)の構築とマーケティング・流通、ブランド戦略-デジタルとアナログ-」をテーマに、お三方それぞれの分野でのこれまでの素晴らしい活動についてお話しいただきました。講師の方をはじめ多くの皆様のご協力により本フォーラムを盛況のうちに終えることができました。ご講演いただきました3名の講師の皆さんには厚くお礼申し上げます。

2019/11/26

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