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定例研究会開催レポート
【開催レポート】2013年4月度 大阪第2回フォーラム
イノベーションとリレーション
一般社団法人 ブランド戦略経営研究所では、大阪第二回フォーラムを4月16日(火)に大阪商工会議所で開催しました。今回は初の試みとして日本マーケティング学会(石井淳蔵会長・流通科学大学学長)の「ブランド&コミュ ニケーション研究プロジェクト」(田中 洋中央大学教授リーダー)に協賛いただきました。
今回のテーマは「百貨店とメーカーのブランド戦略の新動向:イノベーションとリレーション」です。アベノミクスによってデフレ脱却の機運のなかで小売業も復調の兆しが見えてきましたが、節約志向が残るなかで百貨店にとっては厳しい環境がなお続いています。
その一方で、関西・大阪では商業・流通が活気づくとともに競争が激化しています。JR三越伊勢丹、大阪ステーションシティ・ルクア、大丸梅田店、あべのキューズモールの開業、高島屋大阪店の増床に加えて、2012年11月には、阪急百貨店のグランドオープン、さらにグランフロント大阪の開業、あべのハルカス近鉄本店のオープン、とまさに“大阪流通戦争”と評されるほどです。
今回のフォーラムでは、百貨店を中心とした商業・流通企業が、どのようにすれば復活・再生するのか、とくにそこにおいて重要な鍵である小売業態開発における「イノベーションとリレーション」について、メーカーやサービス業などと対比しながら、ブランド戦略の観点から知見を深めることを目的としました。
まず当研究会理事長の陶山から、大阪第二回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の趣旨や事業概要を説明させていただきました。
順調に船出した当研究所の設立二年目にあたり、改めて「経営-マーケティング-知財の三位一体化」というビジョンの原点に立ち返り、その存在価値をアピールすること、そしてより具体的な課題として「ホリスティック(統合的)・ブランディング」を提唱しました。
Profile:一般社団法人 ブランド戦略経営研究所理事長/ 関西大学商学部教授/博士(経済学)『ブランド・エクイティ戦略』(訳著)、『日本型ブランド優位戦略』(共著)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会前会長。
中央大学 ビジネススクール教授の田中 洋氏からは、ブランドを強くするためのフレームワークを提示いただきました。
ブランドの中心は消費者の知覚システムと反応過程にあるというとらえ方にもとづいて、ブランドを成立させ、大きく飛躍させるためには、企業の経営戦略とマーケティング戦略とコミュニケーション戦略との3つが共同して働くことが必要であるということを強調されました。
その事例として、ケンタッキーフライドチキンがフライドチキンの作り方のイノベーションをフランチャイズシステムによって展開し、無印良品がセゾングループのPBを流通グループから独立させることで独自のブランドの発展を可能にし(経営戦略のイノベーション)、午後の紅茶エスプレッソティーは紅茶ユーザーに加えて缶コーヒーユーザーを取り入れたこと(マーケティング戦略のイノベーション)などを挙げられました。
近年のブランド研究や実務の分野でブランド・リレーションシップという新しいコンセプトが注目されてきていますが、青山学院大学経営学部教授の久保田進彦氏にはこれについて詳しく論じていただきました。
ブランド・リレーションシップとは、消費者とブランドとの間の心理的な絆や結びつきであり、そのブランドに対する態度や行動に肯定的な影響を及ぼします。
ブランドとは、売り手の製品やサービスを、競合他社の製品やサービスから識別するネーム、ことば、デザイ ン、シンボル、そのほかの特徴だとしても、そうしたブランドと自己との類似性や「並ぶ関係」をどう構築するかが、ブランドが持続的競争優位の源泉になるために重要になります。
ブランドが顧客と寄り添いながら、その好ましい思い出を創出することによって絆や愛着をもたらすことができることを大変分かりやすく、またエネルギッシュに展開していただきました。
青山学院大学 経営学部教授
Profile:明治学院大学経済学部卒 /早稲田大学博士(商学)株式会社サンリオ勤務を経て、2001年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。中京大学商学部助教授、東洋大学経営学部教授などを経て現職。
株式会社阪急阪神百貨店の代表取締役社長である荒木直也氏からは阪急うめだ本店の店づくりのなかに盛り込まれたコトや経験、感動を中心に据えた21世紀型の新しい業態価値=ブランド価値についての胸わくわく躍るお話しをいただきました。
モノを並べるだけでは、人を集められない、売れない時代にあって、これからの百貨店事業は、モノにまつわる文化的価値、情報を伝えて人を集めるという「生活文化業態」を構築しなければならない。 百貨店の原点である「生活提案力」と「総合力」で勝負することが求められているという認識に立って、いかに「楽しい買い物体験の提供」を可能にするかが、百貨店の提供すべき業態価値であることを荒木氏は提言されました。
2012年11月にグランドオープンしたのが、「情報リテイラー」としての「素敵な時間の過ごし方 暮らしの劇場 阪急うめだ本店」だということです。荒木社長からは祝祭広場・大階段、阪急うめだホール、阪急うめだギャラリー、アートステージ、コトコトステージなどの写真を多数紹介しながら、詳細かつ熱く語っていただきました。
株式会社阪急阪神百貨店 代表取締役社長
Profile:1957年生まれ 京都大学経済学部卒
1981年株式会社阪急百貨店入社 2004年執行役員、2010年株式会社阪急阪神百貨店取締役、2012年に代表取締役社長(現任)就任。販促、マーケティング部門、食品スーパー・SC運営会社への出向等を経て、役員就任後は、阪急本店建替え、西宮・博多阪急の開業、阪急メンズ東京、台湾事業等の主要プロジェクトを担当。
続いてコーディネーターの陶山理事長と三人の講師との間で今回のテーマに沿ってディスカッションを行いました。
まず、阪急阪神百貨店がリードする「業態価値」イノベーションの意義をどう考えるかについては、アッパーミドル層をターゲットにした従来のスタイルとは異なる、コトとしての経験価値の提案が非常に分かりやすい形でなされていることが議論されました。
また顧客とのブランド・リレーションシップの構築や効果的なコミュニケーションにとって必要な課題では、顧客と寄り添う参加型・体験型の取り組みが必要であり、事前の期待を上回る発見、喜び、感動をいかに首尾一貫して提供するかが鍵をなすことか強調されました。最後に三人の講師からは、「経営、マーケティング、知財の三位一体化」に関する調査研究・情報発信をミッションとするBSI(ブランド戦略経営研究所)への強い期待と要望もいただきました。
久保田 進彦氏 青山学院大学 経営学部教授
荒木 直也氏 株式会社阪急阪神百貨店 代表取締役社長
コーディネーター:陶山 計介理事長
会場からは、ビジネスの短いサイクルの中で長期的な見通しとマネジメントが必要とされるブランド構築をどのようにすれば良いのかという質問がありました。これに対して、インスピレーション型とでも言うルーズな形での「ソフトなタイプのブランド管理」もあっても良いのではという意見が出され、阪急というブランドの管理についてもこれら「ハード」と「ソフト」の両面から行っていることが講師の方々より回答として話されました。
最後に、閉会の挨拶として、中川博司専務理事から各講師、参加者の皆様への謝意と、各講師への感想と知財との関係(現在の日本の知財の制度が、マーケティングやビジネスの流れから遅れてしまっていること等)が述べられ、閉会となりました。
今回の大阪第二回フォーラムで取り上げられた小売業態開発におけるイノベーションとブランド戦略に関する話は、単に百貨店や小売業だけでなく、メーカーやサービス、あるいはB to Bビジネスにも共通した課題であり、また中小・中堅企業のブランド戦略にとっても多くの示唆を与えるものであったと言えます。その意味で今回のフォーラムはすべての参加者に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。
2013/04/25 |