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【開催レポート】2013年6月度 東京第3回フォーラム

PBの隆盛は何を投げかけているのか?
メーカーのNB戦略への示唆

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所では、東京第三回フォーラムを2013年6月26日(水)に関西大学東京センターで開催しました。今回のテーマは「PB(プライベートブランド)の隆盛は何を投げかけているのか?メーカーのNB(ナショナルブランド)戦略への示唆」です。アベノミクスによるデフレ脱却の機運の中で消費も活性化し、小売業も復調の兆しが見えてきましたが、来春には消費増税が予定され、節約・合理的消費への志向も強まることが予想されます。

PBは現在、トップメーカーを巻き込みながら大いにその存在感をアピールしており、対象カテゴリーも食品ではチルド・惣菜、日配品、生鮮、スイーツなどでラインナップが充実し、そうした商品が小売店舗、とくにコンビニエンスストアの売場を大きく占めているところです。

今回のフォーラムでは、今日のPBの隆盛をもたらした背景やそれを推進してきたスーパーやコンビニエンスストアなど小売業の商品戦略や店舗戦略をふりかえると同時に、今後のPBの売上高やシェアがどのようになっていくのか、そこにおける小売業とメーカーとの関係を欧米のグローバルリテイラーの動向などと対比しながら展望することが課題でした。

主催者開会の挨拶

まず当研究会理事長の陶山から、東京第三回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の趣旨や事業概要を簡潔に説明させていただきました。当研究所も設立二年目に入り、あらためて「経営-マーケティング-知財の三位一体化」というビジョンの原点に立ち返ってその存在価値をアピールすることが重要であるとの見地から、「ホリスティック(統合的)・ブランディング」という具体的な課題が提唱されました。

第1講「PB・WB・NBをめぐる最新動向をどう理解したらよいのか:開題」

一般社団法人ブランド戦略経営研究所理事長/関西大学商学部教授の陶山 計介氏からは、5月28~29日にアムステルダムで開催されたPLMA(The Private Label Manufacturers Association)の大会の模様や欧米、日本のPBをめぐる状況に関する詳細な説明がなされました。

そして今後のわが国におけるPBの行方は、「DS型」・「(スーパー)プレミアム型」・「(特定セグメント向け)コンセプト型」という3つの型からなるPBの展開がそれぞれいかに進んでいくのかという視点から展望されることが提示されました。

そして最後にわが国より一歩先に進んでいると思われる欧米におけるPBの動向をふまえると、今後のNBとPB(WB)の対抗・提携の次元としては、①スペック次元(品質・機能、価格、パッケージ)、②製品ブランド世界次元、③セグメンテーション次元、④売り場次元、⑤小売店舗(小売業態)ブランド次元、⑥ものづくり力&マーケティング力次元、⑦企業ブランドのアイデンティティとイメージ次元、の7つが取り上げられました。

これら7次元でのメーカーと小売業の動きが今後のNBとPBのあり方を左右していくこと、そしてそこでは両者のもつ「ブランド・コミュニティ機能」が問われているという提言がなされました。

陶山 計介 当研究会理事長
Profile:一般社団法人 ブランド戦略経営研究所理事長/ 関西大学商学部教授 /博士(経済学)『ブランド・エクイティ戦略』(訳著)、『日本型ブランド優位戦略』(共著)などブランド・マーケティング研究の第一人者。日本商業学会前会長。
第2講「消費者からみたPB評価とPB戦略」

中村先生からはPBの現状、消費者のPB評価、メーカーの対PB対応戦略について、詳細なデータをふまえて考察していただきました。

小売業の上位集中化や消費増税、PBそのものの多様な展開などによって20%程度までPBシェアは増加するとのきわめて的確な見通しも示されました。

消費者のPB評価で言えば、若い世代や高齢者などが価格や品質などそれぞれの基準に沿ってPBを購入しているものの、以前と比較して消費者のPB購入意向が減少傾向にあることにNBとせめぎ合いの様子が見て取れるということでした。

この点を念頭に置くなら、NBメーカーにとって、PB受託の場合には固定費を中心に範囲の経済を活用する一方、NBとPBとの価格差維持、新製品開発によるバラエティシーキング化、魅力効果やブランド・ポートフォリオ戦略の活用などによるNB強化を図ることがきわめて重要な課題になることが結論としてまとめられました。

中村講師のご講演は、食品メーカーを中心とする本フォーラムの参加者にとってPB対応戦略の方向性と課題を考える上で非常に有意義で示唆深いものとなりました。

中村 博氏
中央大学 ビジネススクール教授

Profile:1979年早稲田大学商学部卒業後、経営学博士(学習院大学)、専修大学商学部をへて、2007年より中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授。 主著に『新製品のマーケティング』(中央経済社、2001年)、『プライシング・サイエンス』(同文館、共著、2005年)、『マーケット・セグメンテーション-購買履歴データを用いた市場機会の発見-』(白桃書房、編著、2008年)、「ショッパーマーケティング」(日経、共著、2011年)。小売業のトップとのインタビューを「流通情報」(リーダーの戦略)に連載など。
第3講「セブン-イレブンのPBによる差別化戦略:「7プレミアム1兆円への挑戦」

株式会社セブン-イレブン・ジャパン取締役常務執行役員商品本部長 鎌田 靖氏からはセブン-イレブン・ジャパンが2009年以降、「近くて便利」をめざした新生7イレブンとして導入を進めてきた7プレミアムやゴールドが、欧米での展開を含めてこれまでのPBの歴史と常識を大きく打ち破る新しいPBとしての姿を示していただきました。

ダブルチョップのかたちでメーカー名を出していることも、「価値を訴求した差別化オリジナル商品の開発」に対する消費者の心理や期待に最大限応えるという責任を果たすために、むしろメーカー以上にメーカーらしい、飽くなきブランド価値の追求に向けた探求心なり向上心を持っておられることに参加者も大いに納得しました。

そして今日の7プレミアムの成功はそうした取り組みだけでなく、従来から尽力されてきた自主MDやSCMなどによって構築されたセブンイレブンの圧倒的な店舗力、それを支える優れた経営力と人財力、共同開発に一緒に取り組んでいるメーカーとの厳しい緊張関係をともなう連携がもたらしていることも良く理解できました。 今日小売店頭でなされているNBとPBの競争や協調、"共存共栄"も「新しさ」と「驚き」のある圧倒的な価値に対する消費者のニーズや期待という観点から見直さなければならないのではないことが鎌田講師から示されました。

7プレミアムやゴールドの今後の展開が非常に注目されるところです。ただグローバル展開も含めてPBが質量共に大きく成長しようとする際、すでに一部で進められてきている健康軸や環境軸、非食品カテゴリーで展開されている「日常を上質に」をコンセプトにした7ライフスタイルに見られるように、Tescoをはじめとする欧米のグローバルリテイラーのようなSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)をふまえたサブブランドの活用を通じたフルライン化も選択肢に入るのではと思われます。

MUJIやユニクロのような商品そのもののブランディングを超えて、小売店舗やmade in Japan企業としてのセブンイレブンそのもののブランディングも必要になってくると考えられます。

鎌田 靖氏
株式会社 セブン-イレブン・ジャパン取締役常務執行役員 商品本部長

Profile:1958年 10 月5日生まれ。1982年3月株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社。2006年5月執行役員 商品本部雑貨部長、2009年5月常務執行役員 商品本部長、2011年5月取締役常務執行役員 商品本部長〔現職〕。株式会社セブン&アイ・ネットメディア取締役、株式会社セブン&アイ出版取締役、株式会社セブンネットショッピング取締役を兼任。
◇パネルディスカッション

続いてコーディネーターの陶山理事長と二人の講師に加えて当研究所の東京専門部会委員会で事務局を担当しているマックス・コム株式会社代表取締役社長 高木克典氏を交えながら今回のテーマに沿ってディスカッションがなされました。

まず、1990年代から続く価格訴求型を中心としたかつてのPBが衰退していったのとは異なって今日のPBが大きく成長してきた要因について、セブン-イレブン・ジャパンの鎌田常務からは、PBでもNBでも安くしても売れないものは売れない。

メーカーからNBづくりの先進的な経験を学びながら、価値を訴求してお客様に新しさと驚きを与えるもの、「この商品すごいね」というPBづくりをしてきたことが消費者に支持された理由であることが強調されました。逆にメーカーはNBに自信をなくし、価格訴求になっているとの指摘もなされました。

中央大学の中村教授からは知覚品質を考えた時に、パッケージや小売業の企業イメージが大きな影響を与えるが、そうした点でセブン-イレブンやイオンなどはユニクロなどと同じように、テレビのCMも含めてコミュニケーションを行うことによって消費者とのミスマッチをなくしながら高い知覚品質を形成することに成功したのではないかという見方が出されました。

同時にPBにはリニューアルがなかなか簡単にできにくいのではないかとの指摘もなされました。マックス・コムの高木社長からは、セブンプレミアムなどのPBはもはやNB対抗商品ではなく、新しいカテゴリーを創造しようとしている反面、メーカーは近年新しいカテゴリーや代名詞を作ることができなくなってしまったことがPBの伸張を許した大きな理由であるとのコメントをいただきました。

パネリスト: 中村 博氏(中央大学 ビジネススクール教授)
鎌田 靖氏(株式会社 セブン-イレブン・ジャパン取締役常務執行役員商品本部長)
高木克典氏(マックス・コム株式会社代表取締役社長)
コーディネーター:陶山 計介理事長
◇質疑応答

会場からは、食品メーカーの方から、テレビを含む広告など7プレミアムのマーケティングやブランディングに対する投資を今後増やしていくつもりなのかどうかについて質問がありましたが、テレビCMがブランドの構築のひとつになり、実際にやってはいるが、小売業としての最大の宣伝やコミュニケーションの場は売り場であり従業員であること、ただそれらに加えてストアのイメージも大事であるとの回答がありました。

またPBの開発部門や227名というスタッフを今後増やしていくかどうかという質問については、7プレミアムやゴールドの開発は専任のスタッフによってではなく、マーチャンダイザーやバイヤーが兼任のかたちで行っているが、それは常に売り場との密接な連携や現場感覚が不可欠であるからであり、またスタッフの人数もそれほど増やしているわけではなく、逆にバイヤーの人数は減っている、ということでした。

◇閉会の挨拶

最後に、閉会の挨拶として、鶴本祥文事務局長から各講師、参加者の皆様への謝意や各講師への感想が述べられ、閉会となりました。

◇総括

今回の東京第三回フォーラムは、7プレミアムやゴールド、またトップバリュ、コープやCGCなどに代表されるPBの動向が、NBを中心としたメーカーのブランド戦略に影響を及ぼすだけでなく、小売業の今後の発展、メーカーとの連携や競争のあり方を左右するものとして、ますます目が離せない重要な要因のひとつであることを痛感させる機会となりました。

そしてPBの調査研究は、メーカーやサービス、あるいはB to Bビジネスにも共通した課題であり、また中小・中堅企業のブランド戦略にとっても多くの示唆を与えるものであると言えます。鎌田常務と中村先生お二人の非常に論旨明快で歯切れの良いご講演はすべての参加者に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。お二人には厚くお礼申し上げます。

2013/07/10

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