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【開催レポート】2015年4月度 大阪第四回フォーラム

食・家庭用品戦国時代におけるブランド戦略をさぐる
-イノベーションとコミュニティの創造-

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所では、大阪第四回フォーラムを2015年4月17日 (金) に大阪商工会議所で開催しました。今回のテーマは「食・家庭用品戦国時代におけるブランド戦略をさぐる-イノベーションとコミュニティの創造-」です。今日、生活文化や習慣、また消費・購買行動は大きく変化してきています。消費増税や円安、原料高のなかで価格や品質・安全・安心に加えて、健康、環境、地域貢献、社会倫理など第3、第4の選択軸を持った商品が期待されています。

食の分野では「料理文化(cooking culture)」から「食事文化(eating culture)」への進化や、Local、Natural、Artisan、Vegan、Energyなどのキーワードが欧米では食品メーカーやスーパーのプロモーションに欠かせないものになっています。一方、小売業主導のPBが独自のブランド世界を構築しながら、その影響力を業態横断的に増大させています。家庭用品の分野でも、ストレスフリーや特定の用途や性年代を対象としたり、イノベーションを伴う新商品が登場して話題を巻き起こしています。

こうした食や家庭用品をめぐる競争環境下ではイノベーションの役割がますます増大し、顧客とのリレーションシップの構築を超えたコミュニティの創造も不可欠になってきています。またそこにおけるブランドの役割があらためて問い直されています。 今回のフォーラムでは、こういった現状認識を踏まえ食や家庭用品、それらに共通したブランド戦略について改めて考察することが課題でした。

主催者開会の挨拶

まず当研究会理事長の陶山から、大阪第四回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の趣旨や事業概要を簡潔に説明させていただきました。

当研究所も設立三年目に入り、あらためて「経営-マーケティング-知財の三位一体化」というビジョンの原点に立ち返ってその存在価値をアピールすることが重要であるとの見地から、「ホリスティック(統合的)・ブランディング」という具体的な課題が提唱されました。

第1講「ブランドの歴史からあらためてブランド戦略を考える」

中央大学 ビジネススクール教授 田中 洋氏

田中講師からはブランドとはなにかについて、その歴史を紐解きながらお話をしていただきました。

そのなかで、ブランドには4つの差異、①時間的差異、②空間的差異、③社会的差異、④自然的差異を生み出すパワーが存在することをそれぞれの具体例を取り上げて説明していただきました。

ブランドに関する書籍などでは、ブランド (brand) の起源は家畜の焼き印からはじまるということがよく書かれています。しかし、田中講師はbrandという言葉だけにブランドの起源を見出すことは正確ではなく、markという言葉にもブランドの起源を求めるべきであると主張し、実際にmarkといった観点からブラン ドが現代にいたるまでどのように発展したかを説明されました。

Markとは原義にさかのぼると何かと何かの区別・差異という意味です。ブランドの歴史を遡ると、現在に至るまでにブランドには大きく5つの段階が存在したことがわかります。

第1は、先史ブランド。第2は、原ブランド。第3は、前近代ブランド。第4は、近代ブランド。第5は、現代ブランドです。

こういったブランドの歴史を見ていくと、ブランドのパワーとは、差異を生み出す点にあると理解できます。このブランドのパワーは次の4つに分類できます。時間的差異、空間的差異、社会的差異、あるいは自然的差異です。

こういった差異を生み出すパワーがブランドには備わっており、自社のブランドが十分そのような「差異」 を生み出しているかどうかチェックする必要があることになります。

田中講師からは最後に、先史時代までブランドの歴史を遡り、丁寧にその変遷を検討することによって、これまでは見えてこなかったブランドが有するパワーを再検討することができるようになるとの指摘がありました。

田中 洋氏
中央大学 ビジネススクール教授

Profile:㈱電通マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学 ビジネススクール客員研究員などを経て、2008年より社会人のためのビジネス スクールで、マーケティング戦略論などを講じる。日本広告学会賞(三度)、中央大学研究学術奨励賞、東京広告協会・白川忍賞、日本マーケティング学会ベストペーパー賞を受賞
第2講「マーケティング・ブランディングを現場にどう落とすか~家庭用品市場を事例として~」

熊本県立大学 総合管理学部教授 丸山 泰氏

丸山講師からは、ライオン株式会社のヒット商品である「キレイキレイ」のブランディング活動を中心に、現場でのブランディングや商品開発など幅広くお話をしていただきました。

丸山講師によると、最近の消費者は「低体温化」しています。そのため、消費者に商品を購入してもらうためにはまず消費者の体温を上げる、すなわち、消費者の購買意欲を喚起させなければなりません。

ただし、購買意欲を高めるだけでは不十分で、次に自社商品の魅力を伝えることが必要になります。つまり、消費者に商品を購入してもらうためには2段階のステップを踏む必要があるということです。その点を、「消費者をドキドキさせて、ズッキューンと狙い打つ」と表現しておられました。

消費者の購買意欲を喚起する商品を生み出すためには、共感情報が重要になります。共感情報とは、「ターゲットが、『そうそう、あるある』」と反応する」よう情報です。また狙い撃つための商品の情報は、「○○の特長を持っているので、△△のベネフィットを得られる□□(商品カテゴリー)です。」といった説明ができるというものです。

ブランディングが重要なのは、個々のマーケティングの成功を継続させることにつながるからです。短期志向的な単品戦略から、中長期志向的なブランド戦略へシフトしなければなりません。キレイキレイをいかにパワーブランドへ育て上げたのかについて、STPやSWOT分析、4Pといったマーケティングのフレームワークを用いながら説明していただき、ブランディングについての理解を深めることができました。

丸山 泰氏:
熊本県立大学 総合管理学部教授

Profile:マーケティング、マーケティング・リサーチ、消費者行動論担当。1960年鹿児島県生まれ。1985年東京工業大学大学院理工学研究科修了後、ライオン(株)入社。研究開発、市場情報部、事業部、ビューティケア事業部長、ブランドマネジメント開発担当部長を経て、2013年熊本県立大学総合管理学部教授(マーケティング)就任。2014年より同学部ビジネスアドミニストレーションコースコース長。日本マーケティング協会マーケティングマイスター(2003-2012年)。
第3講「ネスカフェのブランド戦略について」

ネスレ日本株式会社チーフ・マーケティング・オフィサー常務執行役員 マーケティング&コミュニケーションズ本部長 石橋 昌文氏

石橋講師からは、ネスカフェのブランド戦略を中心に、近年のネスカフェアンバサダーやネスカフェドルチェグストといった新聞雑誌でも頻繁に見かける事例 を具体的に取り上げながらお話をしていただきました。

ネスカフェは1960年に誕生したブランドで、発売当初から1990年代まではスーパーマーケットの伸長とともに成長していきました。

しかし、家庭内でのレギュラーコーヒーの普及やペットボトルコーヒーの普及によるコーヒーの飲み方の変化により、家庭内での消費が伸び悩んでしまいました。 一方で、スターバックスなどのシアトル系コーヒーチェーンの登場によるコーヒーの飲み方 (カ フェラテやマキアートなど) の多様化が進んできました。

こういった様々な変化のなかで、2010年頃から、ネスカフェは、「単に最大のコーヒーブランドではなく、日本のコーヒー市場をリードしながら、 最も愛されるコーヒーブランドとして、消費者に新しい価値とコーヒー体験を提供するブランドになること」をビジョンとして掲げるようになりました。ネスカフェドルチェグストやネスカフェゴールドブレンドバリスタといったコーヒーそのものだけでなく、コーヒーマシーンをはじめ、コーヒーを淹れてから飲むまでの幅広い体験をより上質なものにさせました。

このネスカフェゴールドブレンドバリスタを活用してネスカフェアンバサダープログラムを展開した事例についての説明もありました。このマシーンを 使うこ とで、職場で美味しいコーヒーが飲めるだけではなく、コーヒーを淹れる1分程 度の間に談笑ができるため、職場におけるコミュニケーションが 活性化された といった感想が送られてくることも多いとのことです。まさに、ネスカフェが新 しい価値を提供することに成功したというわけです。

このように、社内にある 既存の資源を活用しながらその提供方法に変化を加えることで、これまでにない 価値を提供するといったことは、今後のマーケティ ングやブランディングにお いて重要な課題になってくるでしょう。

石橋 昌文氏
ネスレ日本株式会社チーフ・マーケティング・オフィサー常務執行役員 マーケティング&コミュニケーションズ本部長

Profile:1985年ネスレ日本に入社。営業本部、ネスレUKを経て、1992年ネスレマッキントッシュ株式会社(現コンフェクショナリー事業本部)。2年間のネスレスイス本社での勤務を経て、2005年同マーケティング統括部長。キットカットの受験生応援キャンペーンに携わり、成功に導く。2009年ネスレ日本常務執行役員コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部長、2012年チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)を経て、現在CMOとして組織を横断的にみて、あらゆる部門においてマーケティング力を発揮させる役割を担う。
◇パネルディスカッション
パネリスト:
田中洋氏 (中央大学ビジネススクール教授)
丸山泰氏 (熊本県立大学総合管理学部教授)
石橋昌文氏 (ネスレ日本株式会社チーフ・マーケティング・オフィサー (CMO))
高垣敦郎氏(サーチクリエイション代表、(株)インテージ顧問)
コーディネーター:陶山計介理事長

続いてコーディネーターの陶山理事長と三人の講師に加えて当研究所の調査研究部長であるサーチクリエイション代表 高垣敦郎氏を交えながら今回のテーマに沿ってディスカッションがなされました。

まず高垣氏から、今後はNBとPBという区分がなくなっていくだろうという指摘がなされました。PB自体が有力なブランドになるというわけです。実際、若年層の消費者はPBに大きな抵抗感がなく、PBを安いからではなく〇〇のPBだからという理由で購買する傾向が高まっているとのことです。関連する質問がパネリストから会場に向けて行われた際には、会場にいる若年層の参加者が頷いたり同意を示す挙手をしている様子が見られました。

丸山氏からは、家庭用品で文化を作ることは非常に難しいといった指摘もなされました。それは、コミュニティを作ることが困難であることにつながります。そのため、SNSなどのメディアをいかに活用するかといったことが今後の課題になってきます。そこでのブランド・コミュニケーションがブランドとの寿命を伸ばすためのサイクル、①店頭に並べ続ける、②イノベーションを通じてブランド・イメージを新しくすることにつながります。

他にも、昔のブランドを復活させることが重要なブランド戦略の1つになっているといった指摘もなされました。歴史的な価値があるブランドは、これから育成していくブランドと異なり、これまでずっとコミュニケーションをしてきたために強固なブランド・イメージを有しているとのことです。

◇質疑応答

食品メーカーの出席者より若年層のコーヒー離れについての質問がありましたが、石橋講師からはアンバサダーマーケティングがうまく機能しており、学生の時はコーヒーを飲まなかった層が、会社で働くようになってコーヒーを飲む習慣が生まれたといった成果が得られたという回答がありました。

また、オーガニックやフェアトレード関連の商品ではどういったブランドパワーが機能しているかという質問に対しては、超自然的差異を生み出す点がオーガニックブランドにあたるのではないか、何かわれわれの感知できるところを少し超えた世界を生み出すからであると田中講師から説明がありました。オーガニックブランドなどにはそういった意味的な要素を持たせた方がより魅力が高まるとのことでした。

◇閉会の挨拶

最後に、閉会の挨拶として、鶴本祥文事務局長から各講師、参加者の皆様への謝意や各講師への感想が述べられ、閉会となりました。

◇総括

今回の大阪第四回フォーラムは、ブランドとは何かについて改めて考えなおすきっかけとなりました。また、差異化を生み出す能力を有するブランドをビジネスの現場でいかに育成していくべきかなどについても学ぶことができました。

そして、パネルディスカッションでのPBについての議論も、多くの企業のブランド戦略において有益な示唆を与えるものであると言えます。今後のブランド戦略においては、NBやPBといった区分で市場環境を分析することが必ずしも適正だと言えなくなるかもしれません。田中講師、丸山講師、石橋講師の非常に論旨明快で歯切れの良い講演とその後のパネルディスカッションはすべての参加者に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。ご講演いただいた三人の講師には厚くお礼申し上げます。

2015/06/03

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