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【開催レポート】2021年2月 新生「一般社団法人ブランド戦略経営研究所」発表講演会第一弾

POSTコロナにおけるビジネス環境とブランド戦略
-マーケティングと知財を基軸とする
ブランド戦略経営をめざす新生BSMIへの期待-

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所では、「新生 一般社団法人ブランド戦略経営研究所発表記念講演会 第一弾」を、2月19日(金)オンラインで開催いたしました。テーマは「POSTコロナにおけるビジネス環境とブランド戦略-マーケティングと知財を基軸とするブランド戦略経営をめざす新生BSMIへの期待-」です。

冒頭、陶山理事長から「一般社団法人ブランド戦略経営研究所の今日的意義と将来に向けて」と題して解題提起、つづけて各講師の方々よりそれぞれの立場からのブランド戦略経営に関するお話とBSMIへの期待を語っていただきました。

基調講演「一般社団法人ブランド戦略経営研究所の今日的意義と将来に向けて」

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 理事長 陶山 計介

陶山理事長:今新たに一般社団法人ブランド戦略経営研究所として皆さまにお披露目することができ、お世話になっている講師の方々をはじめ、皆様に感謝申し上げます。

はじまりは、2002年1月25日のブランド戦略研究会発足に遡ります。当時、欧米と比べると、日本の企業は必ずしもブランド戦略において成功していると言えず、どうすれば効果的・機動的なブランド戦略を統一的に展開できるのかを考えることが課題でした。

その中で「ブランド戦略研究会」は、商標調査や知的財産の問題にとどまらず、広告・コミュニケーションなど広く海外や日本の進んだブランド戦略を理解し、日頃のビジネスに役立てようという勉強会の役目を担い、また業界を超えて多くの知的財産部門やブランド戦略担当者の皆様が日頃抱えておられる課題を自由に交流する場を提供して参りました。

その後2012年、当初大阪を中心に関西企業のブランド力を回復させるという目的とともにトップマネジメント、マーケティング、広告、広報、知財などのビジネスに役立つオールジャパンの全く新しいシンクタンクとして一般社団法人ブランド戦略研究所(BSI)を設立し、ブランド戦略、PB、ブランドコミュニティ、地域ブランドなどのテーマでさまざまな研究成果を上げてきました。

さらに2020年11月には一般社団法人ブランド戦略経営研究所(BSMI)へと名称変更致しました。その背景には、コロナ禍で社会の環境や消費者の意識が急激に変化し、マーケティングや知財だけでなく人材開発や営業などを経営に生かしてブランド構築をしていくことが求められたからです。

「第4次産業革命」を経たSociy5.0“=超スマート社会”の今日、企業の理念やミッション、バリューの再構築、マーケティング志向による事業再編や戦略的な商品開発、トップマネジメントから現場にいたる人材、知財マインドに基づくグローバルなマネジメントなどにおいて「ブランド戦略経営」がいかに重要かつ有益であるかということが社会の共通認識となっています。

今後新生BSMIは、マーケティング戦略と知財戦略を基軸にしながら、人材開発戦略、営業戦略、生産戦略、研究開発戦略、財務戦略など機能戦略の連携による「ブランド戦略経営」を推進していきたいと思います。

5つの活動と3つのブランド戦略

BSMIは以下5つの活動を行います。
①ブランド戦略に関する日本を含む世界の調査・研究・情報収集活動
②ブランド戦略に関する研究会・セミナーなどの開催を通した啓蒙活動
③ブランド戦略やマーケティング、知財などに関する出版、広報活動
④ブランド戦略に関する内外の諸機関との連携・提携・交流
⑤ブランド戦略等に関する補助金その他の各種申請及びこれらに関する他社の対する支援

ブランド3つのアスペクトから発生する以下のブランド戦略が考えられます。
①アイデンティティ(個性)としてのブランドからは、経営・マーケティングとしてのブランド戦略
②ロイヤルティ(こだわり)・リレーションシップ(絆)としてのブランドからは、 マネジメントとしてのブランド戦略
③エクイティ(資産)としてのブランドからは、知財・資産としてのブランド戦略

3つ目の知財に関しては、例えば、シスメックスの井上理事からは「知財はビジネスのルール、知財はビジネスのツール」という観点よりブランド価値を向上させグローバルブランドを育成すべきと、またフェリシモの例では、知財を資産としての側面で縛りつけるだけでなく、テストマーケティングによるリスクを包含しながらも活力を削がないようバランスを保っている例なども検討してきました。

今後も研究所の理念を磨き上げ、また現実と向き合い、コロナ禍で進んだDXを含め、「ブランド戦略経営」実現に向け取り組んでいきます。さしあたり今春以降、インターナルブランディング、米国流通業のイノベーション、地域創生などのテーマについて、会員、顧問などとともに以下3つの新刊書を発行する予定です。

・陶山計介・伊藤佳代著『攻めのインターナルブランディング』(中央経済社)
・陶山計介・大橋和幸編著『アメリカにおけるリテールイノベーション』(中央経済社)
・西村順二・陶山計介・田中洋、山口夕妃子編『地域創生マーケティング全書』(中央経済社)

陶山計介 当研究所理事長
Profile:一般社団法人ブランド戦略研究所理事長。関西大学商学部教授。京都大学博士(経済学)。『ブランド・エクイティ戦略』(共訳著、ダイヤモンド社)、『日本型ブランド優位戦略』(共著、ダイヤモンド社)、『よくわかる現代マーケティング』(共編著、ミネルヴァ書房)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会元会長。
第1講「コロナ禍でのブランド戦略の現状と新生BSMI への期待」

当研究所顧問/中央大学大学院戦略経営研究科教授 田中 洋 氏

田中氏:10周年おめでとうございます。今回名称に「経営」を付け加えていただいたことは非常に喜ばしいことです。

というのも私の2017年の著書『ブランド戦略論』では、ブランド戦略をコミュニケーション戦略、マーケティング戦略、経営戦略と3つの層に分けて説明しているのと符合するからです。

コロナ禍、一方で急速なデジタル化が進み、他方ファッション・流通・外食・旅行業界に打撃が加わりました。ここ20-30年のスパンで見ると、かつてのメーカー主導の小売業はなくなり、顧客は自由に商品を選べるようになり、強いブランドが優位になってきました。こうした顧客の選択の自由の実現が、ブランドが今日企業経営に必要な主要な理由なのです。

ただし、今日では強力なブランドが少数のメガ企業に寡占化される状況が起こってきました。先日の「ティファニーのLVMH傘下入り」というニュースは象徴的です。こういった動きはラグジュアリーブランドに限らず、あらゆる業界で起こっています。

つまり、選択の自由が成立しているように見えても、一部の企業による強いブランドの寡占化により、実は自由ではないようなことが起きています。選択の自由が成立したのが、今日ブランドが経営にとって重要な主要な理由だったにもかかわらず、一部のメガ企業による寡占化で、「ブランドそのものの価値や必要性が失われていくのではないか」ということです。

PBとNBの例をあげると、セブンイレブンの食品は半分がPBとなっています。サントリーのNBウーロン茶は129円ですが、セブンイレブンのPBウーロン茶はサントリーが作っており100円で売られています。

別の商品で考えてみましょう。AmazonでPCの周辺機器であるポータブルSSDを購入する時、その選択の基準は何でしょうか?画面上でも差別化の大きな要素はレビュー数です。もはやブランドだけを基準に購入することがむつかしくなっています。

しかしながらブランドが必要でなくなっているわけではありません。アメリカの動きに目を移してみましょう。Awayはスマートフォン充電用のモバイルバッテリー内臓のスーツケースメーカーです。

このメーカーは、DtoC(Direct to Consumer)でブランド自らオンライン販売を行っており、米国のみならず日本でも注目されています。ブランドを発揮しにくい流通寡占化の中で、DtoCはブランド側の有力な対抗策になってきています。つまりブランド確立の動きは一部でいっそう強くなっているのです。

ブランドを選択する自由と、寡占化による不自由の矛盾が生じて、消費者もブランドによる選択から、レコメンデーションによる選択となり、ブランド不要論にもつながりそうです。しかしながら、ブランドもDtoCなどにより、こうした状況への反逆の動きも強まりそうです。

結論としては、やはりブランドは今後も重要なテーマであり、それゆえBSMIの役割は今後の10年間も一層重要になってくると思われます。さらにBSMIの活動に私が期待するのはこのためなのです。

田中 洋氏
当研究所顧問/中央大学大学院戦略経営研究科教授

Profile:(一社)ブランド戦略経営研究所顧問。中央大学ビジネススクール教授。京都大学博士(経済学)。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長(就任予定)を歴任。マーケティング論、ブランド論を専攻。主著『ブランド戦略論』(2017、有斐閣)など。日本マーケティング学会マーケティング本大賞、同優秀論文賞、日本広告学会賞などを受賞。
第2講「コロナの状況下で旅行会社として取り組むべきこと:新生 BSMI への期待~」

当研究所会員/株式会社日本旅行 代表取締役社長(当時)堀坂 明弘 氏

堀坂氏:旅行業界は厳しい状況にあります。コロナ禍以前には戻らないと想定されます。しかしながらモノからコトへの流れは加速し、リアルの価値が見直され、ニューノーマルの時代においてもコト消費の代表格である旅行の価値は一層確たるものになると思われます。

それら状況を捉え、当社は事業構造の改革と変化への対応をしていきます。特に新たな旅のスタイルへの対応として、ワーケーション・ブレジャー、DX/非接触化、MaaS、SDGsの4つのキーワードを軸に新事業の展開を進めています。

DXについては、オンライン相談をはじめ、教育旅行プログラム、リアルとバーチャル、オフラインとオンラインのハイブリッド型の旅の提供がMICEや個人旅行のトレンドになると予想し、昨年秋にオンラインで実施した台湾での「日本の観光・物産博」をハイブリッド型で実施する予定です。

MaaSについては、当社は、JR西日本が9月からスタートした観光型MaaS「setowa(せとわ)」に参画しています。「setowa」とは、瀬戸内エリアでの交通機関やホテルなどの検索・予約・決済をスマホで一元的に行うことができるサービスです。

「setowa」を活用すれば、駅や旅行代理店の担当者などとの接触機会も少なくできるため、ウィズコロナ時代の安心・安全に一役買うと期待されています。

他に、「新型JRセットプラン」は、従来の新幹線・特急と宿泊施設をパッケージに、MaaSによる現地交通機関+観光素材の提供をセット、タビナカを含めた地域貢献と観光付加価値を高めます。

SDGsについても、当社は2019年12月には旅行会社初のSDGs宣言を出しました。「サステイナブル・ブランド国際会議」への関わりをはじめ、「びわ湖・カーボンクレジット」で滋賀県とパートナー協定を結ぶとともに「JRセットプラン カーボンゼロ」を進めています。SDGsに深い関心を持っている若い世代も多いので、新たな顧客獲得にもつながることを期待しています。➡(SDGs宣言)

危機的状況の中でのビジネスモデルの転換、構造変革が必要ですが、それを支え、新事業を進めるコア人材を育てることが不可欠です。そのためのインナーブランディングに取組むのと同時に、未来に向けたブランド戦略経営の視点が欠かせません。

新生BSMIの理念を共有し、メンバーとして陶山理事長はじめとする他の方々と切磋琢磨するとともに、社会に必要とされるブランディングに邁進していきたいと思います。

堀坂 明弘 氏
当研究所理事/株式会社日本旅行 代表取締役社長(当時)

Profile:熊本県出身。1979年4月日本国有鉄道入社。西日本旅客鉄道株式会社取締役兼常務執行役員。鉄道本部営業本部長などを歴任。2016年6月より㈱日本旅行代表取締役社長兼執行役員に就任。2018年6月よりJATA(一般社団法人日本旅行業協会)副会長、訪日旅行推進委員長も務める。
第3講「環境変化を生き抜くための「食の再定義」-新生 BSMI への期待」

当研究所会員/株式会社イートアンドホールディングス代表取締役会長CEO 文野 直樹 氏

文野氏:事業戦略を検討する中で、食のあり方、働き方、それぞれを「再定義」し、昨年10月にはホールディング化することで、グループ企業それぞれの戦い方として専門性を高め、それぞれの会社に合った評価システムを導入し、従業員の満足度を高めていくこととしました。

ミッションそのものも「再定義」し、具現化しやすいように「おなかいっぱいの幸せと、」の先に「健やかな毎日を笑顔で楽しめる社会」など、「と。」=「+&」の先にある5つの社会の実現としました。➡(企業理念)

コロナ禍でも、大阪王将ブランドとして外食事業、冷凍食品事業を展開、この2本の矢であったことでなんとか黒字を実現してきましたが、今回のようなことがあってもビクともしないグループ企業とするために、第3第4第5の柱をつくりあげ、グループを「日常のあらゆる食シーンに、新しい食文化を創造する『食のライフプランニングカンパニー』」としました。

大阪王将という外食のブランドが、冷凍食品のブランドとして一定の地位を得ており、現在冷凍食品の売上が外食の売上を上回っています。誰でも羽根つき、今ではフタなしで、水も油も使わず美味しい餃子を作れ、しかも洗う手間がほとんどありません。このような生活レベルの連続的イノベーションにより、外食ブランドの大阪王将を冷凍食品でのブランド化に転換できた訳です。

アゲンスト下の外食事業では、黄色テントなどによる大阪王将らしさへの原点回帰などを試み、立地を繁華街から生活密着にすることで家賃は安く、テイクアウト、出前のニーズも高いことで経営効率を上げることで、他外食ブランドに比べ早期回復傾向にあります。

戦い方の「再定義」で逆に宝の山を見つけたと言えます。

この地域密着型では「絆」の実現に向けた施策を展開しています。この「ゴチ餃子」というのは、1人前分買うと、もう1人前無料分を街で活躍する人、仕事頑張っている人にご馳走してくださいというものです。

一方ではアールベイカーという、6年前に立ち上げた20店ほどの郊外型ベーカリーカフェ事業では、他のベーカリーカフェと比べて圧倒的デザイン力と、心と身体に優しくパンの醗酵にも天然酵母から野菜酵母にシフトして地域密着を図っています。

もう一つが本年1月に買収した横浜で1代60年続くタンメンを名物とする小型チェーンです。この「横濱一品香」というブランドで、現状年商10億のビジネスを10倍にしようと考えています。

「大阪王将」は、50年の外食ブランドに、この15年間で育てた冷凍食品の第2の柱、さらに第3第4第5の柱として海外展開、Eコマース、M&Aを手掛けていきます。コロナ禍を生き抜くため、変化対応は当たり前、あるべき姿を見直し、食も再定義、働き方も再定義、戦い方も再定義し、結果として時代を先取りし、2本の矢から5本の矢へと強力なポートフォリオを作っていきます。

ブランド戦略研究所から、名前に「経営」が加わりました。
経営とは、社員を幸せにすること、新しいお客様を生み出しつづけること、事業を成長させ続けることにつきます。大きな環境変化の中で、いかに新しい需要を生み出し、持続的な成長へとつなげることができるか、そのために最適なブランド戦略とは何か、知財、マーケティングのそうそうたる先生方が集っていらっしゃいますので、ブランド戦略「経営」研究所の今後のますます発展が楽しみです。
本日はありがとうございました。

文野直樹氏
当研究所会員/株式会社イートアンドホールディングス 代表取締役会長CEO

Profile:1959年11月29日大阪府出身。1980年 父親が創業した大阪王将食品株式会社(現 イートアンド株式会社)に入社。1985年 大阪王将食品株式会社(現 イートアンド株式会社)の代表取締役社長に就任。2011年6月 ジャスダック市場へ上場。2012年11月 東京証券取引所市場第二部へ上場。2013年12月 東京証券取引所市場第一部へ指定。2017年6月 代表取締役会長 就任。2019年9月 大阪王将創業50周年。2020年1月「外食アワード2019」外食事業者部門受賞。2020年10月持株会社制移行に伴う株式会社イートアンドホールディングスへの商号変更。同 代表取締役会長CEO就任。
第4講「コロナ禍での世界的ブランド戦略の現状と新⽣BSMI への期待」

株式会社インターブランドジャパン 代表取締役社長 兼 CEO 並木 将仁 氏

並木氏:インターブランドは、世界的ブランディング専門会社であり、インターブランドジャパンでは、サッカー日本代表のリブランディングをはじめ、B2B企業やPurposeやCSRによるブランディング、などブランドを介して、本当の意味での企業競争力をつくっていこうとしています。

コロナ禍でブランド価値はどのように変化したのか?

当社の「Best Grobal Brands 2020」によれば、ブランド価値上昇率TOP5はamazon、Microsoft、Spotfy、NETFLIX、Adobe です。(参考資料)

全体のブランド価値上昇率は9%と上昇、その一方価値下落したブランドは昨年29に対して今年54と増え、勝ち組と負け組が明確になっています。

テクノロジーまたはテックプラットフォームのブランド価値上昇率は平均20%、TOP5は50%上昇しています。ブランド価値全体に占めるテクノロジーまたはテックプラットフォームの比率は2010年の17%から2020年は48%まで上がっています。

ブランド価値の高い会社に共通するのは?

ブランド強度評価モデル10要素では、かつては独自性Distinctivenessでしたが、2桁成長したブランドでは独自性は前提条件となっており、共感力Empathy、俊敏力Agility、愛着度Affinityの3つの要素で卓越していることがポイントです。

コロナ禍で、ブランドに何が起きているのか?

コロナ禍の日本のブランドインタビュー「ブランドリーダーがいま考えるべきこと」(2020年5月)から更にまとめてみると、「ブランドのパーパスの不十分さ」「顧客を知ることの難しさ」「リモート時代の従業員に帰属意識」の3つの課題が見えてきました。

それぞれ、Ambition、promise、Trajectry Frameworkであったり、ブランド体験の適切な設計、顧客とのパートナーシップ、コミュニティ、習慣への昇華であったり、理解と行動を両輪で回すインターナルエンゲージメントなどによるブランディングがキイになると思います。

何をするべきなのか?

平たく言うと、ブランドは「らしさ」を作って、それを「収穫」するというのが事業側の視点ですが、それが機能しなくなった時に、ブランドを軸に対応するか、顧客を軸に対応するかの2択があります。

方向性1期待を超えていくブランドを創る

Iconic Movesについて言いますと、今すごい勢いで顧客の期待値が変わってきています。いかにCatch Upするかでなく、いかに顧客の期待値をブランドとして上書きするか、こういうことをブランドとして考えられるかどうかが重要です。そのためにAmbition、Trajectry Framework、Movesというものを事業の中に組み込んでゆくことが求められます。

方向性2顧客をコアに据えるブランド創り

Customer Inspired Growthです。何故、何を顧客に提供するのか?顧客を主語にした会社経営にシフトしていくことが重要であり、「ブランド」と「顧客志向」の2つを成し遂げてはじめて意味のある企業経営ができるのではないでしょうか。

顧客にインスパイアされた成長をIconic Movesを通じて実現していく、これがブランドに求められていることとグローバルなブランディングの経験から結論づけています。

新生BSMIに期待するもの

まずは、「ブランドとは何か」を杓子定規で捉えると本質的にやらなければならないことが漏れる可能性があります。オープンマインドで「ブランドとは」を狭い範囲に閉じ込めずに経営の中に組み込んでいくような活動をしていただきたい。

2つ目は経営者目線です。マーケティングの一部という考え方はありますが、究極的には経営者がブランディングをリードしなければいけません。ですから、経営者目線を是非入れていただいきたい。

3つ目は実務と学術の融合です。実務は実務で迷いながらやっているところが多いのが実際です。学術世界からも示唆として出せるものが沢山あるはずで、実務にも貢献できるはずです。

並木将仁氏
株式会社インターブランドジャパン 代表取締役社長 兼 CEO

Profile:戦略コンサルティングファームにて、企業戦略、事業戦略、ブランディング、マーケティング、デジタル、イノベーション、組織変革などにおけるコンサルティングを中心に、包括的に企業の成長を支援。現在はInterbrand Japanの代表としてブランドを介した企業成長を支援。特に、ブランドと経営の融合をトップレベルで実現することによる、日本企業の飛躍的成長に注力。 ブランド戦略立案においては、KPI設計に基づくブランドと経営の融合、カスタマーインサイトに基づくブランド体験設計、事業戦略実現に向けたブランド効果最大化などにおいて経験多数。プライスウォーターハウスクーパーズ、グローバルプラクシス、マッキンゼーアンドカンパニー、カートサーモンを経てインターブランドに参画。学歴:ボストン大学経営学士号、HECおよびUTDT経営修士号。 著書(共著)「ブランディング 7つの原則」(日本経済新聞出版社)、「ブランディング7つの原則[実践編]」(日本経済新聞出版社)
第5講「グローバル展開を目指す「知財」を基軸とした事業戦略~新⽣BSMI への期待~」

シスメックス株式会社 知的財産本部 理事・本部長 井上 二三夫氏

井上氏:「知財を基軸とし、知財戦略、技術戦略、事業戦略、ブランド戦略等の実践を通じて、企業のグローバル事業展開に携わる」仕事に就いています。知財というと特許や商標の出願業務を思い浮かべがちですが、それらは特許事務所に外注できる業務で、グローバル知財活動のほんの一部であり、外注できない業務がわたしたちの主な仕事です。

シスメックスは、企業理念であるSysmex Wayのもと、連結で売上3020億円、営業利益553億円、臨床検査用機器・試薬などの製品を研究・開発・製造・販売し、世界190か国以上で事業展開(海外比率85%)する企業です。Sysmexロゴは、現在193か国で商標出願・登録してますが、それは世界中の医療機関でわれわれの機器・試薬を使っていただくにあたり、安心して使っていただくためのものです。https://www.sysmex.co.jp/index.html

狭義のブランド開発(ネーミング・デザイン・ブランディング)、製造・販売(調達・製造・流通販売)、事業開発(マーケティング・事業企画・商品開発)、研究開発(先行研究・技術開発・実用化開発)などこれらの活動すべてを知財で串刺しにして、深く関与しながら、知財の観点でマーケティング、事業化、ブランディングを一緒にやっています。

当社の業績推移を見ると、2000年以降海外の売上が急増しています。この海外成長は、「知財の力」で実現したともいえます。海外への事業展開するときに、からならずといっていいほど発生する先行企業との知財コンフリクトを、知財の力で乗り越えてきた結果です。

コロナ禍において、昨年中国武漢で病院を2週間で2つ建てるプロジェクトに参加し、多くの当社装置を設置・稼働させ、新型コロナ感染拡大の制圧に貢献しました。

国内でも3月には検査キットを開発。また地元神戸の癌のラボをCOVID-19のラボに変え、小学校・中学校等から来る大量の検体を検査し続けています。

COVID患者から採取した検体を研究し、12月には「重症化リスク判定」の検査キットを開発しました。これらはまさに、Sysmex Wayで宣言している「ヘルスケアの進化をデザインする」活動です。

関連会社であるメディカロイドでは、国産初の手術支援ロボットシステムを開発し、手塚プロダクションからご賛同いただき、「火の鳥」とブランディングして、まずは日本国内で発売し、世界に出ていこうとしています。

また空港PCRという入国時の検査ロボットを開発中で、まもなく主要空港に導入予定です。

IR活動では2020年4月Institutional Investor誌ではMost Honored Companyに選出され、11月には世界最大規模のアニュアルレポートコンテストARC Awardsにおいて「Sysmex Report 2019」がGrand Awardを受賞するなどグローバルなステークホルダーへのリレーションが評価されています。

今日のSustainable/ESG/SDGsといった社会的要請にも応え、「Global 100」(世界で最も持続可能な100 社)に4 度目の選出をされました。(世界第32位、ヘルスケア機器分野世界第1位、日本企業中第2位)

また機関投資家からは、ダウ・ジョーンズ・サステイナブルINDEXをはじめ、様々な投資対象に組み込んでいただいており、今株価は12,000円、時価総額も2.5兆円に成長しています。

新生BMSIへの期待です。今回、名称変更で「経営」が入りました。アカデミックな話も重要ですが、そこで止まってはいけない。本当に経営に響く提言、提案ができなければならないと思います。また「知財」についても、その研究に期待していきたいと思います。

ドメスティックな市場では成長に限りがあります。グローバル市場に出ていくには「知財力」が必須となります。いままでのブランド活動に知財のファクターを加えることで、加速度的にグローバルブランドに成長する企業戦略を。BSMIから提言できたらよいと思います。

日本のGDPは世界のGDPの6%しかありません。残りの94%の市場が海外にあります。そこに挑戦をしないで成長があるのでしょうか? 

事業をする上で、国内市場も重要ではありますが、94%の市場にどう攻め込んでいくのか?を考える必要があるはずです。

実際に、海外展開している企業と言っても、売上の50%を超える企業は多くありません。(シスメックスは85%)

時価総額1兆円を超える企業で、海外比率80%を超えるのは10数社しかありません。それが日本の現状です。BSMIは、どんどん海外に出ていく、そしてグローバルブランドになるような企業を育てていけたらよいと思っています。

井上二三夫氏
シスメックス株式会社 理事・知的財産本部 本部長

Profile:1982年にミノルタカメラ株式会社に入社・特許部門に配属、1990から渡米し、フロリダ国際大学、ジョージタウン大学で英語・法律を学び、その後、米国法律事務所(バージニア、ワシントンDC、シカゴ)で勤務、1994年にミノルタ株式会社に復帰、2001年にシスメックスに入社し、現在に至る。知財を基軸とし、知財戦略、技術戦略、事業戦略、ブランド戦略等の実践を通じて、企業のグローバル事業展開に携わる。主な社外活動は次の通り。日本分析機器工業会知的財産委員会委員長(現任)、兵庫県発明協会理事(現任)、兵庫県科学技術振興財団評議員(現任)、日本知的財産協会常務理事(退任)、日本知的財産協会副理事長(退任)。
◇総括

今回の新生「一般社団法人ブランド戦略経営研究所」発表記念講演会・第一弾は、「Post コロナにおけるビジネス環境とブランド戦略-マーケティングと知財を基軸とするブランド戦略経営をめざす新生BSMI への期待」をテーマとして、5名の講師の方々からお話しいただきました。講師の方をはじめ多くの皆様のご協力により本記念講演会を盛況のうちに終えることができました。ご講演いただきました5名の講師の皆さんには厚くお礼申し上げます。

2021/02/19

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