HOME» 定例研究会開催レポート »【開催レポート】2018年6月度 東京第12回フォーラム
定例研究会開催レポート
【開催レポート】2018年6月度 東京第12回フォーラム
一般社団法人 ブランド戦略経営研究所では、毎年恒例になっている東京第12回フォーラムを6月22日(金)、関西大学東京センターで開催。関西大学東京経済人倶楽部カイザーオープンセミナーと共催しました。テーマは「AI&IoT時代におけるブランド構築とビジネス・イノベーション」です。
インターネットやスマートフォンの急速な普及、IoTやAIなど新しい波が押し寄せるなかで、インターネットやスマホなどを通じて“つながる製品”や“つながる企業”が今後ますます台頭していくことが予想されます。このような時代背景にふさわしい新たなビジネス機会やグローバルなブランド戦略について考察していきます。
高木克典当研究所事務局長(マックス・コム株式会社代表取締役)の司会のもと、まず当研究所の陶山理事長より東京第12回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の事業概要、今回のフォーラムの解題がありました。
関西大学東京経済人倶楽部 大津武氏より関西大学東京経済人倶楽部のご紹介と、ブランド戦略経営研究所東京フォーラムと共催するに至った経緯についてご説明いただきました。
一般社団法人ブランド戦略経営研究所 理事長 陶山計介
当研究所はブランド力の回復、国内外の競争力向上、東アジア諸国との協調・連携を目的としており「経営-マーケティング-知財の三位一体」を目指すシンクタンクです。
AI&IoTは、第4次産業革命、第3次IT革命を引き起こしつつあります。自動車業界におけるEV、運転技術をはじめ、家電や電子産業、住宅業界、食品、医療、金融、サービスなど生活のあらゆる分野がネットワーキングされるなかで“つながる製品”“つながる企業”“つながる生活者”が台頭してきています。Airbnb、Uber、instacartなどをはじめシェアリングエコノミーの新たなプラットフォーム、ソーシャルメディアによるコミュニティも登場しています。
時代が大きく変化する中で、ブランドを情緒や経験といった心理的・行動的な要素で捉え直す一方、安心、安全、絆、社会支援などの視点も取り込むことが求められています。
今回のフォーラム開催の趣旨は、このような時代状況にふさわしい新たなビジネス機会やブランドの新しい役割を探ることです。画期的な事業や商品、さらに情報を集め交流する場、モノやサービス展開の土台となる環境、売り手と買い手を結びつける場である「プラットフォーム」の革新が迫られています。それこそが、シュンペーターの「イノベーション」(「新結合」)であり、クリステンセンの「破壊的なイノベーション」にほかなりません。
従来はブランドを中心にしてコミュニティが形成されていましたが、今日では中核にブランドあるいは企業がなくても、生活者自身がコミュニティを形成しています。プラットフォームビジネスがイノベーションの中核となりつつある中で、プラットフォームのハードとソフト、さらにブランドの機能、役割をトータルに検討して考察していきます。
インターブランド ジャパン代表取締役社長 兼 CEO 並木将仁氏
並木氏からは、AI&IoTの時代においても、ブランドは事業の成長に欠かせない存在であり、これからのブランドは、役割はもちろん存在意義が大きく変容していくというお話しを伺いました。
ブランドは、消費者の商品選択を促す機能でもありますが、AI&IoT が「必要なタイミングで論理的で最適な選択肢へのアクセス」を提供するようになれば、従来ブランドが担っていた消費者の“選択する意思決定”をAI&IoTが担う可能性があります。
その中でブランドに求められる変容は「ブランド関与の方向性変化」と「ブランド要素の比重変化」です。「ブランド関与の方向性変化」がもたらす「直感と反直感の間の揺らぎ」とは、ブランドの魅力によって、今まで購入し続けていた商品から同カテゴリーの別商品にスイッチさせるような行動変容を指します。
またブランドには「合理的な意思決定を保証」する場合と、「非合理的な意思決定を促す」場合がありますが、AI&IoT の「必要なタイミングで論理的で最適な選択肢へのアクセス」の提供により「非合理的、反直感的な意思決定を誘引し、総合的な体験を訴求すること」がブランドの役割となります。そのためには包括的なブランド体験を提供し、ブランドの中核概念をどのように顧客に届けるかが重要になってきます。
ブランド体験、中核概念を顧客に届けるタッチポイントは以下の4つです。
①商品サービス②空間チャネル③人と行動④コミュニケーション
ブランドの成否を左右するカギになるのは「らしさ」の作り込みと磨き上げです。
自社ブランドの「らしさ」を実現させるポイントは以下の5つです。
①関係の転換②理解の進化③体験の拡張④行動の拡大⑤概念の崩壊
日本企業はブランドの重要性を理解しているとは言えず、このままではブランド、カルチャー、イノベーションを有機的に融合し、戦略的な局地戦を展開している海外企業には勝てません。ブランドを推進させブランドをビジネスに拡散、波及させていく必要があります。
消費者の選択機会が減り、さらに選択が均一化した今日、ブランド機能の変換の必要性を意識するとともに、ブランドに対して全社的に取り組んでいく重要性について提起を受けました。
インターブランド ジャパン代表取締役社長 兼 CEO
Profile:PwC, McKinsey & Co, Kurt Salmon等において成長戦略を中心にコンサルティングを実践し、現在はInterbrand Japanの代表としてブランドを介した企業成長を支援。特に、ブランドと経営の融合をトップレベルで実現することによる、日本企業の飛躍的成長に注力。Boston University (BSBA)を卒業後、 HEC Paris (MBA), UTDT(MBA) 修了。
日産自動車株式会社 取締役・株式会社産業革新機構 代表取締役会長(CEO) 志賀俊之氏
志賀氏からは、自動運転、シェアリング時代、MaaS(Mobility-as-a-Service)、モビリティ新時代における自動車会社の立ち位置やブランド戦略についてお話しいただきました。
第四次産業革命(AI&IoT)によって、サイバー空間とフィジカル空間を融合するSociety5.0、「必要なモノが、必要な時に、必要なだけ」提供される超スマート社会が到来します。これにより最適な量が、最適な人に提供されるので、従来の大量生産、大量輸送、大量消費、大量廃棄だった社会システムは崩壊し、社会課題が解決されていくことが期待されています。
アダムスミスの「国富論」“神の見えざる手”ではないですが、あらゆる情報がビッグデータになるので、“データの見えざる手”が需要と供給のバランスを取るようになり市場の歪みを解消するかもしれません。
今日ではお客様の欲求が「モノ・サービス」から「感動・幸福感」にシフトしているので、我々もモノ(提供する価値)からコト(受け取る価値)へ提供価値をシフトして訴求しなければいけません。またサービタイゼイションやシェアリングが広まり、所有する喜びが低下傾向にあります。
Amazonに代表されるプラットフォーマ―のEコマース(電子商取引)の規模は年々巨大化し、消費者もメルカリなどでC2Cのやりとりをする時代において、ブランドをどう考えるかは非常に重要な課題です。
これからはCASE(C:Connected A:Autonomous S:Sharing E:Electrification)の時代です。温暖化抑制のためにCO₂削減が世界共通の課題となり、世界中でガソリン車・ディーゼル車の販売禁止が進んでいます。
国際エネルギー会議で、2050年の地球温度上昇を2℃に抑えるという長期エネルギービジョンの取り決めがなされ、2030年にはEV車が全体の50%、2040年には全新車がEV車かFCV化されると予想されています。
電動化によって自動車業界の新規参入が増え、自動運転車の開発競争も激化しますが、車同士が車間通信で制御し合うので交通事故は劇的に減ります。
Google、Apple、UberなどシリコンバレーのIT企業も自動運転に参入していますし、中国のIoTと繋がっているナショナルブランド車は、大きく成長しています。
これまでは製造者が主導権を握る構造でしたが、これからはプラットフォーマ―がモビリティライフを支配するようになります。MaaSの中で有効なブランド戦略は徹底的に所有の喜びを追求することだと考えています。
自分だけの車をお客様にデザインしていただいてコストはかかるが所有の喜びを提供する。MaaSの世界でどうブランド化するかというのは難しい課題ですが、真剣に検討しなければ自動車会社がプラットフォーマ―の下請け会社になってしまうという懸念があります。三代に渡って所有する喜びを提供し、機械式自動巻きをブランド化したスイスの時計会社を例に挙げながら、コモディティー化していくモノづくり企業の戦略を垣間見ることが出来ました。
日産自動車株式会社 取締役・株式会社産業革新機構 代表取締役会長(CEO)
Profile:1976年大阪府立大学経済学部卒業、日産自動車入社。同アジア大洋州事業本部・アジア大洋州営業部ジャカルタ事務所長、同企画室長、同常務執行役員、同代表取締役最高執行責任者、同代表取締役副会長を経て、2017年6月より現職。2015年6月より株式会社産業革新機構 代表取締役会長(CEO)も務める。
陶山理事長(上左)大石教授(上右)志賀氏(下左)並木氏(下右)
並木将仁氏:インターブランド ジャパン代表取締役社長 兼 CEO
志賀俊之氏:日産自動車株式会社 取締役・株式会社産業革新機構 代表取締役会長(CEO)
大石芳裕氏:明治大学経営学部教授
コーディネーター:陶山計介 当研究所理事長・関西大学商学部教授
陶山理事長による進行の下、2名の講師と大石教授が加わり、今回のテーマに沿ってディスカッションがなされました。
今日の時代状況をどう捉えているのか。テクノロジーの変化、情報の非対称性、プラットフォームビジネスなど、それぞれの側面からどの様にブランドが変化していくのかが論点になりました。
大石教授からは、欧米企業と比較し日本企業におけるブランドの位置づけの低さについて問題提起され、またビジネスの基盤・中核となるプラットフォーマ―へシフトしなければ生き残れないという指摘がなされ白熱した議論が展開されました。
参加者の皆さんからは
・社内でのブランド像の統一、提供価値を理解して事業戦略に繋げる重要性、ブランドは現場の汗であり、お客様との信頼の結果であることを再確認した。
・車より顧客接点を持っている運転手をブランド化してはどうか。
・プラットフォーマーにならないと勝負にならないというのは理解したが、全ての業界がプラットフォーマーを目指すべきなのか。
・BtoBのブランド戦略についても聴きたい。
・グローバルなブランディングの展開方法について。
などの感想や質問が相次ぎ、活発な質疑応答がなされました。
最後に、3名のパネリストから本日の講演やパネルディスカッションを通じて得られた気づきについてお話しいただきました。
最後に、関西大学東京経済人倶楽部 大津武氏より次回BSIフォーラムおよび関西大学東京経済人倶楽部カイザーオープンセミナーのご案内と、講師、参加者の皆様への謝意が述べられ、無事閉会となりました。
今回の東京第12回フォーラムは、AI&IoT時代の到来により、ブランドに求められる役割の変容、ブランドが提供する「らしさ」、提供価値について講師の方々の熱量を感じたご講演でした。並木講師、志賀講師、大石教授それぞれのお話の具体的な事例と論旨の明快さが会場に共感を呼び、その後のパネルディスカッションでは議論の深まりの中で多くの方々に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。ご講演いただきまして厚くお礼申し上げます。
2018/06/22 |