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【開催レポート】2016年6月度 東京第8回フォーラム

閉塞状況とコモディティ化を脱却するためのイノベーションの意義と役割

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所では、東京第八回フォーラム(通算第100回)を、2016年6月14日 (火) 、関西大学東京センターで開催しました。

ここ数年、一般社団法人ブランド戦略経営研究所では、現代の社会生活やライフスタイル、消費や競争における動態や変化をどう掴むか、そうした変化に対応する経営やマーケティング、ブランド戦略の革新とは何かを探ってきました。ダイナミズムとネットワークを特徴とする現代のビジネスにおけるキーワードがファジー、コンプレックス、ユビキタスであり、そこで求められている課題が差別化であり、競争優位をもたらすブランド・アイデンティティの構築にほかならないという観点にもとづくものです。

今回の東京第八回フォーラムは、「閉塞状況とコモディティ化を脱却するためのイノベーションの意義と役割」をテーマとして設定しました。イノベーションに関するさまざまな理論や実務上の取り組みをあらためて整理しながら、再度その原点に立ち返って組織内外のイノベーションめぐる課題について考えるというのがその趣旨です。

主催者開会の挨拶

高木克典 当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、まず当研究所の陶山理事長より東京第八回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の趣旨や事業概要の説明がありました。

当研究所も設立五年目に入り、これまでの調査研究活動の成果をふまえながら、「経営-マーケティング-知財の三位一体化」というビジョンの原点に立ち返ってその存在価値をアピールすることが重要であることがあらためて強調されました。
 

第1講「破壊的イノベーターになるための7つのステップ」

関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 副研究科長 玉田 俊平太氏

玉田講師からは、多くのビジネスパーソンが聞いたことはあるが完全には理解できていない「イノベーション」、とくに誤解されることの多い「破壊的イノベーション」とは何か(=敵を知り)、なぜ優良企業であっても破壊的イノベーションに打ち負かされてしまうのか(=己を知り)、自らが破壊的イノベーションを起こすためにはどのようにすれば良いか(=戦略)について多くの事例を交えながらお話をいただきました。

まずイノベーションとは何かについて、ラテン語のInnovare(インノバーレ)をふまえ、「何かを新しくすること」、単なる新規性に富むアイデア(インベンション)でも技術革新でもなく、それが社会で広く実用に供せられてはじめてイノベーションと呼びうるとして、『創新普及』という訳語を玉田講師は提唱されました。新しくなるのは、プロセス、プロダクト、サービスだけでなく、メンタル・モデルもイノベーションされうると説かれました。

そしてこのイノベーションは、企業にとって差異化(differentiation)やコスト競争力(lower cost)といった競争優位の源泉になるとともに、外部環境の変化に適応できる能力をもたらします。

さらに玉田講師は、クリステンセンの理論を紹介しながら、従来製品よりも優れた性能で、ハイエンドの顧客獲得を狙う「持続的(sustaining)イノベーション」に対して、「破壊的(disruptive)イノベーション」が存在するとして、既存の主要顧客には魅力的に映らないものの、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にシンプルで使い勝手が良く安上がりな製品をもたらすことによって、新規参入者が既存企業を打ち負かすことがある、と「イノベーションのジレンマ(Innovator’s Dilemma)」について説明されました。

最後にこの破壊的イノベーションを起こすための7つのステップとして、玉田講師は、①3つの基本戦略、②メンバーの多様性、③無消費の状況や満足過剰な顧客を探す、④「正しい」ブレインストーミング、⑤破壊的アイデア、⑥破壊的企業の買収、⑦別組織での破壊的イノベーションの推進、をあげ、これらを実践することで破壊的イノベーターになることができると結論づけられました。

玉田 俊平太氏
関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 副研究科長

profile:関西学院大学経営戦略研究科副研究科長。博士(学術)(東京大学)。ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属、競争力と戦略との関係について研究するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーションのマネジメントについて指導を受ける。筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。研究・イノベーション学会評議員。平成23年度TEPIA知的財産学術奨励賞「TEPIA会長大賞」受賞。著書に『日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社、2015年)、監訳に『イノベーションへの解』(翔泳社、2003年)、『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2000年)などがある。
第2講「イノベーションを創出するブランディング」

日本アイ・ビー・エム株式会社 マーケティング&コミュニケーション コミュニケーション&ブランドエクスペリエンス 本部長 山口 有希子氏

山口講師には、クラウド時代やコグニティブ・ コンピューティングといった新しいテクノロジーに合わせたトランスフォーメーションをコンサルティング事業の柱に据えている日本IBM、グローバルブランドでもあるIBMが多岐にわたるビジネスを統合する事業を展開する一方、組織の活性化を進めるうえでブランディングやコミュニケーションが果たす役割などについて講演いただきました。

“Making the World Better”(①イノベーション、②世の中を変える技術、③Forward Thinker、④グローバル協業、⑤IBMer)を自社のミッションとし、“A great company, a great brand” であるIBMブランドを定義する要素は、山口講師によれば、①不変の概念(Progress)、②差別化要因(Our Values)、③ブランドを体験する機会(The IBMer)、④対象(Forward-thinking clients, employees, investors and communities)からなっているということです。

米国で“最も優れた企業”といわれたそのIBMも1990年代初めの厳しい時代を経て、ルイス・ガースナーのもとで徹底的な社内のヒヤリング、“お客様第一”の再確認、統一したブランディング活動を進めて、ブランド価値も急激に回復しました。またワトソンJr. は、企業理念を変革し、3つの信条(①最善の顧客サービス、②完全性の追求、③個人の尊重)を掲げ、また民主的アプローチ“Jam”を実践してIBMers Value(①お客様の成功、②イノベーション、③信頼と責任)という新しい価値観を構築しました。

現在、コグニティブ・ソリューションとクラウド・プラットフォームの会社であるIBMが行っているチャレンジについて山口講師は、コグニティブ・ コンピューティング、すなわち、膨大なビッグデータを活用した新たな可能性、より多くの情報に基づいた確実性の高い意思決定を支援することをあげられました。またそうした事業を推進するIBMerを育成すべく主な社内広報プログラムツールとして、全社員向けオンライン教育(Think Academy)、全社員向けイベント(Cognitive Build)、営業/管理職向けアカデミー(Smarter Selling Academy)を最後に具体的に説明されました。現在、IBMは、Innovation、Collaboration、Global expertiseに積極的に取り組んでおられます。

山口 有希子氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 マーケティング&コミュニケーション コミュニケーション&ブランドエクスペリエンス 本部長

Profile:熊本県出身。 1993年熊本大学卒業後、リクルートコスモス入社。その後、ルーセント・テクノロジー、シスコシステムズ、ヤフージャパンなどのIT企業のマーケティングの管理職を歴任。現在、日本IBMにて、広告宣伝、広報、社会貢献、デジタル・ブランディングを管轄。日本アドバタイザーズ協会理事、国際委員会委員長。ACC広告賞審査員。
◇パネルディスカッション
パネリスト:
玉田 俊平太氏:関西学院大学 専門職大学院 経営戦略研究科 副研究科長
山口 有希子氏:日本アイ・ビー・エム株式会社 マーケティング&コミュニケーション コミュニケーション&ブランドエクスペリエンス 本部長
コーディネーター:陶山計介 当研究所理事長

続いてコーディネーターの陶山理事長と二人の講師で今回のテーマに沿ってディスカッションがなされました。イノベーションそもそもイノベーションとは何か、なぜ今日あらためてそれが注目されるようになったのか、その役割や位置づけをどのように捉えているのか、①イノベーションの創出におけるブランディングやコミュニケーションの役割と課題、②イノベーションに向けた組織変革や思考・アイデアの変革について論点が深められました。

また参加者の皆さんからは、
①破壊的イノベーションに対する防衛策は何か、
②デジタル・ソーシャルな時代におけるプロダクトとマーケティングの比重やそれぞれの役割、
③商品の価値やそこにおける共感と情報提供の役割、
④グローバル企業であるIBMのなかでの日本市場のポテンシャルや日本法人の位置づけ、
⑤インターナルコミュニケーションの推進やモチベーションを上げるための取り組みや仕組み、
などについて活発な質疑応答がありました。また両講師からは当研究所の活動に対する期待も述べられました。

◇閉会の挨拶

最後に、閉会の挨拶として、中川博司専務理事から商標や特許といった知財分野の制度設計に関する政府の考え方など最新情報、各講師、参加者の皆様への謝意が述べられ、無事閉会となりました。

 

◇総括

今回の東京第八回フォーラムは、イノベーションとは何かについて改めて考えなおすきっかけとなりました。また、プロダクトやマーケティング、ブランド戦略の意義や役割をふまえて、ビジネスの現場でイノベーションをいかに進めていくべきかなどについても学ぶことができました。

玉田講師、山口講師の非常に論旨明快で歯切れの良い講演とその後のパネルディスカッションはすべての参加者に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。ご講演いただいた二人の講師には厚くお礼申し上げます。

2017/07/24

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