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【開催レポート】2022年6月度 東京第20回フォーラム

SDGs時代の企業経営とパーパス・ブランディング
 
「一般社団法人 ブランド戦略経営研究所」では、関西大学東京センターおよび関西大学東京経済人倶楽部の後援で「東京第20回フォーラム」を2022年6月20日(月)に開催しました。今回のフォーラムのテーマは「SDGs時代の企業経営とパーパス・ブランディング」です。
 

今回のフォーラムでは、デジタル化とコロナ禍に加え、激変する国際情勢にともなう原材料やエネルギーの価格上昇、円安基調で推移する為替環境、金融市場の逼迫など厳しい環境下でSDGsやESGなど社会的課題にどのように取り組んでいくべきか、それが企業のブランド戦略経営や持続的競争優位の構築、成長といかに関連するかを議論するため、この分野の最先端で精力的に活躍しておられる二人の講師をお招きしました。

冒頭、当研究所の陶山 計介理事長からの解題提起を受け、小々馬 敦氏、劉 越氏の2名の講師の方にご講演いただき、その後、陶山理事長のコーディネーターによるパネルディスカッションを行いました。

 

主催者開会の挨拶・オープニングスピーチ

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 陶山 計介 理事長

今回の東京フォーラムの後援をいただいた関西大学東京センターの杉本 仁嗣事務長より開会の挨拶を受けた後、高木 克典当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、陶山理事長より東京第20回フォーラム開催のご挨拶、及び当研究所の趣旨・事業概要、テーマ&トピックスについて説明がなされました。

 

陶山理事長:一般社団法人ブランド戦略経営研究所(BSMI)は、トップマネジメント、マーケティング、広告、広報、知財などのビジネスに役立つオールジャパンの全く新しいシンクタンクであり、2012年に設立された一般社団法人ブランド戦略研究所(BSI)の設立10周年である2020年11月に現在の名称に変更しました。

BSMIは、マーケティング戦略と知財戦略を基軸にしながら、人材開発戦略、営業戦略、生産戦略、研究開発戦略、財務戦略など、様々な機能戦略の連携によりブランド戦略経営を推進することを目的としています。ブランド戦略経営に関する調査研究や教育研修、普及活動、出版や広報、あるいは内外の諸機関等との連携・提携・交流などを行っています。

研究成果の一つとして、昨年2021年7月に『インターナルブランディング:ブランド・コミュニティの構築』、同年11月には『地域創生マーケティング』が出版されました。この2冊は日本マーケティング学会の実施する「日本マーケティング本大賞2022」の上位10作品にノミネートされています。

 日本マーケティング学会「日本マーケティング本 大賞2022」:
 https://www.j-mac.or.jp/bookaward/

 

本フォーラムのテーマは、「SDGs時代の企業経営とパーパス・ブランディング」です。

ポストコロナ社会あるいは第四次産業革命においては、IoT、AI、ビッグデータ等の新技術の活用をふまえながら、DXやCXあるいはGX(グリーントランスフォーメーション)などのビジネス課題、さらにSDGsやESGに加えて安全・安心・健康といった社会課題に対応するビジネス・組織モデルおよび社会モデルの実現が急務となっています。

激変する国際情勢にともなう原材料やエネルギーの価格上昇、円安基調で推移する為替環境、金融市場の逼迫など厳しい環境下で、SDGsやESGなど国際的課題にどのように取り組んでいくべきか、それが企業のブランド戦略経営や持続的競争優位の構築、成長といかに関連するかなど、参加者の皆さまと一緒に考えていきたいと思います。

 

本日のフォーラムの講師を務めていただくのは、産業能率大学経営学部教授の小々馬氏、オムロン株式会社サステナビリティ推進室長の劉氏のお二人です。

小々馬氏には「『日経統合報告書』290社の研究から見えてきた日本企業のパーパス経営とブランディングの現在と未来」をテーマとして、また劉氏には「SDGs時代における企業理念経営の実践」と題して、それぞれご講演いただきます。本日のフォーラムのトピックスは、次の3つです。

  1. 激変する今日のビジネス環境下においてSDGsやESGなどの社会課題をどう位置付ければ良いか。
  2. 企業のブランド戦略経営にとってパーパス経営ないしパーパス・ブランディングの役割は何か。
  3. パーパス経営ないしパーパス・ブランディングを実践する上で必要な条件、課題は何か、また担い手は誰か、推進体制をいかに構築すべきか。

 

パーパス・ブランディング、パーパス経営に関しては、2005年にSchultz, M.(2005)氏により、企業のブランド管理に対するパーパスの概念を用いた新しい視点が提供されました。これ以降、日本国内でもパーパス・ブランディング、パーパス経営が着目されるようになりましたが、なぜパーパス(=目的、存在意義)が求められるのでしょうか。組織外の人材を引き付ける求心力として、あるいは組織の新しい方向を提示するためにパーパスが求められ、さらにパーパス・ブランディングは企業の「存在意義」を世の中に伝播させる運動の方法論としても説明されています(佐宗邦威、2019)。

またパーパスには、表層的パーパス(Convenient Purpose)と深層的なパーパス(Deep Purpose)の2種類があり(Gulati, R., 2022)、私たちは、組織原理として営利性と社会性の双方の存在感を社会にもたせる「深層的なパーパス」を追求しなければなりません。しかしパーパスを社内に浸透させていくことは非常に難しく、戦略立案、人材採用、新規事業開発など組織の仕組みとして、また社員の一人ひとりの行動指針になってはじめて「深層的なパーパス」となると考えられます。

パーパス・ブランディングを通じて、通常企業から外部のステークホルダーに提供するエクスターナル・コミュニケーションに加えて、内部のインターナル・コミュニケーションも展開していかなければなりません。

昨年出版した『インターナルブランディング』では、従業員の職務・会社満足による自己実現、いわゆる”Living Brand”=ブランド体現により、社員のモチベーションやエンゲージメントを高め、ブランドと社員が一体化することでパフォーマンスが上がることを提案していますが、このブランド体現は、パーパス・ブランディング、パーパス経営においても重要になってきているのではないでしょうか。

 

以上、解題提起として本日のフォーラムテーマの解説を申し上げました。これから2名の講師の方のお話をお聞きし、さらにパネルディスカッションで本テーマを深めていきたいと思います。

 

陶山 計介 当研究所理事長
Profile:一般社団法人ブランド戦略研究所理事長。関西大学商学部名誉教授。京都大学博士(経済学)。『ブランド・エクイティ戦略』(共訳著、ダイヤモンド社)、『日本型ブランド優位戦略』(共著、ダイヤモンド社)、『よくわかる現代マーケティング』(共編著、ミネルヴァ書房)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会元会長。

 

第1講「『日経統合報告書』290社の研究から見えてきた日本企業のパーパス経営とブランディングの現在と未来」

産業能率大学経営学部 教授 小々馬 敦 氏

小々馬講師からは、日本企業290社の『統合報告書』に記載されている経営理念に関する情報の体系化および、企業のSDGs/ESGに関する広告計画意向の分析を通じて、2022年現在の日本企業におけるESG経営とパーパスブランディングの進捗、そして今後の浸透の見通しについてお話いただきました。

 

小々馬講師:

●パーパスの潮流:企業経営、広告宣伝・ブランドマーケティング

「パーパス経営」、簡単にいえば「理念経営」という言葉は、2019年位からビジネス誌で多く見られるようになりました。広告宣伝においても、世界三大広告賞の一つ「カンヌ・ライオンズ」で「パーパス」がテーマとして扱われるなど、注目を集めています。

日経広告研究所では、企業経営やブランドマーケティングの研究者を集めて、「社会志向型メッセージ発信の体系化」を目的とした研究プロジェクトを開始しました。同プロジェクトメンバーに加わった私は、投資家とのコミュニケーションを図る「統合報告書」の中に、社会や一般生活者とコミュニケーションするコンテンツが内包されているのではないかと考え、これを前提として研究に着手しました。

日本経済新聞社のデータによると、現在の広告宣伝費全体の約2割が企業広告であり、毎月50件ほど、ESG・パーパス関連の新聞広告(全面広告)が出稿されています。これら企業広告では「自社の社会との有意義な関係性」、すなわちパーパスを訴求することが上位の目的として挙げられました(全体の約1/3)。今後の意向調査を踏まえても、パーパスを扱った企業コミュニケーションは今後も増えていくと思います。

 

●統合報告書:企業のソーシャルメッセージの源泉

統合報告書は、原則的に個人や機関の投資家を読者として想定しており、投資家が企業価値を評価してアクションするための財務情報が公表されています。現在では、これまで別途存在していたCSR報告書や環境報告書の内容も、企業価値を説明する非財務情報として統合され1冊にまとめられています。

私はゼミ生と共に、日経が実施する「日経統合報告書アワード2021」に応募・参加した290社を対象として、専門的な見地からではなく、一般生活者の視点に立ち、統合報告書が対話の基になりえるのかを調査しました。以下から、この調査成果についてご紹介します。

 

●パーパスの理解―パーパスを「掲げる」

各企業が掲げるパーパスの言葉をみると、自社の存在意義あるいは未来社会を見据えた想いやビジョンを示しています。またパーパスの揚げ方には特定の文脈や決めごとはありません。似たような表現にタグライン・スローガンがありますが、これらはブランドが主体となり語るのに対し、パーパスは人が語りかける言葉です。

また、パーパスは新たにつくるものでなく、創業当時からの経営理念をリマインドして掲げていることもポイントです。

 

●パーパスを基点に、自社理念と2030ビジョンをつなぐ

現経営者が自らの想いやビジョンを語る「企業理念」は、創業者の想いである「経営理念」と、必ずしも一致しません。企業理念には、ステークホルダーに対してビジョン・ミッション・バリュー3つを示すのが通常ですが、経営理念には、従業員に対する教示として社是・社訓、綱領、行動規範などがあります。近年では「Way」という表現で自社の流儀や道理と共に理念全体を示す企業も見られます。

サステナブルの時代にあっては、2030年のビジョンと、上記のような理念全体の基軸にパーパスを介在させることで、骨太な成長シナリオを描くことにつながると考えます。

 

●統合報告書の現在地点

トップメッセ―ジ:

統合報告書の冒頭に示されることの多い、経営者のトップメッセージをテキストマイニングして分析すると構文化・定型化していることが分かりました。学生の視点からみれば、経営者が「自身の言葉」で語っているのかが、信頼・信用に関わる重要なポイントになるようです。

 

マテリアリティ・重要課題の定義:

マテリアリティ・重要課題の記述をテキストマイニングすると、上位の課題は、気候変動(E)、ダイバーシティ(S)、ガバナンス(G)と、そのままESGを示しています。「ESGに対応している」ということを型どおりに伝えることが、現段階のフェーズだと推測されます。

 

SDGsテーマへの取り組み:

国連では17のゴールを開発、経済、地球と分類していますが、日本企業の取り組みで集中しているのは経済であり、開発や地球への取り組みは弱くなっています。SDGsは元々、この貧困や飢餓への取り組みが発端にあり、ヨーロッパの企業はここを中心に取り組んでおり、日本との違いは顕著です。

 

●統合報告書のアップデート

ステークホルダーを捉え直す―地球環境、サプライチェーン、将来世代

企業が取り組むSDGsテーマの偏りを「SDGsウエディングケーキモデル」に当てはめて考えると、企業が存在するために必要な経済圏Economyを支える、人間社会圏Society、地球環境圏Biosphereへの意識が現状ではまだ弱いことが分かります。

日本企業では古くからある「三方よし」がSDGsの取り組みと関連してよく使われますが、これを現代の環境にアップデートする必要性があると考えます。地球環境やサプライチェーンをもステークホルダーとして捉え直すと同時に、時間軸を取り入れて将来世代も捉えていくことが、これからのフェーズではないでしょうか。

マテリアリティマップ:

マテリアリティ=重要課題の決定には「マテリアリティマップ」がよく使われます。「社会にとっての重要性」と「自社事業へのインパクト」の両者が高い「重要課題」は、多くの企業でテーマが重なり、取組は限定的なものとなってしまいます。

これからのフェーズでは、17のカテゴリにとらわれず、自社が重要であると捉えた社会課題を社会に問いかけ、生活者の固定概念や、習慣・行動の変容をサポートする、啓発コミュニケーションに移ると思います。

 

●企業の2つの経営命題:企業価値と存在意義

企業の経営命題のひとつは、企業評価者との対話による「企業価値」の向上です。市場経済における企業価値は分かりやすいものでしたが、現在はここに、社会価値、環境価値も加わっています。

また、もう一つの経営命題に、企業の事業が、社会や地球環境に役に立っているのか、という「存在意義」が加わります。実は、経済価値よりもこの存在意義を示すことが先で、社会の中で事業には意味があることのコンセンサスを取らないと、そもそも事業は継続できません。

 

企業の価値創造プロセスは、チャートに図示することでストーリーが可視化され、学生にとって分かりやすいものでした。パーパス基点・基軸でこのシナリオを書く企業はまだ全体の1割程度ですが、このチャートを一般生活者に伝えていくべきコンテンツに翻訳し、分かりやすく伝えることが必要だと思います。

また一般生活者や社会に企業の存在意義を広めていくためには、高い解像度で未来ビジョンを描くことが必要です。ここに共感、共鳴、応援してもらえるよう、広告宣伝部門の方々にはクリエイティビティを発揮してもらいたいのです。

 

●理念発信の課題:業界の温度差、社内サイロ化

理念発信は、業界別に温度差があります。カーボンニュートラル、廃棄、エシカル消費などの深刻な問題を抱える業界、特に輸送・物流、ファッション等の業界では、「社会から共感を得る」ための理念発信は重要視されています。

一方で、社内の組織を見てみると、広告宣伝部が連携している部門は、トップとの連携はまだまだ弱く、企業価値を投資家と対話するIRや経営企画とは、特に連携が進んでいないことから、社内サイロ化(他との連携をとらず自己完結して孤立する状態)の解消にも取り組む必要がありそうです。

 

●ソーシャル対話:生活者・社会との対話

こうした課題の解決に向けて、ソーシャルな対話を試みる必要があります。社内発のコミュニケーションを、最終的には生活者一人ひとりの興味に応じて、上手く統一することです。

学生は、そもそも統合報告書の存在を知りません。ウェブやマスメディアまで企業情報は届いているが、最後のスマホ(パーソナル・プレイス)まで来ていないのです。現在欠けているあと1つか2つのPeerをつなげるプラットフォームの整備が必要です。

 

1990-2000年代、当時インターネットが普及しはじめて情報過多と言われていた時代に、「ブランド」は消費者がモノやサービスを選ぶときの記号情報として機能し、ブランドに人格や意味を持たせる意味がありました。しかし2010年代には、若い世代をはじめネットでブランドの裏側を見にいきます。誰が作っているか、どこの会社か、何を考えているか、これらが見えないと信頼・信用されません。

ブランドが消費者に約束する関係から、ブランドの人と共に作っていく共創姿勢が感じられることが重要で、強い絆というよりは、お互いが応援し合う「信望」の関係性を創ること、そのために、B2Cの相対の関係から、H2Hの対等なコミュニケーションへと進化していくと思います。

 

●企業ブランディングのこれから

パーパス経営を基軸として、生活者・社会とのソーシャルな対話を行うこと、サステナブルな事業でより良い未来を示し、その意義を問いかけていくことを上手くつないでいく必要があります。これは組織の内外で進めていかなければなりませんが、パーパスが存在することで矛盾なくつながりやすくなります。

自社の存在意義への社会的なコンセンサスを作っていく、つまり「応援してもらえる企業となる」ことがポイントであり、これはVUCA(変動し/不確実で/複雑で/曖昧な時代)において、レジリエンス(回復力)を持つことにつながります。本日のお話を一つのレポートにまとめました。SDGsやパーパス経営の歴史もひも解いているので、みなさまぜひビジネスに役立ててもらえたらと思います。

 パーパス・オリエンテッドな企業コミュニケーションの現在地とこれから:
 
https://www.kogoma-brand.com/report/11149/

 

小々馬 敦 氏
産業能率大学経営学部 教授
Profile:インターブランドジャパンのエグゼクティブコンサルタントとして企業変革に関わるコーポレートブランディングのプロジェクトをリード。その後、ブランド論の提唱者、D.A.アーカー氏が副会長を務める米国コンサルタント会社、プロフェットの日本代表に就任、ブランド体系戦略・ブランドポートフォリオ戦略の導入を支援。日本企業の無形資産価値創造、海外進出プロジェクトを支援する。2006年、フューチャーブランドの代表取締役社長に就任。企業価値向上プロジェクトをリードする一方で、MBA大学院や企業内大学にてブランドマネジメントの啓発活動を行う。2013年より現職。

 

第2講「SDGs時代における企業理念経営の実践」

オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長  劉 越 氏

劉講師からは、SDGsに向き合い、持続可能な環境や社会を実現するために、企業のできることは何か。オムロンの企業理念の実践に通じる、社会の持続的発展と企業の持続的成長への取り込み、独自の未来予測の考え方である「SINIC理論」や長期ビジョン、中期経営計画、そして社員ひとり一人の行動によるSDGs時代のコーポレート・ブランディングについてお話を伺いました。

 

劉講師:

1.はじめに

これまでのお話から、パーパスというキーワードが強く皆さんの印象に残っていると思います。このパーパスを企業理念と置き換えて、私から当社の取り組みについて紹介したいと思います。

 

●自己紹介

私がオムロンに入って最初に取組んだのは、海外市場で当社の知名度を上げるコーポレートコミュニケーションでした。2000年頃からコーポレート・ブランディングに取組みました。2017年からデジタルメディアを駆使したコーポレートコミュニケーションにも着手し、当社のエコシステム1.0を立ち上げ、2020年秋頃から現在のサステナビリティ推進を担当しています。

 

●オムロンの概要

オムロンは1933年に立石一真が大阪で「立石電機製作所」を創業したことに始まります。1945年に京都・御室に本社を移転し、この移転先の地名にちなんで1990年に社名を現在の「オムロン株式会社」に変更しました。最もブランド認知につながっているのは体温計・血圧計のヘルスケア事業ですが、売上の約6割を占めるBtoBの制御機器事業がメインです。

当社は、「よりよい社会をつくる」という企業理念を中心に据えて、創業精神でもあるソーシャルニーズの創造を目指す「技術経営」と、事業価値の最大化を図る「ROIC経営」とをループで回す経営を行っています。

 

2.SDGs時代の社会的要請

昨今、企業への社会要請が年々高まっています。とりわけ気候変動に起因する低炭素経済への移行リスクや物理的リスクに対して、企業は様々な対応を求められています。政府も地域社会も、投資家も含めて様々なレギュレーションが作られ、これに呼応して消費者も技術も変化しています。この中で企業がいかに価値提供をしていくかというのは非常に重要です。

 

●期待されるバリューチェーンでの対応

投資家は、自社だけではなくバリューチェーン全体の中での取り組みを求めています。現在ヨーロッパでは、2次サプライヤーまでの状況を確認する流れが進んでいます。バリューチェーンの中で信頼性・レピュテーションが作られて初めて製品/サービスの提供が成立します。

 

3.当社の企業理念実践としてのサステナビリティ取り組み

当社は2015年に企業理念を改定しました。企業理念は定期的に見直しを行っていますが、2015年の改定が、今日のサステナビリティの取り組みに直接つながっています。

2017年にまずは取締役会直下にサステナビリティ推進室を設立し、中期経営計画とサステナビリティ取り組みの統合に着手しました。2022年3月には新たな長期ビジョンがスタートしました。現在はサステナビリティ取り組みと長期経営計画が完全に統合しています。

 

●SDGs時代の企業理念実践経営

パーパスをはじめ、CSR、ESG、サステナビリティなど様々な言葉があり、それぞれの関係性は混乱しがちです。当社にとってサステナビリティ取り組みは「企業理念の実践」そのものです。それは国際社会の視点で見るとサステナビリティ(持続可能性)であり、企業の視点で見るとCSRであり、また投資家の視点で見るとESGになります。

2015年の企業理念改定の際には、創業者の立石一真が考えた社憲である「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」をオムロンのミッションとして定め、今後も変わることのない存在意義であると確認し、企業理念としてこれを設定しました。

 

●サステナビリティ方針

企業理念と事業活動をつなげるために「経営のスタンス」としてサステナビリティ方針を定めました。

 

●経営の羅針盤:SINIC理論

もう一つオムロン経営の特徴であり、経営の羅針盤として位置づけている、SINIC理論があります。創業者の立石一真が1970年代に考えた未来予測理論で、2033年の未来を見据えた理論です。

SINIC理論では私たちが向かう自律社会を定義し、それに至るまでの社会・科学・技術の相互変化による進展を見据えて、今すべきことを示しており、私たちはこれを長期ビジョンとして設定しました。

 

●オムロンの存在意義

SINIC理論における自律社会は、心の豊かさを重視する価値観が主流となり、持続可能な成長を前提とした社会経済システムが形成されている社会です。これに向かう過渡期の現在は「最適化社会」であり、新旧の価値観が変化する中で様々な社会的課題が噴出する時代。この社会的課題に自社の技術で挑んでいくことがオムロンの存在意義であると認識しています。

 

●2030年に向けた長期ビジョン:SF2030

新たに設定した長期ビジョンSF2030が目指すのは「人が活きるオートメーションでソーシャルニーズを創造し続けること」です。目指す自律社会を見据えた上で、次の3つの観点から、5つのサステナビリティ重要課題を抽出し特定しました。

さらに、社員の参画意識を高めるために社員自らが取り組むべきだと思うサステナビリティ課題に投票してもらい、3つの課題を選定し、全社の取り組みとして位置づけています。またグローバルに展開する地域・社会へのコミットも重要です。国によって抱えている社会的課題が異なるため、EUでは難民問題、アメリカではダイバーシティに富んだ社会貢献活動、中国では貧困・格差など、それぞれ別々に目標を設定しています。

特徴的なのは、サステナビリティ重要課題の目標に、社員投票目標、地域社会目標を加えた3つは、非財務目標として経営指標の一部として、短期目標とKPIを設定している点です。

 

4.非財務情報発信強化とコーポレート・ブランディング

オムロンは企業理念をあらゆる事業活動の求心力に据えて、一貫性のあるブランディングを行ってきました。同時に変化の激しい今の時代、グローバルに事業展開を進める中でそれぞれの事業や地域の状況に適したブランド体系の構築も不可欠です。遠心力として事業や地域の多様性を尊重して求心力とのバランスを取ることで、ブランドの一貫性と価値向上を両立するブランディング方針を採用しています。

 

●社内外をシームレスにつないだ「エコシステム2.0」

デジタル時代のコーポレート・ブランディングにおいて、もっとも重要なのはインターナル/エクスターナルのコミュニケーションの固定概念を取り払うことです。オムロンは2017年以降、オウンドメディアをすべての活動の中心においたコミュニケーションの「エコシステム」を構築しています。自社HPを中心とするオウンドメディアに一番伝えたいメッセージとコンテンツを格納して、すべてのメディアミックスの設計がステークホルダーをオウンドメディアに流入させる前提で組み立てているのが、このエコシステムの特徴です。

スライドの左側が、社外コミュニケーションのメディアミックスとなります。右側が社内コミュニケーション。自社のホームページやさらにその先にある企業の公式SNSや各個人のSNSとコネクトしてステークホルダーにリーチします。

ステークホルダー・エンゲージメントの一環として、株主・投資家・マスコミ向けの「ESG-IR/ESG説明会」、「統合レポート」など通じてサステナビリティ・非財務情報に特化したコミュニケーションを毎年行っています。「統合レポート」はHP上でも日・英で発信し、約6万PVを獲得しています。またHP上にはオウンドメディア「EDGE&LINK」でサステナビリティ取り組みのストーリーを紹介しています。

 

●TOGA:企業理念の共感・共鳴のための社内コミュニケーション

インターナルコミュニケーションは非常に重要で、重層的な活動を展開していますが、このベースには社員自らが企業理念実践事例を表出し共有・共鳴し合うイベントとしてTOGA(The OMRON Global Award)があります。

TOGAは5つのプロセス(旗を立てる、宣言する、実行する、振り返り/共有する、共鳴する、の5つ)で成り立っています。毎年この5つのプロセスを通じて「何のためにやるのか?」「それは社会的課題とどうつながっているのか?」を自ら考えながら、グループでもチームでも国をまたいでも、自分たちが立てたテーマを自分たちで実践して、最終的にはビジネスにつなげていきます。

さらにTOGAグローバル大会に参加した社員たちがアンバサダーとなって共鳴の輪を広げることで、テーマ数や参加者は年々増えています。自分たちの活動を通じて、企業理念の実践と社会貢献の意味を体験できるようになります。

TOGAの一番の特徴は、売上や成果、経済効果はともかく、プロセスを認めて褒め称えることです。やりたいという気持ちを管理職は応援してサポートし、企業理念の実践・チャレンジは、オウンドメディアで紹介され、グローバルでの共鳴者を増やしています。

 

●外部評価

このようなサステナビリティ取り組みとステークホルダー・エンゲージメントを通じて、オムロンは世界を代用するESG評価機関から高く評価されています。特にESG投資の代表的な指標である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス」のワールドには5年連続で選定され、ステークホルダーとの信頼、レピュテーションの構築につながっています。また外部からの評価は社員の自信にもつながるため、ブランド価値を高める好循環のループとなっています。

 

5.まとめ

SDGs時代のコーポレート・ブランディングにおける当社の取り組みは、企業理念の実践としてバリューチェーンおけるサステナビリティ取り組みを誠実に実施することでした。またこれらサステナビリティ取り組みは事業活動と完全に統合することで、社会的・経済的価値の向上による企業価値の最大化につながっています。

さらに非財務情報の発信、外部評価への注力などのステークホルダー・エンゲージメントを通じてブランド価値の向上にも取り組んでいます。ただしこれは、経営者だけの問題ではなく、あくまでも社員が主役です。

 

劉 越  氏
オムロン株式会社 サステナビリティ推進室長

Profile:オムロン入社後、グローバルにおける渉外、コーポレートコミュニケーションとブランド戦略の立案と実施などの業務に従事し、中国地域本社取締役・経営戦略室長を歴任した後、2017年からオムロン デジタルコミュニケーション部長、ブランドマネジメント&ガバナンス部長を経て、2020年から現職。現在オムロングループにおけるサステナビリティマネジメント推進、企業理念実践経営とサステナビリティ取り組みとの統合による企業価値の向上に注力している。

 

 

パネルディスカッション・質疑応答


陶山理事長(左)、小々馬氏(中央)、劉氏(右)

陶山 計介当研究所理事長(関西大学名誉教授)をファシリテーターとして、講師である小々馬氏、劉氏の2名とともにパネルディスカッションを実施しました。

激変する今日のビジネス環境下においてSDGsやESGなどの社会課題をどう位置付ければ良いか、また企業のブランド戦略経営にとってパーパス経営ないしパーパス・ブランディングの役割は何かなど、講演内容を踏まえて改めて議論がなされました。またパーパス経営ないしパーパス・ブランディングを実践する上で必要な条件、課題は何か、また担い手は誰か、推進体制をいかに構築すべきか、といった実践的な話題にも展開するなど、限られた時間の中ではありましたが、講師の皆様からは貴重なお考えを伺うことができました。

会場、またオンラインからも率直な質問や意見が活発に出され、本フォーラムのテーマを深める有意義な質疑応答の機会となりました。

 

閉会の挨拶

最後に、本フォーラムの後援団体である関西大学東京経済人倶楽部を代表して、関西大学東京経済人クラブ運営委員/JLLモールマネジメント株式会社取締役会長の大津 武氏より、講演を受けて閉会の挨拶をいただきました。本フォーラムの内容を踏まえて、理念や経済の融合を果たすパーパス経営・SDGs経営が今後ますます進展し、新たな企業価値の創造や存在意義の確立につながると感想いただきました。

 

総括

今回の東京第20回フォーラムは「SDGs時代の企業経営とパーパス・ブランディング」をテーマに、2名からそれぞれの分野でのこれまでの素晴らしい活動や研究についてお話しいただきました。講師をはじめ多くの皆様のご協力により本フォーラムを盛況のうちに終えることができました。ご講演いただきました2名の講師の皆さんには厚くお礼申し上げます。

20//06/20

2022/07/19

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