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【開催レポート】2018年10月度 東京第13回フォーラム

AI&IoT時代におけるブランド構築とリテール・イノベーション

「一般社団法人 ブランド戦略経営研究所」では、毎年恒例になっている東京第13回フォーラムを10月17日(水)、関西大学東京センターで開催いたしました。「関西大学東京経済人倶楽部」との共催で、「カイザー・オープン・セミナー」としても2回目の開催となりました。テーマは「AI&IoT時代におけるブランド構築とリテール・イノベーション」です。

世界の自動車市場規模200兆円の15倍に相当する3000兆円の市場規模を持つといわれ、日々の生活や多くの産業に影響を与える小売市場を取り上げながら、「スマートストア構想」の現状と課題についてお話しいただきました。

・AI、カメラ、電子タグなど様々なツールを用いた流通のデジタル化
・ID-POSを使ったパーソナライズされたプロモーション展開
・価値共創の可能性を追求
・ECに対抗できる魅力と効率の高い店舗づくり
・小売・メーカーの枠を超えた共通のプラットフォームづくり

これらの実現に向けた先進的な取り組みや実証実験、またその意義について皆さんと共に広く考えていきました。

主催者開会の挨拶

高木 克典 当研究所事務局長(マックス・コム株式会社 代表取締役)の司会のもと、まず当研究所の陶山理事長より東京第13回フォーラム開催のご挨拶及び当研究所の事業概要、今回のフォーラムの解題がありました。
 

関西大学 東京経済人倶楽部のご紹介<

もう一方の開催者である関西大学 東京経済人倶楽部を代表して、大津武氏より、同倶楽部のご紹介と、多くの参加者にお集りいただいたことへの謝辞が述べられました。
 

オープニングスピーチ

一般社団法人 ブランド戦略経営研究所 理事長 陶山 計介

当研究所はブランド力の回復、国内外の競争力向上、東アジア諸国との協調・連携を目的とした「経営-マーケティング-知財の三位一体」を目指すシンクタンクです。

今回のテーマは「AI&IoT時代におけるブランド構築とリテール・イノベーション」。「第4次産業革命」、「第3次IT革命」について各所で様々な議論が行われていますが、その中でも新たなプラットフォームや、従来とは異なる時間や空間を共有できるソーシャルメディアによるコミュニティの登場は、社会・経済に多大な影響力を及ぼしています。

Amazonを中心としたECに対抗する手段は何か、リアル店舗がどうそれに対応していくかが大きな焦点となっています。その大きな一手といえるのが「スマートストア構想」です。

スマートストアとは、消費者の「ニーズ」と商品の「価値」との最適なマッチングを実現する店舗のことを指します。お客様と企業が価値を共創し、魅力的な店舗、魅力的なブランド、魅力的な買い物体験をどのように提供していくのか。スマートストア構想の現状と課題について考えていきます。

第1講「スマートストアが実現する次世代のマーケティング」

経済産業省 消費・流通政策課 加藤 彰二氏

加藤氏からは、まず人手不足、新たな需要の獲得が大きな課題となっている国内の小売流通業の現状についてご説明いただき、課題の打開策としての様々な取り組みについて、ICT化の推進、そしてサプライチェーン全体の効率化を目指す取り組み等について、行政の立場からお話しを伺いました。

日本の流通産業の規模は、産業別GDPでみると、製造業に次いで2番目の規模で、産業別就業者数は、製造業を上回っています。

流通を取り巻く環境の変化には厳しいものがありますが、日々の生活において重要な基盤である流通をどのようにして今後も持続可能にしていくかは、行政の大きな課題のひとつです。

個社で最適化に取り組んでいても、サプライチェーンの事業者間のムダ、例えば食品ロスや事業者間の返品などまだまだ改善の余地があるため、サプライチェーン全体で情報を共有し、データを利活用することにより、最適化していくことが重要ではないかと考えています。

ECは年々市場規模が拡大しており、2017年度で見ると、物販の5.8%がECです。今後リアル店舗での需要はますますECに移行していくと予想されます。ECでは消費者の行動履歴や購買データ、属性などを分析し活用することでサービスの質を高めていますが、リアル店舗でもデータを取得して活用することができる「スマートストア」が展開され始めています。

こうしたネットやリアルから集まるビッグデータを、国内においては商品メーカー、流通、小売の各事業社が協調してデータを共有することが、海外のデジタルジャイアントと呼ばれるプラットフォーマ―に依存することなく、消費者への新しい購買体験、ブランド価値を創出していくうえでも非常に重要だと考えています。

今後価値を生み出す起点となるのは、データが繋がる世界、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合する「スマート社会」です。経済産業省では、これを産業論に落とし込んだ「Connected Industries」を考えています。

事業所・工場、技術・技能等の電子データ化は進んでいますが、それぞれバラバラに管理され、連携されていません。サプライチェーンを連携させることで、データが繋がり、有効活用され、技術革新、生産性向上などを通じた課題解決が図られるのではないかと考えています。

流通小売におけるスマート化として、サプライチェーン上の在庫や配送状況を可視化し、標準フォーマットで共有し、サプライチェーンをデータで繋げる、次のような取り組みを進めています。

・RFID(電子タグ)の実装実験(2017年2月ローソンレジロボ)
・「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」策定(2017年4月)
・RFIDを用いたサプライチェーンの在庫情報共有実験(2018年2月)
・電子レシートの標準化に向けた実証実験(2018年2月)
・ドラックストア スマート化宣言策定(2018年3月)
・カメラ画像利活用ガイドブック作成(2018年3月改訂)

カメラ画像の活用は、日本ではマーケティング目的で用いようとした時に、生活者が感じる不安に対し、どこまで配慮すると事業者にとっても生活者にとってもよい事例となるか配慮事項の基準をガイドラインとしてまとめました。

電子レシートは、キャッシュレスの普及に伴いペーパレス化が進んでいくため、購買トランザクションが分かるという特性に着目し、発行する小売事業者にとってもメリットになり消費者にとっても便利なツールになるような事例の創出を推進しています。

今年度はこうした取り組みを統合し、電子タグ、キャッシュレス、電子レシート、カメラなど様々なツールを組み合わせて、新しいユーザー体験の創出を目指していきたいと考えています。

​スマートストア実現に向けた様々な取り組みを各方面と協働されている様子を垣間見ることが出来ました。

第2講「リアル店舗小売企業のデジタルトランスフォーメーションおよびキャッシュレス化に向かう挑戦事例」~No.1リテールテクノロジーカンパニーを目指して~

株式会社トライアルホールディングス グループCIO 西川 晋二

西川氏からは、「ITの力で流通を変える」をテーマに、自社で開発された「e3-SMART」でAIデータを駆使しながら、独自に取り組まれている流通改革についてお話しを伺いました。

トライアルは、Walmartに学び、日本型スーパーセンターを展開し、ITの力で流通の効率化、データ活用をはかることで流通改革に取り組んでいます。トライアルの600万人のアクティブ会員から収集した購買データと、10年以上にわたるID-POSデータを分析、活用するために、自社開発データ処理・分析・自動発注基盤「e3-SMART」を開発しました。

また先進的な技術を搭載したWebGISを自社で開発しており「RetailMAP」では地図上に様々なデータを展開することができます。消費者データや、売上、来店回数などがビジュアル化され、自社の位置と、競合店の位置なども表示されます。複数の店舗の関係性や、カニバリゼーションの状況まで把握できるので、最適な出店候補地を「自動探索」することができます。

トライアルでは、「MD-Link」という仕組みを活用し、商品を導入したメーカーに対して140億件の顧客ID付POSデータを公開しています。商品メーカーと協同でカテゴリーマネジメントに注力することで、お客様の求めるより良い品揃えを実現し、売上と収益の改善を図っています。

データ分析機能バブルチャートを用いると、データ分析にかかる時間も人員も大幅に削減できるため、AIによる自動化を進めています。

トライアルのレシートクーポン(PPM:Pinpoint Marketing)は、従来型の全員を対象にしたバラマキではありません。特定の顧客に値引きや単品ポイントを提供することで、コスト効率のよいクーポンサービスを実現し、ロイヤリティUP、お客様の離脱防止、プロモーション・販売促進の効率UPが期待できます。

PPMの取り組みにおける、ターゲットマーケティング手法は以下の3つです。

一つ目は、カテゴリー新規客の開拓。
二つ目は、ブランドスイッチ。
三つ目は、リピート。継続購入を促すために様々な数値分析を行っています。

トライアルでは、ID-POSを駆使し、ターゲット抽出の自動(AI)化を進めています。リテールメディアの新しい取り組みとして、ダブレットがショッピングカートに搭載されたスマートレジカートの導入を進めています。

タブレット付きカートの画面では、クーポンが表示され、様々なプロモーションが展開されます。紙媒体と比較すると、より高い効果が期待できます。またレコメンド機能、決済機能が搭載され、ポイントも貯まるというお得感を提供しながら、レジ待ちのストレスのない決済を実現しています。

リテールAIの手法として、アプリ、レジカート、店内カメラを駆使しています。

人の目で現場管理を行っている現状から、これからはAI活用により最適化された自動運営に変わっていきます。消費ニーズの総体に対して、店舗の訴求力がマッチングしているところに購買行為が発生します。AIを駆使することによって、品揃えや価格など複雑な要素を、さらに高い精度で網羅しマッチングさせることができるようになります。

今年2月に最先端技術を導入したアイランドシティ店がスタートしました。スマートカメラ700台、スマートレジカート100台強を導入することで、新しい買い物体験を提供しています。

「顧客データ」、「売り場、棚割りの状態」、「お客様の店内行動と販促」がデジタルで管理、実行されることでマーケティングに変革が起きています。

商圏データ、市場POSデータ、ID-POSデータ、リテールメディア、スマートカメラを活用して、我々小売のマーケティングをメーカーに提供していきたいと考えています。

店内カメラでは、人流、物流を感知して、ヒートマップ化して表示することができます。カメラで追跡した情報のマーケティング活用については、議論の対象となっているので、開発を進めながらも、行政のガイドラインに則って認知を広げていきたいと考えています。

​リテールAIで日本の流通小売業、マーケティングの有り方を変えていき、九州から世界市場へチャレンジする取り組みについてお伺いでき、たくさんの刺激を受けました。

西川晋二氏
トライアルホールディングス 取締役副会長 グループCIO/ティー・アール・イー 代表取締役社

Profile:1982年松下電器貿易(現Panasonic)入社、1987年米国Panasonic(シリコンバレー支社)出向を経て1993年Panasonicディスクシステム事業部、帰任。1996年トレーサーテクノロジージャパン設立、代表取締役就任。2002年 トライアルカンパニー入社。ティー・アール・イー代表取締役、トライアルカンパニー グループCIOなどを歴任。2016年7月より現職。
◇パネルディスカッション

陶山理事長(上左)加藤氏(上右)西川氏(下左)高橋氏(下右)

パネルディスカッションの前に、株式会社ドゥ・ハウス高橋氏より「スマートストアが生活者にとって楽しい買い物を作るか?」をテーマにお話しいただきました。


株式会社ドゥ・ハウス 高橋 康平氏

「Amazon Go」を視察してみて、ウェブルーミング、スマートストアという視点から、最適化された新しい価値を付加した売り場の可能性を感じました。

日本における食品購入の利用業態を調べた結果、若い世代より上位世代の方が食品のまとめ買いをしていることが分かりました。コンビニだけは上の世代、下の世代関係なく利用されているので、利便性の高いコンビニを超えるスマートストアの研究は難しいだろうなと思っています。

「Amazon Go」のスマホで決済できる点はとても魅力的です。買物のストレスを減らす楽しいお店作りがポイントだといえるでしょう。

高橋 康平氏
株式会社ドゥ・ハウス リサーチグループ兼海外事業部

Profile:店頭での購買行動や、データ分析・データ収集を軸に、ショッパーインサイトをひも解くためのリサーチサービスの責任者として、プロジェクト運営、提案を行っている。また、N=1にこだわり、さまざまな視点でアプローチをする情報誌The Oneの編集長を務める。現在は同社の海外 事業から、地方拠点ドゥ・ハウス西日本DCの立ち上げから運営まで幅広い分野にて活動を行っている。

ここからは陶山理事長による進行の下、2名の講師とドゥ・ハウス高橋氏が加わり

①スマートストアの現状と課題
②「Amazon Go」、ECに対抗できる魅力のあるスマートストアの構築、実現について
③AI&IoT時代におけるブランド構築とリテール・イノベーション

従来考えられていたブランド、ブランディング、ブランドマーケティングの課題がどう変化していくかについてディスカッションされました。

パネリスト:
加藤 彰二氏:経済産業省 消費・流通政策課
西川 晋二氏:株式会社トライアルホールディングス グループCIO
高橋 康平氏:株式会社ドゥ・ハウス リサーチグループ兼海外事業部

コーディネーター:
陶山 計介 当研究所理事長・関西大学商学部教授

参加者のみなさんからは、
・スマートストアの取組に対して、世代ごとの受け止め方に違いはあるか
・ドローンやロボティクスが明確に機能しないかぎり、物流の人手不足によるコストの上昇は避けられないのでは
・無人店舗はいつ実現するか
などの感想や質問が相次ぎ、活発な質疑応答がなされました。

また、遼寧大学霍春輝教授より中国の無人化店舗の現状と取り組みについてご教授いただき、最後に、3名のパネリストから本日の講演やパネルディスカッションを通じて得られた気づきについて発表いただきました。

◇閉会の挨拶

最後に、関西大学東京経済人倶楽部 大津武氏より次回BSIフォーラムおよび関西大学東京経済人倶楽部カイザー・オープン・セミナーのご案内と、講師、参加者の皆様への謝意が述べられ、無事閉会となりました。

◇総括

今回の東京第13回フォーラムは、流通を取り巻く環境の変化、サプライチェーンの連携の必要性、AIがもたらす小売の新しい提供価値について等、講師の方々の熱量を感じることができたご講演でした。加藤講師、西川講師、高橋氏それぞれのお話の具体的な事例と論旨の明快さが会場に共感を呼び、その後のパネルディスカッションでは議論の深まりの中で多くの方々に深い感銘を与え、大変貴重な機会になりました。ご講演いただきまして厚くお礼申し上げます。

2018/10/17

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