HOME» 定例研究会開催レポート »【開催レポート】2024年10月度 東京第24回フォーラム
定例研究会開催レポート
【開催レポート】2024年10月度 東京第24回フォーラム
2024年10月度 東京第24回フォーラム 開催レポート
今日の消費とブランド・イノベーション
「一般社団法人 ブランド戦略経営研究所」では、関西大学東京センターとの共催および関西大学東京経済人倶楽部の後援を得て「東京第24回フォーラム」「第10回丸の内ゼミナール」を2024年10月10日(木)に開催いたしました。今回のフォーラム・ゼミナールのテーマは「今日の消費とブランド・イノベーション」です。

高木 克典 当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、はじめに関西大学東京センター・事務局の小林 亮介 氏から開会の挨拶をいただき、陶山理事長から本フォーラムの解題提起を受けて、3名の講師より講演をいただきました。
その後、コメンテーターとして株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー・代表取締役社長の池崎 秀和 氏にも加わっていただき、陶山理事長のコーディネーターによるパネルディスカッションを行いました。
※資料は閲覧のみ。印刷禁止(講師・著者の権利を保護する約束のもと、掲載を承諾いただいています)
主催者オープニングスピーチ
一般社団法人ブランド戦略経営研究所 陶山 計介 理事長
陶山理事長:トップマネジメント、マーケティング、広告、広報、知財といったビジネスに役立つオールジャパンの全く新しいシンクタンクとして設立した一般社団法人ブランド戦略研究所(BSI)は、10周年を期に2020年11月に現在のブランド戦略経営研究所(BSMI)に名称を変更いたしました。

陶山理事長:マーケティング戦略と知財戦略を基軸にしながら、人材開発戦略、営業戦略、生産戦略、研究開発戦略、財務戦略といった様々な機能戦略の連携を通じた「ブランド戦略経営」の推進を目的として、そのための調査研究、教育研修、普及活動等を進めています。
具体的には、本日のようなフォーラムや、東京と大阪と2拠点における部会研究会、さらに専門部会研究会として、知財部会、インターナルブランディング部会、消費者部会を開催し、そして新しくD2C部会を立ち上げようとしているところでございます。
このほか、出版を通じて様々な調査研究の成果を公表・発信しています。直近では2024年の3月に、当研究所会員でもある文野 直樹氏(株式会社イートアンドホールディングス・代表取締役会長)、当研究所理事の伊藤 佳代氏(社会保険労務士法人ソーケム代表社員)とともに、『大阪王将の「超える」経営』(幻冬舎MC)を刊行いたしました。

本日のテーマ「今日の消費とブランド・イノベーション」
陶山理事長:『ブランド・エクイティ戦略』(ダイヤモンド社)が刊行されたのは今から30年前の1994年でしたが、当時、ブランドに対する人々の興味や関心は、CHANEL、GUCCI、Diorといった従来型のブランドでした。
しかしブランドは、企業経営や戦略策定、さらに産業や地域の経済・社会、暮らしといった私たちの生活のあらゆるところで密接に関わりながら、今日に至ります。
今後、ブランドはどのような役割を果たしていくべきか。現在のブランド・イノベーション、ブランド戦略経営などの観点から考えてまいります。
本日の講師として、小々馬敦 氏(産業能率大学教授)、米田泰子 氏(東急総合研究所執行役員研究部長)、音部大輔 氏(株式会社クー・マーケティング・カンパニー代表取締役)の3名の方をお招きしています。
それぞれ、消費がネガティブな時代のマーケティング、 リテール事業を取り巻く経営環境の変化と対応、ブランド・イノベーションのヒント、をテーマとしてこれから講演をしていただきます。
なお、小々馬氏が執筆した『新消費をつくるα世代 答えありきで考える「メタ認知力」』(日経BP)は今年5月に出版されたばかりで、また音部氏の『The Art of Marketing マーケティングの技法:パーセプションフロー・モデル全解説』(宣伝会議)は、日本マーケティング学会の最優秀賞を受賞しています。
本日のトピックス
- 今日のマクロ企業環境、とりわけZ世代やα世代などの若者を中心とするライフスタイルや消費・購買をめぐる新しい動向を「ブランド」との関連でどのように見るか。
- 流通・サービスを中心とする環境変化への企業の対応事例に見る新たな生活シーン提案・文化創造機能(「コト型」・「トキ型」・「ヒト型」)を中核とする「ブランド」価値創造の課題を探る。
- この30年でビジネスの現場において「ブランド」の役割や課題のうち「何が変わり」、「何が変わっていない」のかについて本質から迫る。
- 現代のサステナビリティ社会で求められる「ブランド・イノベーション」、「ブランド戦略経営」とは何かを明らかにする。

陶山理事長:先ほどもお話した、1994年に日本で出版した『ブランド・エクイティ戦略』の原書“Managing Brand Equity”(Aaker. D.A., 1991)は、1980年代のアメリカで出版され、「ブランド・エクイティ」という概念が登場しました。
その後30年が経過した現在、今回フォーラム・ゼミナールのテーマである「消費」に関して、IBMの調査結果(2021年に調査。回答者は28カ国1万9000人以上)をみると、今日の消費者は、製品主導でもなく、ブランド主導でもなく、価値主導でもなく、パーパス主導であり、消費者はパーパス志向が主要になっていると報告されています。
サステナビリティが最優先事項であり、自社の価値観に、自分の価値観に合致させて、健康とウェルネスにメリットをもたらす製品やサービス、ブランドを探すパーパス志向が増えており、価値やブランドに代わって、パーパスがキーワードであると言われています。
しかし、パーパス志向あるいは価値志向の消費者と、ブランド志向の消費者は対立するものではありません。
ブランドが、こうしたパーパス志向・価値志向の消費者を取り込み、ブランド主導へと舵を切るために、私たちは「ブランド戦略経営」というコンセプトを提案しています。

陶山理事長:アメリカの産学が連携したマーケティングサイエンス研究所(MSI)では、2022年から2024年にかけての4つのマクロトレンド変化を取り上げています。
- アナリティクス、AI、デジタルマーケティングの台頭、プライバシーに関する規則とプラットフォームポリシー、顧客価値を創造するタッチポイント、顧客ターゲティング力
- コロナ禍による、ビジネス・マーケターに対する顧客の姿勢、新技術や製品・サービスへの期待における変化
- 地政学的な紛争によるサプライチェーンの寸断とインフレの加速
- 「株主価値」から「ステークホルダー価値」へのシフト
さらにこうした4つの環境変化の中で、次のような7つの優先課題を挙げております。
- ビジネスにおける破壊的イノベーションやビッグデータ時代への対応策
- マーケティングの収益性に関する測定と分析
- 顧客と企業の関係の長期的変化
- インフレとサプライチェーンの再構築
- 株主価値からステークホルダー価値への企業理念のシフト
- プライバシー規制および公共政策上の問題
- 企業へのマーケティングの影響
こうした新しい今日的な課題に、ブランドがどう答えられるでしょうか。
もし応えられるとすれば、そこに時代を反映した革新的で進化するブランドがあり、その実現がブランド・イノベーションにつながり、ブランド戦略経営の姿もその中に見出せる、と考えております。
以上を本日のフォーラムの解題とさせていただきます。ありがとうございました。
Profile:一般社団法人ブランド戦略経営研究所理事長。関西大学名誉教授。京都大学博士(経済学)。『ブランド・エクイティ戦略』(共訳著、ダイヤモンド社)、『日本型ブランド優位戦略』(共著、ダイヤモンド社)、『よくわかる現代マーケティング』(共編著、ミネルヴァ書房)『インターナルブランディング:ブランド・コミュニティの構築』(共著、中央経済社)、『地域創生マーケティング』(共編著)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会元会長。
第1講「消費がネガティブな時代のマーケティング」
産業能率大学経営学部 教授 小々馬 敦 氏
自己紹介
小々馬講師:皆様、こんにちは。産業能率大学の小々馬(こごま)でございます。本日はこのような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
私のこれまでのキャリアを簡単にお話ししますと、ブランド戦略の権威であるデイビッド・アーカー氏がサンフランシスコで経営しているコンサルティング会社の日本法人代表を務めるなど、長らくブランディングやブランドマネジメントの専門家として活動してまいりました。
しかし本日は、専門家としての硬い理論を振りかざすのではなく、大学でZ世代と呼ばれる20歳前後の学生たちを教えている一人の教員として、彼らと日々向き合う中で見えてきた「新しい時代の兆し」を皆様にご報告したいと思っております。
2030年の社会構造 - 4つの世代と「2つの家族像」

小々馬講師:未来を洞察する上で、まずは2030年代の日本社会がどのような構造になっているかを確認しましょう。そこには大きく分けて4つの世代が存在します。
- 段階Jr.世代(1971〜80年生まれ): 現在44〜54歳。ブランド品を好み、消費に意欲的な世代です。
- ミレニアル世代(1981〜96年生まれ): 現在28〜43歳。モノよりコトを重視し、仲間意識が強いのが特徴です。
- Z世代(1997〜2009年生まれ): 現在15〜27歳。「みんな違って、みんないい」という多様性を前提とし、消費は最低限にしたいと考えています。
- α(アルファ)世代(2010〜24年生まれ): 14歳以下の世代。AIネイティブで、極めて高いメタ認知能力を持っています。
ここで注目すべきは、世代間の相互作用によって生まれる「2つの家族像」です。
具体的には「段階Jr.の親とZ世代の子」そして「ミレニアル世代の親とα世代の子」というユニットです。
最近の家族は非常に仲が良く、親が子供の価値観を尊重する傾向が強いため、親の消費行動が子供の感性に大きく影響されるという現象が起きています。
例えば、α世代の子供がいるミレニアル世代とそうでない世代では、行動様式に明確な差が出始めています。
「消費」がネガティブな言葉になった理由
小々馬講師:数年前、ある女子学生との会話の中で衝撃的なことがありました。
テレビCMでよく見かける「大量のショップバッグを抱えて笑顔で買い物を楽しむ女性」のシーンを見て、彼女は私に真顔でこう言ったのです。「先生、これの何が嬉しいんですか?」と。
私のような上の世代にとっては、たくさん買い物をして袋を抱えるのは「成功」や「幸福」の象徴でした。
しかし彼女たちにとって、重い荷物を持って歩き回ることは単なる苦痛であり、スマホで検索すれば一瞬で済むことをわざわざショッピングモールで行う合理性も感じられません。
実際、あるショッピングモールの役員の方に学生がこの話をぶつけたところ、役員の方は絶句してしまいました。
学生たちは「あんなにブランドを回らなきゃいけないのは苦痛です」とまで言い切りました。価値観の相違というより、育ってきた環境の違いがここまで決定的な差を生んでいるのです。
親子ともに「消費は浪費」と捉えている実態

小々馬講師:この現象を深く探るため、親子を対象とした大規模な調査を行いました。その結果、驚くべき実態が浮き彫りになりました。親子ともに消費をネガティブに捉えているのです。
大学生に「消費とは何か」を尋ねると「お金を浪費すること、もったいないこと」という回答が返ってきます。
また、その母親世代に尋ねても「生きるために必要だが、本質的には価値を損じる無駄遣いであり、最低限にしたいもの」という認識を持っています。
「消費(Consumption)」という言葉をAIで分析したところ、ポジティブなイメージよりもネガティブなイメージが倍以上という結果が出ました。今や生活者は「自分を消費者と呼ばないでほしい」とさえ感じています。
なぜなら、彼らにとっての消費とは「価値を減らす行為」であり、彼らは「価値を減らさないように、消費しないように生活している」からです。

ここに大きな落とし穴があります。マーケターが「エコ消費」や「エシカル消費」という言葉を安易に使うと、彼らは強い違和感を抱きます。
彼らにとって「消費しないことが最もエコでサステナブル」であることは自明の理であり、「環境に配慮して消費する」という言葉自体が矛盾して聞こえてしまうのです。
ブランド信仰の崩壊…差別化より「適合性」

小々馬講師:ブランド戦略の観点からも、驚くべき変化が起きています。今の若者たちは「ブランド志向」が非常に弱くなっています。
好きなブランドを尋ねると、約6割が「特にない」と回答します。かつての世代のように、特定のブランドを持つことがステータスになったり、自己表現の主要な手段になったりすることはありません。彼らは「みんな違って、みんないい」という多様性が当たり前の環境で育っています。

そのため、「あなたにはこれがベストです」と企業側から一方的に定義されることを、一種の暴力的な「押し付け」と感じてしまうのです。
彼らが求めているのは、他との「差別化」や「ユニークさ」ではなく、「それが本当に自分に合っているか」という「適合性(フィット感)」です。
彼らは、ブランドが作り上げた完成されたイメージよりも、自分と似た体型や肌質、あるいは同じ価値観を持つインフルエンサーの情報を信頼します。
「この子が使ってこうなっているなら、私にも合っているはずだ」という確信こそが、購買の決定打になるのです。
スマホは「外部メモリー」。新しい想起集合のあり方と「EIEEBモデル」

小々馬講師:彼らのデバイスとの関係性に触れておきましょう。
若者にとってスマートフォンは、単なる便利な道具ではなく「自分の一部」であり、脳の負荷を減らすための「外部メモリー」です。彼らはスマホを片時も離さず、お風呂の中にまで持ち込みます。なぜなら、スマホをなくすことは彼らにとって「死ぬこと」に等しいからです。
彼らはタイムラインに流れてくる膨大な画像を、まずは「直感的」にスクリーンショットして保存します。そして後で冷静に、それが本当に自分の世界観に合うかを「直観的」に確認するプロセスを繰り返します。
この、スマホのスクリーンから始まる新しい購買プロセスを、私のゼミの学生たちは、1920年代のような「心躍る購買体験」を現代に再現するものとして「EIEEB(アイブ)モデル」と名付けました。

このモデルは、以下の5つのステップで構成されています。
- Encounter(思いがけない出逢い)
隙間時間にSNSやUGC(ユーザー生成コンテンツ)を通じて、好きな世界観にハッとして出逢うこと。 - Inspired(共感)
その世界観に共感し、自分に合っているかを自分なりに調べて「自分ごと化」すること。 - Encourage(背中を押す)
失敗したくない彼らは、レビューなどのUGCを丹念に確認し、購買への不安を解消して自らの背中を押します。 - Event(購買)
購買そのものを一回限りのイベントとして楽しみます。特に初回は、自分の目で確かめるために実店舗へ行く傾向があります。 - Boost up(高め合い)
単なる情報共有ではなく、投稿を通じて「みんなもやってみて!」とときめきを共有し、コミュニティ全体の熱量を高め合います。
このプロセスにおいて、従来の「想起集合(想起リスト)」の概念は完全に変わりました。想起集合はもはや消費者の脳内にあるのではなく、スマホのフォルダの中にあります。
しかもそのフォルダは、「シャンプー」や「リップ」といった商品カテゴリーで分類されているわけではありません。「#淡色系」や「#韓国風」といった、彼ら自身の言葉による「テーマ」や「ジャンル」で管理されているのです。
この「カテゴリーからテーマへ」のシフトを理解しない限り、いくらカテゴリー内で競争を仕掛けても、彼らのフォルダの中に残ることはできません。
所得から「所徳(しょとく)」へ。プラスサム社会への転換
小々馬講師:さて、最も重要なテーマである「プラスサムな社会」についてお話しします。α世代やZ世代は、お金は持っていなくても、共感力や応援力といった「徳」を豊富に持っています。
彼らの感性は、「貸し借りして、みんなで上手く回せば、お金を使わなくても豊かになれる」というサーキュラーエコノミー(循環型経済)に根ざしています。
彼らにとってお金を使うのは「最後の手段」であり、リセールバリューを判定してから購入するのが当たり前の賢明さを持っています。
これまでの市場経済は、お金を介した奪い合いの「ゼロサム」な世界になりがちでした。しかし、私が提唱したいのは、人徳の「徳」を回して幸せを倍増させる、所得ならぬ「所徳(しょとく)」というモデルです。

学生たちが持つ「共感」や「応援」という熱量をビジネスモデルに組み込み、経済価値と社会価値を両立させる。
所得を増やすことだけを目的とするのではなく、社会に徳が循環し、全員の幸福の総和が増える「プラスサムな社会」を、私たちは志向すべきではないでしょうか。
私たちマーケターも、生活者のミクロな行動だけを追うのではなく、彼らがどのような社会文脈の中にいて、どのような意味を求めているのかを、客観的に捉え直す必要があります。
「所得」という数字の追求から一歩離れ、人間社会全体の文脈の中で、どのような「徳」を回せるのか。その俯瞰的な視点を持つことこそが、次世代マーケティングを成功させる鍵となります。
心ときめく「市場(いちば)」に帰ろう
小々馬講師:最後に、私が最近のスローガンとして掲げている言葉をお伝えします。それは「市場(いちば)に帰ろう」です。

私たちが普段戦っている「市場(しじょう)」は、ビジネス界における競争の舞台です。しかし、本来の「市場(いちば)」とは、かつて広場に人々が集まり、それぞれの得意なものや大切なものを持ち寄り、助け合い、心ときめく交流があった「共創の場」でした。
そこには確かな秩序があり、安心があり、そして何より一人ひとりの顔が見える人間味がありました。今の若い世代、そしてこれから現れるα世代が求めているのは、まさにこの「いちば」のような、温かみのあるマーケットのあり方です。
競争でパイを奪い合うマーケティングは、もう終わりにしましょう。次世代の子供たちと共に、心地よいマーケティングをイノベーションし、社会をハッピーにしていく。そのために、私たちはもう一度、あの心ときめく「市場(いちば)」の原点に立ち返るべきだと確信しております。
本日は長時間にわたり、ありがとうございました。
Profile:インターブランドジャパンのエグゼクティブコンサルタントとして企業変革に関わるコーポレートブランディングのプロジェクトをリード。その後、ブランド論の提唱者、D.A.アーカー氏が副会長を務める米国コンサルタント会社、プロフェットの日本代表に就任、ブランド体系戦略・ブランドポートフォリオ戦略の導入を支援。日本企業の無形資産価値創造、海外進出プロジェクトを支援する。2006年、フューチャーブランドの代表取締役社長に就任。企業価値向上プロジェクトをリードする一方で、MBA大学院や企業内大学にてブランドマネジメントの啓発活動を行う。2013年より現職。
第2講「リテール事業を取り巻く経営環境の変化と対応」
東急総合研究所執行役員研究 部長 米田 泰子 氏
自己紹介
米田講師:初めに、私が所属している東急総合研究所について簡単にご紹介します。
1986年に東急グループのインハウス研究所として設立されました。事業内容は、経営を取り巻く環境変化を踏まえて、グループ各社の経営戦略や事業戦略の策定、グループの事業活動を支援するための情報収集・蓄積・分析を行っております。また当社独自の観点で実施する自主調査研究、受託調査研究も行っております。
私は大学院修了後に入社して生活者の消費意識・行動に関する調査研究、ショッピングセンター・百貨店といったリテール事業を中心に事業戦略の策定支援に従事をしております。
本日は前半にリテールを取り巻く経営環境変化について、後半に変化への対応事例をいくつかご紹介していきます。
リテール事業をとりまく経営環境変化「人口・世帯」
米田講師:先ほど小々馬講師からZ世代、α世代の興味深いお話いただきましたが、私からはマクロ環境に関するデータ等から紹介していきます。

日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少の局面に入り、今年2024年には1億2488万人まで減少しています。同時に高齢化の進展も顕著になり、65歳以上の高齢人口は1980年までは1割未満でしたが、2020年には28.6%と3割近くにまで伸びています。
こうした高齢化は、消費にも大きな影響を与えており、支出額の減少や支出の対象の変化を引き起こしています。
人口は減少していますが、世帯数は増えています。これは平均世帯人員の減少が要因で、夫婦と子供からなる世帯が減少する一方で、単独世帯は増えている状況です。

上のグラフは 家計調査をもとに、世帯主年齢別の1世帯当たりの1カ月支出を表しています。40-50代の世帯主は1ヶ月に30万近い支出がありますが、60代・70代以上になるとその支出額が減ってきます。
また食料や住居、光熱費といった基礎的な支出は年齢が上がっても変わりませんが、交通通信や教養娯楽といった消費は、60代・70代以上になると減っていくことが確認できます。

人口減少や高齢化によって市場が縮小するとともに、主に郊外ショッピングセンターがターゲットとしてきたファミリー層も減少していくことが、今後も続くと想定されています。その中で事業者側の人手不足も顕在化しています。
リテール事業をとりまく経営環境変化「ライフスタイル」

米田講師:続いて、ライフスタイルの変化についてです。全体を俯瞰すると、就業状況では女性の労働力率は各年代で非常に上がっております。これに伴って共働き世帯も非常に増えております。
また働き方は、コロナを機にテレワークが定着してきています。同様に、インターネットでの買い物も年代を問わず定着しています。
また価値観に関しては、タイムパフォーマンス的な価値観だったり、体験にお金を使ったり、環境に対する意識の高さは特に若い世代を中心に高くなっています。

男女ともに仕事でも家庭でも忙しい人が増えていることが、こうした結果から伺えます。夫婦の働き方を見ても、1980年代は妻が専業主婦である世帯が、共働き世帯を大きく上回っていました。
1990年代は同じ位になり、 2000年代以降になると共働き世帯が専業主婦世帯を上回るという状況になってきています。

また「今しかできない参加型の体験やコンテンツにお金を払う」、こちらも10代後半や20代で3割程度が当てはまると回答しております。

このように共働きが増え、非常に忙しい生活を送る人が増えていく中で、やはりタイムパフォーマンス重視の傾向は大きいものになっています。
またテレワークの定着は街の利用に大きな影響を与えていると考えられ、住宅周辺で過ごすことが非常に増えています。
インターネットでの買い物の利用が増えていく中で、実際にリアルの店舗を持っているリテールの事業者に関しては、「どうやって自分の施設にお客さんを呼ぶのか」を考える必要があると捉えています。
リテール事業をとりまく経営環境変化「経済情勢」
米田講師:続いて、経済情勢のデータもご紹介したいと思います。


まず家計消費の状況について、2000年を100としたグラフです。
濃い青い帯が「消費支出」全体のグラフですが、 昨今の物価の上昇に伴い、2022年、2023年は上昇傾向になっています。ただし、2000年から2021年まではほとんど変化が見られないことが改めて確認できます。
一方で、「被服及び履物」のいわゆるファッションに関する消費は、どんどん消費が減っており、 2023年においては大体2000年当時の6割程度にまで消費額が減っています。

以上のように、全体的には「長期デフレ脱却」と言えますが、ファッション業界の低迷が続いている中で、 今後インバウンドの方を主要なターゲットとする事業者も多く出てくると予想されます。こうした動向をより注視していく必要があります。
リテール事業をとりまく経営環境変化「地球環境への対応」

米田講師:最後に「地球環境への対応」です。今年も非常に暑く、昨年よりも気温が上がるという予測も出ています。地球温暖化によるリスクが世界共通の課題と認識される中で、2015年に採択されたCOP21「パリ協定」というものがあります。
これに伴い、「温室効果ガスの削減」「プラスチック削減に向けた取り組み」、「サーキュラーエコノミー」「食品ロスの削減」などの様々な取り組みが進められています。
生活者の社会課題解決に対する関心も非常に高まっている中で、 事業者としては、地球環境やサステナビリティへいかに対応していくのかも非常に重要となります。
経営環境の変化への対応が必須に

【市場】の中では人口減少、高齢化、ライフスタイル・価値観の変化、またインバウンドの状況。
【社会】としてはデジタル化やサスナビリティへの対応。
そして【業界・自社】の中では顕在化してくる人手不足や競争状況の変化。
このような変化に適宜対応していくことが重要になってきていると思います。
対応事例の紹介「SIPストア」
米田講師:後半では、環境変化に対応している事例を紹介していきたいと思います。

米田講師:続いて、3つ目の事例はセブン&アイの新しいコンセプト店舗「SIPストア」です。
セブン・イレブン・ジャパンとイトーヨーカドーによる「SEJ・IY・パートナーシップ(SIP)」という連携により、色々な商品、サービスの相互供給や相互送客、また店舗オペレーションの最大化が図られています。
こちらのSIPストアは、様々な環境変化の中でお客様の消費行動や生活に対する価値観、 幅広いニーズに対応するために、テスト店舗として作られたと伺っています。
売り場面積は約88坪で、通常50~60坪が平均的のコンビニエンスストアにしては、少し広めになっています。
アイテムも、通常のコンビニでは3,000アイテム程ですが、SIPストアは5,300アイテムあり、幅広いアイテムが揃っております。 特に生鮮産品の取り扱いがあるということ、 また、グループである「赤ちゃん本舗」や「ロフト」の商品などもあります。
このSIPストアの1号店は、常磐線の松戸から新京成線に乗り換えて10分の「常盤平」駅前に立地しており、駐車場が非常に広く、車での来店がしやすくなっています。
ちょうど今年の5月末に、道路を挟んだ隣接地にOKストアがオープンしました。
皆さんもご存知のように、OKストアは非常に強力なお店ですが、実際はターゲットも利用方法も違うので、業績自体に大きな影響はないと伺っています。

店内のレイアウトと品揃えについて、この緑色のゾーンに「セブンプレミアムデリカ」や生鮮産品、 冷凍食品があり、この辺りのゾーンは他のコンビニよりもやや広くなっています。
基本的に鮮魚、精肉の取り扱いが大きなポイントとなりますが、 特にこの使い切りサイズの量目であることがポイントです。 他には、冷凍食品の品揃えの拡大や、グループ商品の展開が大きな特徴になっております。

こちらが店内の様子です。野菜やお米のコーナーの横に、お肉、お魚のパックが並べられています。 パックのサイズはかなり小さめになっています。また、冷凍食品の品揃えも結構充実しています。
レジ横には注文を受けてから焼くピザや焼き鳥、店内で焼くパンも揃っており、「ついで買い」が促されるようになっています。
先ほどオーケーの影響をお話しましたが、やはりナショナルブランドの飲料やお菓子は売り上げに影響があったそうです。
一方で、肉や魚の少量パック、それから冷凍食品や揚げ物は非常に支持されていて、 タイパを重視される方々が駅を利用するついでに買われるそうです。また、お買い物に時間をかけるのが大変な高齢者のニーズにも応えています。
対応事例の紹介「VISON」

米田講師:最後の事例は、2021年に三重県で開業した「VISON」でございます。
VISONは地方が抱える課題、例えば若年層の流出や高齢化を、ビジネスで解決する地方創生プロジェクトとして期待をされています。
「食と癒し」をテーマに、この地域へ来たら「美味しく、健康に良く、癒せて、新しい体験ができる」ことをキャッチフレーズに地域づくりが進められています。中には約70店舗ほどがありますが、ナショナルチェーンはこの中にはほぼ入っておりません。食に関して圧倒的に専門性のあるテナントのみが選ばれています。
立地は、名古屋から車で大体1時間40分ぐらいのところにあり、 伊勢市と隣接していますので、伊勢神宮までは車で20分程の距離にあります。
建物のデザインにもかなりこだわりが見られ、建材は地元の木材が使われていて、今後のメンテナンスも地元の方が行っていくとのことです。
また、隣接する伊瀬神宮は「式年遷宮」といって、20年に1度、張り替え等でリモデルがされていきます。VISONもそれに倣って、建物の素材の木を一部張り替えながら、100年続く施設を目指しています。

テナントは主に食のテナントが入っており、地元の野菜を扱うマルシェや肉の専門店、 それから味噌と醤油など、日本の食文化に関連するテナントが選ばれています。

また、飲食ゾーンでは、スペインの美食の街サンセバスチャンとゆかりのある飲食ゾーンやチョコレートのカカオを栽培するハウスなどが点在しています。
通常、ショッピングセンターのテナントは5年程の短期契約が多いですが、VISONでは「100年続く関係性を築いていこう」という観点から、長期的な契約とテナント選びがされています。
こうしたテナントとの関係性、施設の作り方、サステナビリティへの配慮は、今後色々な企業の参考になっていくと考えられます。
終わりに
米田講師:以上、今日は「経営環境変化」ということで、前半ではマクロ環境に関するお話を、後半ではそれに対応する事例を挙げさせていただきました。

環境というのは刻々と変化するものです。そうした中で、商圏のお客様や働く人だけでなく、施設の役割や業態のあり方も変化していくと捉えています。
そして、今後は益々このような環境変化への対応が重要になるのではないかと思います。
以上、ご清聴ありがとうございました。
Profile:お茶の水女子大学文教育学部卒業、同大大学院人文科学研究科修了。大学院修了後、東急総合研究所に入社。生活者の消費行動や生活行動に関する調査研究およびリテール事業を中心に東急グループの事業戦略策定支援に従事。中小企業診断士、SC経営士(一般社団法人日本ショッピングセンター協会認定)。『ミセスが選んだ生活満店100 多摩田園都市にみる「売れ筋」の研究』(共著、PHP研究所、1997年)、『SC経営士が語る新・ショッピングセンター論』(担当箇所執筆、繊研新聞社、2013年)、『ローカライズ時代の商業ビル【エリアマーケティング&リーシング】資料集』(担当箇所執筆、総合ユニコム、2021年)。
第3講「ブランド・イノベーションのヒント」
株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役 音部 大輔 氏
音部講師:クー・マーケティング・カンパニーの音部と申します。本日はブランド・イノベーションをテーマにお話しさせていただきます。
私はこれまで、P&Gでのキャリアを皮切りに、ダノン、ユニリーバ、日産自動車を経て、直近では資生堂でCMOを務めてまいりました。
一見バラバラに見えるキャリアかもしれませんが、一貫して取り組んできたのは「ブランドマネジメント」と「マーケティング組織の構築」です。
現在はコンサルタントとして、戦略立案や「ブランド・ホロタイプ・モデル」といった手法を用いて、多くの企業のマーケティング活動を支援しています。
ブランドは「いい感じの世界観」ではない
音部講師:まず明確にしておきたいのは、「ブランドとは何か」という定義です。
よくある誤解として「ブランドとはいい感じの世界観を作ることだ」というものがありますが、これは全く違います。確かに結果として良い世界観が作られることはありますが、世界観を作ること自体が目的ではありません。
アメリカマーケティング協会の定義では、ブランドとは「他者の製品と識別させるための名称やシンボル」とされています。これはデビッド・アーカー先生の理論に強い影響を受けた正しい定義ですが、実務上は少し長くて使いにくいかもしれません。
私はもっと端的に「ブランドとは『意味』である」と定義しています。
例えば、P&Gの「アリエル」は元々「水の妖精」の名前ですし、「ファブリーズ」は「ファブリック(布)」と「ブリーズ(そよ風)」を組み合わせた造語です。
その言葉自体が既存のものであれ造語であれ、そこに特定の「固有の意味」を付与していくことこそが、ブランドマネジメントの本質なのです。
この「意味」の中にはパーパス(大義)や人格が含まれますが、根幹にあるのは「私(消費者)にとってどんな良いことがあるのか」というベネフィットです。
「機能」と「ベネフィット」を混同してはいけない
音部講師:ブランドを定義する際、最も重要でありながら最も混同されやすいのが「ベネフィット」です。多くのマーケターが「機能」を「ベネフィット」だと勘違いしています。
例えば、紙おむつのパンパースを例に取りましょう。
「20%漏れにくくなりました」「蒸れません」というのは、あくまで商品の「機能」です。この時の主語は「紙おむつ」です。
対して「ベネフィット」の主語は、常に「消費者」でなければなりません。
- 機能:紙おむつが漏れない
- ベネフィット:赤ちゃんが健やかな肌でいられる。赤ちゃんがぐっすり眠れる。
- さらに深いベネフィット:赤ちゃんが機嫌よく眠ってくれるので、私は「良い親」であるという自信が持てる。
機能は一つでも、そこから導き出されるベネフィットは多岐にわたります。どのベネフィットを選択するかによって、広告の表現も、パッケージも、価格設定も全く異なるものになります。
この「ベネフィット」こそがブランドの「意味」の核となるのです。
ブランドが存在する唯一の目的は「利益の最大化」
音部講師:では、なぜ企業は多大な労力をかけてブランドを作るのでしょうか。
ロマンチックな理由を期待されるかもしれませんが、答えは非常に現実的です。それは「利益を出しやすくするため」に他なりません。
「今回の広告はブランドリフトのためだから利益は出ません」という言い訳を耳にすることがありますが、それはブランドの本来の役割から外れています。
P&Gやユニリーバ、ダノンといったブランドを極めて大切にする企業群に共通しているのは、四半期ごとの利益要求が凄まじく厳しいという点です。ラグジュアリーブランドも同様です。
彼らがなぜこれほどブランドに固執するかと言えば、強いブランドがあれば利益が圧倒的に出やすくなることを知っているからです。
この構造を理解するために、価格と原価、そして利益の関係を見てみましょう。 工場から出てきた状態の「製品」のコストを原価と呼びます。そこに「ブランド」という付加価値がくっつくことで、消費者がお金を払う対象である「商品」となり、価格が決まります。
図式化すれば、「利益とブランドは同じ場所に位置している」ことがわかります。つまり、ブランドが強ければ強いほど、価格を上げることができ、利益を大きくすることができるのです。
ブランドの寿命を縮める「人」と「技術」の罠
音部講師:「プロダクト・ライフサイクル」という言葉があるため、ブランドにも寿命があると思われがちですが、それは混同です。
製品(プロダクト)は技術革新によって変わらざるを得ませんが、ブランドは「意味」ですから、正しく運用すれば極めて長く使い続けることができます。
ブランドの寿命を縮めてしまう二大理由は、実は「人事異動」と「安易なライン拡張」です。
新しい担当者は、自分の実績を作ろうと新しいことをやりたがります。また、新しい技術が開発されると「あの有名なブランドにくっつけて出せば売れるだろう」と、ブランドの本来の意味とは無関係な製品にブランド名を使ってしまいます。
これに対抗するには、ブランドの定義を「文章」として明確に示し、属人化させないことが不可欠です。私はそのためのツールとして「ブランド・ホロタイプ・モデル」を提唱しています。
新種を発見した際の標本を意味する「ホロタイプ」の名が示す通り、そのブランドの根本的な特徴を記述しておくことで、新しい製品がそのブランドにふさわしいかどうかを客観的に判定できるようにするのです。
4Pは「戦略」ではなく、概念を届ける「手段」である
音部講師:マーケティングの議論において、避けて通れないのが「4P(Product, Price, Place, Promotion)」です。よく「4P戦略」という言葉が使われますが、私はあえて、これらは「戦略」ではなく「手段」であると強調したい。
4Pはあくまで、私たちが定義した「ブランドの意味(ベネフィット)」や「ターゲット消費者の概念」を、物理的・知覚的な形にして消費者に届けるための具現化策に過ぎないのです。
皆さんの周りでも、マーケティングの会議になると「パーソナライゼーションが大切だ」「ESGを意識すべきだ」「UGCやD2Cの接点が必要だ」といった言葉が飛び交うことはありませんか? あるいは、ランディングページの改善や、有名なタレントを起用した広告など、枚挙にいとまがありません。
これらは確かに非常に重要ですし、企業の予算のほとんどはここに投じられます。しかし、これらは全て「手段(4P)」の話なのです。
恐ろしいのは、「誰に(ターゲット)」「どんな良いこと(ベネフィット)」を届けるのかという左右の両端が曖昧なまま、真ん中の4P(手段)のよしあしを議論してしまうことです。
基準がない状態で広告を評価しようとすると、結局「このタレントが好きだから採用」とか「今これが流行っているから」といった、個人的な好き嫌いや雰囲気で物事が決まってしまいかねません。
根源的なイノベーションは「ターゲット」と「ベネフィット」にある
音部講師:では、ブランドにおける「イノベーション」とは一体どこで発生するのでしょうか。
もちろん、デジタル技術の進展や、新しい製造方法による4Pの領域での革新も素晴らしいものです。しかし、ブランドマネジメント上の、より根源的で安定したイノベーションは、「ターゲット消費者の捉え方」と「ベネフィットの捉え方」の2点に発現します。
例えば、「誰に届けるか」というターゲットの捉え方を一つ変えるだけで、その後の技術開発やプライシングのあり方は劇的に変わります。
私自身、以前は「このブランドを大好きになってもらうために、消費者と1対1の関係を結ぶのだ」と意気込んでいました。しかし、自分自身の生活を振り返ってみてください。そんな深い関係を築いているブランドがいくつありますか? 実はあまり多くないはずです。
そこで、ターゲットの捉え方を一歩進めるというイノベーションが考えられます。例えば、「消費者と直接つながる」のではなく、「消費者が大切にしている『誰か』との関係を改善する存在になる」という考え方です。
私たちが何かのドラマや映画で感動する時、その多くは人間関係の変化、特に「関係の改善」が描かれています。
ブランドが、その人の大切な人との関係にポジティブな影響を与えることができれば、そのブランドはより深く愛されるようになるのです。
「自我」の多面性に着目したターゲット・イノベーション
音部講師:ターゲットを捉え直す際のもう一つのヒントが、人間の「自我」です。
一人の人物の中には、複数の自我が共存しています。ある時は「父」であり、ある時は「夫」であり、ある時は「上司」や「部下」であり、またある時は「一人のプロフェッショナル」であるといった具合です。
例えば、家庭で洗剤を買うシーンでも、実はプロフェッショナルな「部下」に近い心理が働くことがあります。もし間違った洗剤を買って家族に不評を買えば、洗剤を使い切るまでの1ヶ月間、家族から文句を言われ続けるリスク(責任)を背負っているからです。
このように、消費者を単なる「20代男性」といった属性で見るのではなく、今どの「自我」で行動しているのか、どの「人間関係」の中にいるのかを洞察すること。これがブランドマネジメントにおけるターゲット設定のイノベーションを誘発します。
おわりに
音部講師:ブランド・イノベーションとは、決して奇をてらった新しいプロモーションをすることではありません。
誰に、どんなベネフィットを届けるのか。その「意味」の構築に誰よりも執着し、4Pという手段を駆使して、消費者の記憶の中に確かな資産を積み上げていくこと。その愚直なマネジメントの積み重ねこそが、結果として利益をもたらし、社会に必要とされ続けるブランドを創り出すのです。
本日は長時間にわたり、本当にありがとうございました。皆さんの日々の実務において、一つでもヒントになることがあれば幸いです。
音部 大輔 氏 株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
Profile:日米P&Gを経て、ダノンやユニリーバ、資生堂などでマーケティング担当副社長やCMOとしてブランド回復やマーケティング組織強化を主導。2018年より独立、家電、日用品、食品、広告会社など国内外の多様なクライアントを支援。博士(経営学 神戸大学)。 著書に『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(宣伝会議)、『マーケティングプロフッショナルの視点』(日経BP)、『The Art of Marketing - マーケティングの技法』(宣伝会議、日本マーケティング学会「日本マーケティング本大賞」で2022年の大賞受賞)、『マーケティングの扉』(日経BP)などがある。
パネルディスカッション・質疑応答
(左から)陶山理事長、小々馬講師、米田講師、音部講師
陶山理事長をファシリテーターとして、小々馬講師、米田講師、音部講師の3名と共にパネルディスカッションを実施しました。
消費者ではなく個人の「多様性」と「世界観」に対する今日的なブランドの心地良い「寄り添い」やこれらのバランス感、利用者・生活者による新しい業態の理解・解釈とこれらの行動の観察とインサイト、マクロ的なトレンド理解と個別事象の区別、ベネフィットの観点から既存の業種・業態を超えたブランド価値を捉えることなど、ブランド・イノベーションにつながる重要な議論が交わされました。

さらに会場の参加者からも、時代変遷にともなう世代特性の理解や、親・子ども世代間の相互影響など、今日的な消費・消費者の理解や解釈にとって重要な観点からの質疑応答があり、ディスカッションはさらに活発かつ有意義なものとなりました。
閉会の挨拶
最後に、本フォーラムの後援団体である関西大学東京経済人倶楽部を代表して、関西大学東京経済人倶楽部運営委員/JLLモールマネジメント株式会社取締役会長の大津 武氏より、講演を受けて閉会の挨拶をいただきました。
ライフスタイルの数だけある価値観や感性、多様なコミュニケーションツール・デバイス、これらの掛け算に対応するために、事業者側も、事業の構造、調達の仕組み、人のアサインの仕方に至るまで変化が求められている時代に、ブランド戦略経営研究所の役割や今後の協働に向けた期待の言葉をいただきました。
総括
今回の東京第24回フォーラムは「今日の消費とブランド・イノベーション」をテーマに、3名の講師からお話しいただきました。
講師をはじめ多くの皆様のご協力により本フォーラムを盛況のうちに終えることができました。ご講演いただきました講師の皆さんには厚くお礼申し上げます。
2024/10/17
| 2024/10/30 |


